ファクタリングの二重譲渡とは?
「ファクタリング会社に売掛金を売却し、資金を調達した。
支払期日まで、まだ数週間ある。
あれ、ひょっとしたらこの売掛金、別のファクタリング会社にもう一回売れるかも?」
皆さんは、このように考えたことはないでしょうか。
売掛債権は現物資産とは違い目に見えない財産のため、すでに別のファクタリング会社に売却されているのにもかかわらず、新たな業者に持ち込み売ろうとすることを二重譲渡といいます。
「二重譲渡」は実は、詐欺罪に該当します。
タイミングによっては二重譲渡が成立することもありますが、最終的には必ずバレてしまうため、決して手を出してはいけません。
ファクタリングによる二重譲渡が行われた場合、その債権は誰が権利を持つのか証明することができず、買い取ったファクタリング会社にとっては大きな痛手となってしまいます。
そして二重譲渡を行った利用者は詐欺罪の対象となり、刑事事件としてファクタリング会社に告訴される可能性もありますので絶対にしてはいけません。
そこで、ファクタリングで債権の二重譲渡は犯罪行為となる理由と、もしやってしまった場合にはどうなるのか、その末路について解説していきます。
ファクタリングとは?
近年、急速に普及しているファクタリング。
この記事のテーマである「二重譲渡」の具体的な説明に入る前に、ファクタリングについて簡単に解説します。
政府も推奨するファクタリング
日本の中小企業は、古くから銀行融資への依存度が高いとされてきました。
銀行融資を資金調達の軸に据えること自体は問題ないのですが、資金調達方法が「銀行融資だけ」あるいは「大部分が銀行融資」となると、資金繰りの安定性に問題が生じます。
世界的な経済不況、それに伴う金融の引き締めなどにより、銀行融資を受けられなくなった場合、資金繰りが行き詰る可能性が高いからです。
この問題を解決するために、政府は中小企業に対し資金調達の多様化を促しています。
その目玉の一つが、売掛債権の活用促進です。
資金繰りは手元の現金で回していくものですから、いくら売上があっても、手元資金が不足すれば資金ショートを引き起こし、最悪の場合には黒字倒産に陥ります。
そこで、売掛債権の早期資金化によって手元資金を確保すれば、この問題を解消できます。
売掛債権を活用した資金調達方法は、主に以下の2つです。
このうち、政府は特にファクタリングを推奨しています。
合わせて読む:個人事業主,経営者必見の資金繰り!融資以外の資金調達方法5選!
ファクタリングは債権譲渡取引
ファクタリングは、会社が所有している売掛金を売却する資金調達方法です。
大きく分けて、売掛債権は受取手形と売掛金に分類できます。
どちらも代金後払いの取引によって生じる売掛債権ですが、手形を用いて取引した場合には受取手形が、手形を用いずに取引した場合には売掛金が発生します。
受取手形は手形割引によって早期資金化でき、古くからポピュラーな資金調達方法です。
一方、売掛金を早期資金化する場合にはファクタリングを利用します。
売掛債権の一種である売掛金は、自社と売掛先の間で合意した支払期日に代金を受け取る権利です。
したがって、売掛金を売却するファクタリングは、法的には債権譲渡取引に分類されます。
具体的には、
「会社が所有する売掛金(代金を受け取る権利)を、ファクタリング会社に売却(譲渡)し、その対価として現金(買取代金)を受け取る取引」
をファクタリングといいます。
これにより、ファクタリングの利用会社(以下、利用会社)からファクタリング会社に権利(債権)が移動するのがポイントです。
この仕組みは、この記事のテーマである二重譲渡を理解する上でも重要です。
ファクタリングで行われる二重譲渡の手口
ファクタリングで売掛金が二重譲渡されやすいのは、そもそも売掛債権が目に見えない資産だからです。
ファクタリング会社もそのリスクを十分に理解しているため、二重譲渡については常に警戒しています。
被害に遭ったときには損害賠償請求するといった対応をしていますが、それでも回収できるとは限らないため、未然に防ぐことが一番だからといえるでしょう。
二重譲渡は「悪意」のある債権譲渡であり、次のようなケースが挙げられます。
- 短期間で二重譲渡を繰り返し多くの資金をだまし取ろうとする
- 資金繰りに困っているため後で埋め合わせするつもりで二重譲渡に踏み切る
ファクタリング会社にとって二重譲渡被害は避けなければならないことであるため、審査でもしっかりと確認されます。
参考:ファクタリングの審査って本当に甘いの?審査に落ちる会社の共通点・特徴を徹底調査審査が通らない方は要チェック11
二重譲渡がバレた会社の末路
必ずバレてしまう二重譲渡。ファクタリング 二重譲渡 ばれる
では、二重譲渡がバレた会社はどうなるのでしょうか?
詐欺罪に問われる
まず考えられるのが、詐欺罪に問われることです。
詐欺罪について、刑法第246条には以下のように規定されています。
第三十七章 詐欺及び恐喝の罪
(詐欺)
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
(未遂罪)
第二百五十条 この章の罪の未遂は、罰する。
ここに書かれている通り、売掛金の二重譲渡は明らかに詐欺罪に該当します。
二重譲渡は、「人(ファクタリング会社)を欺いて財物(売掛金の買取代金)を交付させた」ということにほかなりません。
二重譲渡によって資金を調達し、後日二重譲渡が発覚した場合には、既にファクタリング会社を欺いて買取代金を交付させた後ですから、詐欺罪が成立します。
また、刑法第250条にあるように、詐欺未遂にも注意してください。
例えば、見積もりの時点で二重譲渡がバレた場合、その時点では財物の交付が行われておらず、詐欺罪には当たりません。
しかし、詐欺未遂罪に該当するため、刑罰の対象となります。
横領罪に問われる
詐欺罪だけではなく、二重譲渡は横領罪に問われる可能性が高いです。
横領とは、公共物や他人の所有物を不法に自分の物とする行為です。
横領罪について、刑法第252条には以下のように記載されています。
第三十八章 横領の罪
(横領)
第二百五十二条 自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。
(業務上横領)
第二百五十三条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。
ファクタリングによって売掛金を売却すると、その売掛金の所有権(債権)は自社からファクタリング会社に移ります。
二重譲渡は、
- 自己の占有する他人の物(所有権がファクタリング会社に移っているものの、自社の手元にある売掛金)を、
- 横領した(自社のものと偽り、他のファクタリング会社に売却した)
ということですから、横領罪に該当します。
第252条にある通り、単なる横領罪は5年以下の懲役です。
しかしファクタリングにおける二重譲渡は、第253条の業務上横領に該当する可能性があり、その場合には10年以下の懲役が科せられます。
業務上横領とは、業務上の都合によって手元にある物を横領することです。
既に解説した通り、2社間ファクタリングでは売掛先が関与しないため、支払期日になると利用会社に売掛金が支払われます。
実際には売掛金の譲渡が完了していますが、2社間ファクタリングの業務上の都合によって、利用会社の手元に売掛金が留まる形です。
業務上の都合により占有する売掛金を横領するのですから、業務上横領に該当します。
参考:ファクタリングした売掛金を使ってしまうと横領罪になる?2社間取引は注意!
懲役刑を科せられる
二重譲渡を犯して罪に問われると、懲役刑を科せられる可能性があります。
二重譲渡は、利用会社からファクタリング会社に対する犯罪であり、企業犯罪にほかなりません。
犯罪学・刑罰学の一般的な考え方として、個人による犯罪よりも企業による犯罪を重く捉えます。
というのも、個人の犯罪よりも企業の犯罪の方が、社会的影響が大きいからです。
日本の法律では、企業犯罪を犯した会社は、まず犯罪行為の責任者(経営者や担当者)が処罰され、それに法人に対する処罰が付随します。
経営者としては、資金繰りの必要に迫られてやむを得ず、出来心で二重譲渡を犯すケースがほとんどです。
「資金ショートを防ぎ、経営者を継続し、従業員の生活を守るため」という気持ちもあったかもしれません。
しかし、二重譲渡を犯した会社では、経営者が真っ先に法的・道義的責任を負います。
第五十四条 一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。
刑法の規定にある通り、詐欺罪・横領罪を同時に問われた場合、10年以下の懲役に科せられる可能性が高いです。
詐欺罪・横領罪の罪の重さは、被害額によって大きく異なります。
被害額が数百万円以上になると、初犯でも実刑判決を受ける可能性が高いです。
- 特定の売掛金を利用し、複数のファクタリング会社に対して二重譲渡を行った
- その時々に所有している売掛金を利用し、長期間にわたって二重譲渡を繰り返した
このような場合には被害額が大きくなるため、懲役刑になることは十分に考えられます。
取引先の信用を失う
令和2年版犯罪白書によると、詐欺罪全体の実刑率は47%です。
初犯であり、被害額も小規模であれば、実刑判決を受けずに済むかもしれません。
その場合、二重譲渡を行ったファクタリング会社の損害賠償請求に応じることで、ひとまず問題は片付きます。
しかし、その後の経営は非常に困難になるでしょう。
詐欺罪や横領罪に問われた会社の信用は失墜し、取引先との関係がうまくいかなくなります。
詐欺という点において、二重譲渡は架空請求詐欺、還付金詐欺、オレオレ詐欺、結婚詐欺など、あらゆる詐欺となんら変わりません。
自社の利益のために詐欺行為を働く会社と、今後も取引を継続したい、再び信頼関係をつくっていきたいと考える取引先が、果たしてどれだけあるでしょうか?
取引を継続するとしても、仕入れ先が信用取引に応じてくれない可能性が高いです。
となると、資金繰りはかなり厳しくなります。
元々、二重譲渡をしなければ成り立たないような資金繰り状況ですから、経営が破綻するのも時間の問題です。
罪状及び刑法ついて出典元:e-GOV法令検索
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二重譲渡がバレる理由
ファクタリングで二重譲渡を隠し通すことができず、発覚する理由はいろいろあります。
3社間ファクタリングは売掛先も契約に関与するため、二重譲渡が行われる可能性があるのは「2社間ファクタリング」です。
しかしファクタリングで二重譲渡を隠し通すことはできないといえますが、その理由として主に次の2つが挙げられます。
- 債権譲渡登記の情報を照会される
- 支払期日に未入金なら確認が入る
それぞれの理由を説明します。
債権譲渡登記の情報を照会される
ファクタリング利用を申し込むと、ファクタリング会社で「審査」が行われます。
このとき、ファクタリング会社が法務局で「概要記録事項証明書」を取得し、登記情報を確認すれば二重譲渡は見抜かれます。
ただ、2社間ファクタリングはすぐに資金を調達したいと希望する方が利用するため、スピード重視です。
登記情報の確認は後回しにして売掛金を買い取ることも少なくないため、審査や見積もり段階で発覚するケースは比較的少ないとも考えられるでしょう。
ただし見積もり段階で発覚しなくても、「債権譲渡登記」が必要になったときには必ずバレてしまうことになります。
既に他社で売掛債権を譲渡後に債権譲渡登記が完了していれば、その事実が登記されているからです。
ファクタリング会社が債権譲渡登記を求めるのは、先に登記を行えば権利を主張することができるためであり、二重譲渡など不正に騙されないためともいえます。
支払期日に未入金なら確認が入る
ファクタリング会社によっては、債権譲渡登記は「未登記」や「留保」で対応可能という場合もあり、その場合には登記がされていない状態です。
しかしいずれにしても二重譲渡があれば必ずバ発覚します。
そのタイミングは売掛金の「支払期日」です。
2社間ファクタリングを利用した場合、利用者とファクタリング会社だけで契約を結ぶため、売掛金の回収は利用者が行います。
支払期日には売掛先から利用者に売掛金が支払われますが、売掛金を回収した後はそのままファクタリング会社に渡すことが必要です。
そのため2社間ファクタリングでは、債権譲渡契約だけではなく売掛金回収業務委託契約もファクタリング会社と結ぶことになります。
しかし二重譲渡した利用者は、複数のファクタリング会社と売掛金回収業務委託契約を結ぶこととなりますが、売掛金は同一なのでの売掛金回収業務を委託できるのは一社のみです。
入金されなかったファクタリング会社は利用者に入金を促すこととなり、それでも支払いがなければ二重譲渡の可能性を疑って登記情報を照会され、二重譲渡が発覚します。
二重譲渡以外の犯罪行為
ファクタリング会社が買い取るのは売掛債権という目に見えない資産です。
その性質を悪用し、「架空」の売掛債権をファクタリング会社に売却しようとする行為もみられます。
ありもしない取引を作り上げ、売掛債権を保有しているようにみせかけるため、
- 請求書の偽造・捏造
- 決算書や試算表の粉飾
などを行いファクタリング会社に持ち込んで騙そうとします。これらをした場合どのような犯罪となるかのか解説して行きます。
請求書を偽造した場合の犯罪
請求書の偽造は実際によくあるトラブルの一つです。
架空の債権をでっちあげたり金額を書き換えたりしてファクタリング会社へ提示するとどのような犯罪が成立するのでしょうか?
偽造罪にはならない
自社名義人となっている請求書や見積書を偽造しても「偽造罪」には該当しません。
これは偽造罪はあくまで他人の名義をしようした場合に問われる罪だからです。
しかし!
詐欺罪が成立する
偽造罪に問われなくても、偽造した請求書や見積書を使用しファクタリング会社へ提出すると詐欺罪が成立します。
架空債権を使用し、ファクタリング会社を騙し、金銭を受け取る事になる為です。
猜疑罪の刑事罰は懲役10年以下となり、罰金刑はないので有罪を受ければすぐに刑務所行きとなります。
絶対に行わないようにしましょう。
まとめ
ファクタリングを利用する際は債権の所在をしっかり把握し二重譲渡しないように気をつけましょう。
二重譲渡は詐欺罪に該当し犯罪です。また二重譲渡以外にも請求書や見積書の偽造も猜疑罪となり、契約書や身分証明書を偽造すると私文書地蔵罪や行使罪、詐欺罪と様々な刑罰に問われます。
刑罰を受けるということは一生消えない「前科」を持つ事になります。
もちろん取引先の企業や身内、社会的信用まで失うことになりかねません。
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