ベンチャーキャピタルとは
ベンチャーキャピタル(Venture Capital、VC)とは、将来的に高い成長が見込まれる未上場企業に投資を実行する会社を指します。
未上場のスタートアップ企業やベンチャー企業は、事業実績が乏しく、銀行からの資金調達が難しい場合があるため、ベンチャーキャピタルは、そうした新興企業に対して資金を提供します。
ベンチャーキャピタルの種類
ベンチャーキャピタルの種類は、主に以下のように分かれます。
種類によって特徴がありますので、自身の会社に合ったベンチャーキャピタルを選ぶことが大切です。
VCの種類 | 例 |
---|---|
①金融機関系ベンチャーキャピタル | メガバンク系列(三菱UFJキャピタル、みずほキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル等) 地銀系ベンチャーキャピタル(横浜キャピタル等) 生保系ベンチャーキャピタル(ニッセイキャピタル等) |
②独立系ベンチャーキャピタル | ジャフコ、日本アジア投資 等 |
③大学系ベンチャーキャピタル | 東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大ICP)等 |
④政府系ベンチャーキャピタル | DBJキャピタル、地域経済活性化支援機構(REVIC)等 |
⑤事業会社系ベンチャーキャピタル | NTTドコモベンチャーズ、STRIVE 等 |
⑥地域特化型ベンチャーキャピタル | 北海道ベンチャーキャピタル、新潟ベンチャーキャピタル等 |
⑦海外系ベンチャーキャピタル | Sequoia CapitalやAmazon、Kleiner Perkins Caufield & Byers(KPCB)等 |
ベンチャーキャピタルの投資目的とは
ベンチャーキャピタルの投資目的は、投資した未上場企業が上場した際や、他の企業に買収される際に保有していた株を売却し、株式売却益を得ることです。
そのために投資した企業に対して資金提供や経営助言、役員派遣などを行い、企業価値を高めます。
またベンチャーキャピタルは、他の投資家から資金を預かって運用しているケースが多く、保有しているベンチャー企業株式の売却益を投資家に分配するといったことも行います。ハイリターンを狙う積極的な投資姿勢が特徴です。
最終的に、保有株式を売却して利益を得ることが目的であるため、どのような会社・事業が将来的に成長して利益を生むのかという「目利きの能力」がベンチャーキャピタルには求められます。
ベンチャーキャピタルと銀行融資の違い
ベンチャーキャピタルと銀行融資の最大の違いは返済義務の有無です。
● ベンチャーキャピタル…返済義務はない
● 銀行融資…返済義務はある
銀行から融資を受けた場合、得られた資金は「負債」となるため、企業は利息を含めて返済する義務が発生します。一方、ベンチャーキャピタルは融資ではなく出資のため、得られた資金は「資本」となるので返済義務はありません。
また、銀行は融資をする際に、企業の信用と担保をもとに審査を行います。そのため、実績がない企業だと、審査に落ちて融資されない可能性があります。
ベンチャーキャピタルの場合は、ビジネスの成長性や事業計画などをもとに審査が行われるので、現時点で実績がない企業でも出資を受けられるケースがあります。
ただし、ベンチャーキャピタルが出資する目的は、出資した企業が上場したことで得られる利益です。
上場が見込めない、あるいは上場しても利益を得られないと判断されると、所有している株式を買い戻すことを求められます。資金の返済義務はありませんが、出資してもらった資金相当の金額を返済する可能性はあります。
ベンチャーキャピタルとクラウドファンディングの違い
ベンチャーキャピタルとクラウドファンディングの違いは次の3つになります。
出資者への見返り
クラウドファンディングとは、インターネットを通じて不特定多数の投資家から出資を募る方法です。不特定多数の人物に対して自社のサービスやプロジェクトを公開し、出資してくれた方に対して何かしらのリターン(見返り)を提供します。
● ベンチャーキャピタル…出資者に未公開株式を渡す
● クラウドファンディング…出資者に分配金や売却益、未公開株式などを渡す
クラウドファンディングの種類や企業の事業内容にもよりますが、リターンの内容を株式に限定していないのがベンチャーキャピタルとの大きな違いになります。
集められる資金の規模
ベンチャーキャピタルは多くの投資家から資金を集められるため、まとまった資金を一度に出資してもらえます。なお、金融庁の資料によりますと、1案件あたりの平均投資金額はその年によって変動しますが、おおよそ1~2億円の間を推移(※1)しています。
一方、クラウドファンディングは個人投資家から少額を直接集める手法のため、素早く資金を集めることは可能ですが、資金規模はベンチャーキャピタルよりも少なくなります。金融庁の資料では、1件あたりの平均調達額は約3,178万円(※2)としています。
● ベンチャーキャピタル…1案件あたりの平均投資額は約1~2億円
● クラウドファンディング…1案件あたりの平均調達額は約3,178万円
つまり、ベンチャーキャピタルのほうが、資金の規模が大きくなっています。
(※1)出典元:金融庁 令和2年11月13日 事務局説明資料(成長資金の供給のあり方に関する検討【総論】)
(※2)出典元:金融庁 令和3年2月18日 事務局説明資料 (成長資金の供給のあり方に関する検討)
経営への直接的な介入
ベンチャーキャピタルには出資の見返りにまとまった株式を渡すため、企業に対して経営方針や経営戦略に口を出し、取締役会を開催するように求めることができます。
経営への直接的な介入をされるリスクはありますが、ベンチャーキャピタル側から事業提携や人脈の紹介などのサポートを受けられます。
クラウドファンディングは不特定多数の投資家に株式を分配するので、企業の経営に介入されることはありませんが、サポートを受けられません。
また、クラウドファンディングだと、出資した不特定多数の投資家に対して情報開示や発信を行う義務が発生します。
● ベンチャーキャピタル…経営への直接的な介入や支援がある
● クラウドファンディング…経営への直接的な介入や支援はない
クラウドファンディングのほうが比較的、事業の自由度が高いといえるかもしれません。
ベンチャーキャピタルから出資を受けるには
ベンチャーキャピタルからの出資は、ベンチャー企業にとって有力な資金調達方法であるということがわかったと思います。では、実際にベンチャーキャピタルから出資を受けるためにはどうすればよいのでしょうか。
魅力的な事業であること
当然のことですが、出資を受けるためには事業が魅力的でないといけません。金融機関から融資を受けるときには信用や担保が必要なように、ベンチャーキャピタルから出資を受けるためには、事業の魅力が必要なのです。同時に、技術力や将来のビジョンなどで同業他社との差異をアピールできるとよいでしょう。
経営陣の実績
見落とされがちな要素かもしれませんが、経営陣の実績はベンチャーキャピタルから出資を受けるための重要な要素です。経営陣に十分な経験やその分野の確かな知識がなければ、明確な根拠に基づいた事業戦略を立てることができないとみなされてしまうからです。
金融機関ほど保守的ではないものの、ベンチャーキャピタルも当然リスクの高すぎる企業には出資ができません。事業計画を実現させる行動力があると評価してもらうことができるように、経営陣の実績をアピールできるとよいでしょう。
EXIT戦略があること
EXIT戦略があることは、ベンチャーキャピタルから出資を受けるための重要なポイントです。なぜなら、ベンチャーキャピタルは出資して手に入れた株式を将来的に高値で売却することで利益を得るからです。
EXITには、IPOとバイアウト(M&A)が挙げられますが、ベンチャーキャピタルから出資を受けるにはIPOをEXITに見据えた戦略が好まれます。IPOのほうが手間や難易度などでハードルは高いですが、EXIT時に得られる収益が大きいからです。出資を受けるためにはEXIT戦略まで決めて、伝えるようにしましょう。
ベンチャーキャピタルの選び方
ベンチャーキャピタルのメリット・デメリットなどを紹介しましたが、情報を踏まえたうえで、ベンチャーキャピタルの選び方を紹介します。ベンチャーキャピタルからの出資を検討されている方は、選び方を確認しておきましょう。
事業に必要なサポートをしてくれるか
ベンチャーキャピタルは企業の成長のため、サポートをしてくれます。ただし事業に必要でないと思われるサポートをされてしまうと、企業とベンチャーキャピタルの意図がずれてしまう可能性があります。
そのためベンチャーキャピタルを選ぶときには、受けられるサポートの内容を確認しておきましょう。事業に必要なサポートをしてくれるベンチャーキャピタルであれば、いいパートナーになれる可能性が高いです。
事業に関係する提携先があるか
ベンチャーキャピタルを通じて提携先を探している場合、事業に関係する提携先があるか確認しておきましょう。事業に関係する提携先が見つかれば、事業の成長につながる可能性があります。
今後の事業展開で企業とベンチャーキャピタルが果たすべき役割を細かく詰めておくことが大切です。
ファンド規模と想いを確認する
今までの投資先の分野や規模を調べるのも重要です。ファンド規模が小さければ、新たな投資先の経営に左右されやすく経営介入される可能性が高まります。
また、ベンチャーキャピタルは出資主でもありますが、企業を成長させたい想いは同じです。想いが重なっていれば、利益を生むためのサポートや成長するためのノウハウ提供をよりいっそうしてもらいやすくなります。
新しいファンドを出しているか
ベンチャーキャピタルは自己資金を投資するケースと、ファンドを設立して投資家から資金を集めて投資するパターンがあります。ファンドを設立しているベンチャーキャピタルであれば、新しいファンドを出しているかチェックしましょう。
新しいファンドが出せているのは、資金調達ができていることになります。つまりベンチャーキャピタル自体の経営が順調な証のひとつで、そうしたベンチャーキャピタルには人や情報が集まっている可能性が高いです。
必要であれば複数のベンチャーキャピタルからの出資も検討する
ベンチャーキャピタルからの出資は、一社に限定する必要はありません。そのため必要であれば複数のベンチャーキャピタルからの出資を検討することも可能です。
ただし複数のベンチャーキャピタルからの出資を受ける場合、契約内容を丁寧に確認しましょう。契約内容をまとめて、複数のベンチャーキャピタルが納得すれば、多額の出資につながります。
ベンチャーキャピタルから資金調達を行う際の注意点
ベンチャーキャピタルから資金調達を行う場合には、以下の点に注意が必要です。
①経営への干渉を受ける場合がある
ベンチャーキャピタルから資金を調達する場合には、経営に干渉される場合があります。ベンチャーキャピタルからの出資を受けることと引き換えに、自社の株を譲渡するケースが一般的です。
そのため、譲渡する議決権株式の割合によっては、自社の経営に過度に介入される、あるいはベンチャーキャピタルの方針に沿った経営判断を求められる可能性はあります。
②持株比率が下がる
ベンチャーキャピタルから出資を受ける場合には、保有する自社株式を譲渡するため、持株比率が低下します。持株比率の低下によって、株主総会の決議に必要な株式数が不足すれば、経営に関する発言力や影響力も低下してしまうでしょう。
会社法309条2項によると、株主総会の特別決議に必要な議決権株主の割合は過半数の議決権株主の出席と2/3以上の賛成です。また会社法309条1項によると、株主総会の普通決議に必要な議決権株主の割合は、過半数の議決権株主の出席と過半数の賛成です。
このように、過半数や2/3という持株比率は重要な基準となるため、ベンチャーキャピタルから出資を受ける場合には持株比率の変動にも注意する必要があります。
③早期に結果を出すことが求められる
ベンチャーキャピタルは他の投資家から資金を預かっているため、投資が成功しているかどうかを重視します。
成功していれば、早期にキャッシュ化して投資家に配分する、そうでなければ早く投資から撤退する意向を強めます。したがって、投資先企業は、スピーディーに結果を出すことが求められます。
ベンチャーキャピタル(VC)の探し方
ベンチャーキャピタルから出資を受けたい場合、どのようにアプローチすればよいのでしょうか。
知人の紹介
ベンチャーキャピタルと出会う最も効果的な方法は、知り合いを通して紹介してもらうことです。知り合い経由で紹介してもらった場合は、少なくとも話を聞いてもらえることが多いためです。
紹介してもらった人がすでに他のベンチャーに出資していたとしても、ほかのベンチャーキャピタルにつなげてもらえるかもしれません。自身の知り合いのつてを辿り、知り合いがいないか探して連絡を取ってみましょう。
ベンチャー系イベントに参加
ベンチャー系イベントに参加するのも、ベンチャーキャピタルと出会うための効果的な方法です。最近では起業家をサポートするために様々なイベントが開催されており、起業家と出資者がつながることのできる機会が増えてきています。そのようなイベントを積極的に利用して、ベンチャーキャピタルとのコネクションを築きましょう。
優勝したら支援金を得られるようなピッチコンテストが開催されることもあり、そこでベンチャーキャピタルの目に留まれば、先方から話を持ち掛けてもらえることも十分にあります。人脈は資金調達以外の面でも役に立つことがあるので、ベンチャー系イベントに関する情報収集は積極的に行っておくとよいでしょう。
直接コンタクトをとる
ベンチャーキャピタルと出会う機会になかなか恵まれないような場合は、直接コンタクトをとることもできます。事業計画書などを持ち込み、話を聞いてもらえるように交渉してみましょう。また、ベンチャーキャピタルによっては面談の機会を設けている場合もあり、話を聞いてもらうことができます。
ただし、直接のアプローチが出資につながる可能性は非常に低いこともまた事実です。良い反応を得られなかったり、そもそも話すら聞いてもらえなかったりするケースもあるので、難しい道のりだという心構えはしておいた方がいいでしょう。
マッチングサービス
ベンチャーキャピタルとベンチャー企業とをマッチングしてくれるサービスもあります。
一口にベンチャーキャピタルと言っても、どのような事業に出資しているのか、出資の可否を決める判断のポイントは何かなど、方針がそれぞれ異なっています。
そのため、自社の事業や将来ビジョン、経営方針などにできるだけ合致するようなベンチャーキャピタルと出会うことが、出資への近道です。ミスマッチをできるだけ減らすためには、マッチングサービスを利用してより条件の合うベンチャーキャピタルと出会うことを検討してみるとよいでしょう。
また、このようなサービスを利用すると、客観的な視点で事業を分析してもらえたり、強みを効果的にアピールする方法を提案してもらえたりすることもあります。マッチングのみならず、経営面でもメリットがあるのです。
ベンチャーキャピタルから出資を受ける流れ
実際にどのような手順で出資を受けることになるのか、主な流れをご紹介します。
①必要資料を提出する
ベンチャーキャピタルが投資判断を行うため、まず資料の提出が求められます。
ベンチャーキャピタルによって必要な資料は異なりますが、事業計画書は必須となります。
一般的に提出が求められる資料は以下の通りです。
- 事業計画書
- 決算書
- 株主名簿
- 役員の経歴書
- 組織図
- 定款
- 会社案内、製品カタログ等
②査定により出資可否が決定される
資料を提出後、ベンチャーキャピタルによる投資候補先企業の査定が行われます。ベンチャーキャピタルは、提出された書類・資料だけでなく、業界動向の調査や公認会計士や弁護士などによる独自のデューデリジェンス結果などを踏まえて、出資可否を判断します。
③審査会で投資家からの合意を得る
ベンチャーキャピタルが出資を決定したら、投資家による投資審査会が開かれます。なお投資審査会では、投資実行後の育成・サポートに関しても投資家に説明することが必要です。
ベンチャーキャピタル内の最終的な意思決定機関である投資審査会にて、投資家の合意を得られたら、ベンチャーキャピタルと投資先企業の間で投資契約が締結され、正式に投資が決定されます。
審査後、投資候補先企業の企業価値、株価の設定金額、保有する株式の割合・出資額、出資時期などの出資条件が調整されます。
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