照会回答とは？金融・ファクタリングで失敗しないための基礎知識と正しい対応方法

金融実務の「照会回答」をやさしく解説：ファクタリング・銀行・為替で迷わないための実践ガイド

「照会回答って具体的に何をすること？どう書けばいいの？」――ファクタリングや銀行取引に初めて関わると、現場で当たり前に飛び交う言葉ほど、実は一番わかりづらいものです。本記事では、金融業界で頻出する現場ワード「照会回答」を、初めての方でもすぐ使えるように、意味・使い方・書き方のコツまで丁寧に解説します。読み終えるころには、依頼が来ても慌てず、必要な情報を過不足なく返せるようになります。

業界ワード（照会回答）

定義

照会回答とは、相手先（銀行、ノンバンク、ファクタリング会社、取引先など）から寄せられた確認・質問（＝照会）に対して、事実関係を裏付ける根拠とともに、期限内に正式な形で返答する行為、またはその文書・データを指します。内容は、取引の実在性、債権・支払条件、入出金の事実、担当者や在籍の有無、本人確認、AML/CFT（マネロン・テロ資金供与対策）上の確認事項など、多岐にわたります。

現場での使い方

言い回し・別称

現場では次のような言い回しが使われます。

• 「照会に対する回答をお願いします」「照会回答のご提出をお願いします」
• 「照会回答書（フォーム）をご記入ください」
• 「残高照会の回答」「支払可否照会の回答」「在籍照会の回答」
• 「リファレンスの返信（reference reply）」※英語取引や与信の文脈

使用例（3つ）

具体的な使い方を3パターンで示します。

• ファクタリングの場面：
  「売掛先A社へ譲渡通知を送付したところ、A社から支払スケジュールの照会がありました。貴社からも実際の請求日と入金予定日の照会回答をお願いします。」
• 銀行送金の場面：
  「海外送金で着金遅延が発生しております。受取口座の名義・入金実績の有無について、照会回答を至急ご教示ください。」
• 貸金業の審査場面：
  「与信審査の一環として在籍確認の照会を行いました。代表電話にて在籍事実ありとの照会回答を受領済みです。」

使う場面・工程

照会回答は、以下のような工程で発生します。

• 事前審査・与信：会社の実在、在籍、支払実績、反社該当性などの確認依頼に回答
• 契約・取引開始時：債権の内容、支払条件、取引実績の照会に回答
• 送金・決済トラブル時：着金遅延、組戻し、名義不一致などに関する事実照会に回答
• モニタリング：定期の残高照会、入金予定、交通整理（支払順序）に関する回答
• 監査・コンプライアンス：内部監査や当局対応でのエビデンス照会に回答

関連語

• 照会（問い合わせそのもの）／回答書（回答文書）／エビデンス（証憑）
• 残高照会／在籍照会／支払可否照会／名寄せ・名義確認
• 債権譲渡通知／支払留保／組戻し／本人確認（KYC）／反社チェック（スクリーニング）

ファクタリングでの照会回答の勘所

ファクタリングは「売掛金」という権利のやり取りが中心。照会回答の正確さとスピードが、資金化の可否や条件（手数料、買取率）に直結します。以下が実務の重要ポイントです。

二社間と三社間での違い

三社間ファクタリングでは、売掛先（債務者）が「支払先変更」や「譲渡承諾」に関する照会に答える工程が入るため、回答の遅延・不一致が全体のクリティカルパスになりがちです。二社間では売掛先への通知を行わない一方、ファクタリング会社は売主に対し、請求書の真正性や入金実績の照会を厳密に行います。

代表的な照会項目

• 請求の実在性：発注書、納品書、検収書、請求書の整合性
• 支払条件：支払サイト、締日、支払日、相殺有無、手形／振込の別
• 入金ステータス：部分入金の有無、遅延理由、受領済み入金の計上状況
• 二重譲渡・差押えの有無：他社譲渡や担保設定、差押え情報
• 取引先情報：担当窓口、与信枠、支払フロー（承認プロセス）

回答のコツ（ファクタリング特有）

• 具体化：例「支払日は毎月末締め翌々月25日振込。今回分は8/31検収、10/25支払予定。」
• 根拠の添付：該当する検収書や支払通知の写しを添付し、文中で「別紙1」などと紐づける
• 不一致の明示：請求書の金額とPOが違う場合は差額の理由を先回り記載
• 変更点の強調：支払条件変更や相殺予定があれば、発生日と社内承認者を明記
• 期限厳守：回答遅延は買取審査の保留や条件悪化に直結するため、期限内返信を徹底

銀行・貸金業・為替での照会回答

銀行実務（国内送金・口座関連）

• 名義・口座確認の照会：誤振込や名義不一致の疑いがある場合、入出金の事実や組戻し可否について回答が必要
• 決済トラブルの照会：着金遅延や依頼人情報不足の際、補足情報の提示や取引の正当性説明を返す
• 定期的なモニタリング：取引目的や資金使途のアップデート依頼に回答（犯罪収益移転防止法に基づく確認の一環）

貸金業・与信審査

• 在籍照会への回答：所属部署、在籍の有無、連絡可能時間帯など最低限の事実を回答（個人情報の配慮が必要）
• 支払実績・延滞有無：社内記録に基づく事実関係のみ回答し、推測や主観は排除

外国為替（海外送金）

• 着金照会への回答：受取銀行名・支店・口座番号・名義・入金の有無・着金日時・手数料差引の有無を整理して返答
• 規制関連の照会：送金目的や裏付資料（請求書、契約書）を求められた際は、該当箇所を明示し提出

書式・テンプレートの考え方（そのまま使える骨子）

照会回答のフォームは各社で異なりますが、次の「必須7点」を押さえると伝達漏れが起きにくくなります。

• 件名：何の照会に対する回答かを明示（例：売掛金支払条件に関する照会回答）
• 照会番号／日付：相手先の管理番号・発信日を引用
• 対象取引：取引先名、請求番号、金額、対象期間
• 回答本文：質問ごとに番号を振り、短文で結論→根拠の順に記載
• 添付・根拠資料：別紙番号を振り、本文中に「別紙1参照」などでリンク
• 回答期限と遵守状況：期限内か、遅延なら理由と新期限
• 連絡先：担当部署・氏名・電話・メール

例文のトーン（日本語）

• 「ご照会事項1につきまして、当社の支払条件は『毎月末締め翌々月25日振込』で相違ございません。根拠として取引基本契約書第3条（別紙1）をご参照ください。」
• 「該当請求（No.12345）の検収日は2025年8月31日で確定しております（検収書：別紙2）。支払予定日は2025年10月25日です。」
• 「本件について当社から相殺予定はありません。将来変更が生じる場合は書面で事前通知いたします。」

品質を高める照会回答の7原則

• 正確性：推測を排し、事実と根拠で答える
• 一貫性：社内の契約・請求・会計記録と矛盾させない
• 完全性：聞かれている全設問に漏れなく回答する
• 即時性：期限遵守。遅延見込みは先に連絡し、暫定回答を出す
• 守秘性：必要最小限の情報提供と取扱い注意の明記
• 再現性：社内控えを必ず保存（送付記録、添付、版数管理）
• 責任明確化：回答者・承認者・問い合わせ窓口を明示

よくある疑問と注意点

Q1. わからない事項があるときはどうする？

A. 推測で埋めず、「現時点で確認中」「判明予定日」「確認手段」を明記し、判明情報のみ先行回答します。暫定→確定の二段階で構いません。

Q2. 添付できない資料がある（守秘・契約制約）

A. マスキングや抜粋で代替し、提出不可の理由と契約上の制約を記載します。必要なら相手先と秘密保持契約（NDA）を整備してから提出します。

Q3. 誤った回答をしてしまった

A. 速やかに訂正通知を発行し、差替版の管理（版数、差異点）を明記。影響範囲（審査、支払、手続）も併記して相手先に不利益が及ばないよう調整します。

Q4. 電話口で済ませてよい？

A. 初動連絡は電話でも構いませんが、最終は書面・メールで記録化します。後日のトレーサビリティ確保が目的です。

コンプライアンスと法的配慮（日本の一般実務）

• 個人情報保護：個人情報は本人同意または法令に基づく範囲でのみ提供。識別子は最小限に。
• 犯罪収益移転防止法（AML/CFT）：取引目的・資金使途・本人特定事項の照会には適切に回答し、疑わしい取引の社内手続を遵守。
• 守秘義務・契約順守：取引基本契約やNDAに反しない範囲で情報提供。第三者提供の可否を確認。
• 記録保持：回答書、添付、送受信ログを社内規程に基づき保管（監査・紛争予防）。

英語での照会回答のポイント（海外取引向け）

• 件名例：Response to Your Inquiry on Payment Terms (Invoice No.XXXX)
• 結論先出し：We confirm the payment due date is Oct 25, 2025, based on the Master Agreement (see Attachment 1).
• 不足時の表現：We are still confirming item 2 and will revert by Nov 5, 2025.
• 守秘：This information is provided solely for the purpose of your credit review and must not be disclosed to third parties.

NG対応とリスク管理

• 曖昧表現：「たぶん」「聞いている限り」など推測ベースはNG。誤審査・誤送金の火種。
• 期限超過：資金調達の遅延や条件悪化（手数料増）に直結。期限前リマインドを徹底。
• 最新版不統一：社内で異なる回答が複数流通する事態を避けるため、版数・承認フローを一本化。
• 過剰開示：必要以上の情報や他社の秘密を含めない。情報漏えいリスク。

実務フローのひな型（迷ったらこの順で）

• 1. 受領：照会の趣旨・期限・必要資料を確認。照会番号で管理票を起票。
• 2. 収集：関係部署（営業・経理・法務）から事実と根拠資料を収集。
• 3. 整理：設問別に「結論→根拠→補足」の順で原稿化。別紙番号を割当。
• 4. 確認：当事者・承認者でクロスチェック。一貫性と機微情報の有無を点検。
• 5. 送付：期限前に送信。件名・照会番号を明記し、送受信ログを保存。
• 6. フォロー：相手先の受領・読了を確認。追加質問には迅速対応。
• 7. クローズ：社内保存、教訓化（FAQ化・テンプレ更新）。

用語補足（ミニ辞典）

• 残高照会：相手先が保有する債権・債務残高を確認する照会。監査時や決算前に実施されることが多い。
• 在籍照会：就業実態（在籍の事実）を確認する照会。個人情報配慮のうえ最小限の回答が原則。
• 組戻し：誤振込等の際、送金を取り消して資金を戻す手続。関係各社の同意や期限が関わる。
• 債権譲渡通知：売掛金の支払先変更等を知らせる通知。受領側から照会が来ることが多い。
• エビデンス：事実の裏付け資料。契約書、請求書、検収書、入金明細など。

チェックリスト（送る前の最終確認）

• 相手の設問すべてに回答しているか
• 結論が先に書かれているか（読み手が迷わない）
• 根拠資料は最新か、本文と別紙番号が一致しているか
• 日付・金額・社名表記に不一致がないか
• 期限を守れるか。守れない場合は事前連絡をしたか
• 守秘情報の過剰開示はないか、NDA等の範囲内か
• 送信履歴と保管先の指定は済んだか

まとめ：照会回答は「早く・正確に・根拠とセット」で

照会回答は、金融・ファクタリングの現場で日常的に発生する重要タスクです。ポイントは3つ。「結論を明確に」「根拠を添えて」「期限を守る」。この基本を押さえれば、取引先からの信頼は自然と高まり、審査のスピードも上がります。まずは本記事の骨子どおりに、設問別の回答→根拠資料の紐づけ→送受信記録の保存という型を習慣化してください。最初は戸惑っていた「照会回答」も、すぐにシンプルで再現性の高い業務に変わっていきます。

この記事の監修者

平松 樹 （ひらまつ いつき）

資金調達アドバイザー／元メガバンク法人営業・審査担当

金融実務20年以上。メガバンクで法人融資・審査・再生支援を担当後、独立。中小企業の資金繰り改善に特化し、請求書買取（ファクタリング）・ABL・リスケ・補助金活用まで一気通貫で支援。建設・運送・IT・医療など500社超の案件を伴走し、累計支援額は数十億円規模。入金サイト長期化や赤字決算・債務超過局面でも、債権譲渡禁止特約や民法改正（債権法）への実務対応、与信・反社/不当条項チェック、適正手数料レンジの見立てまで具体策を提示。安全性・適法性・スピードのバランスを重視し、「即日資金化」と「継続的な資金繰り安定」の両立を設計するのが強み。

所属：ファクタリングナビ