是正計画とは?金融業界の現場で求められる具体的な作成手順と成功事例を徹底解説

金融現場での「是正計画」完全ガイド:意味・作成手順・評価されるポイントまで

「是正計画って、結局なにをどう書けばいいの?」——監査や検査で指摘を受けたあと、最初にぶつかる壁がこれです。ファクタリングや銀行、貸金業などの金融現場では、是正計画は“その後の行動を約束する正式な設計図”。あいまいだと再指摘や信頼低下につながり、具体的だと改善が進み、審査やモニタリングでも高く評価されます。本記事では、初心者にもわかりやすく、意味・使い方・作成手順・成功のコツまでを体系的に解説します。はじめての方でも、この記事を読めば「すぐに作成に取りかかれる状態」になれるはずです。

業界ワード(是正計画)

読み仮名 ぜせいけいかく
英語表記 Corrective Action Plan(CAP)

定義

是正計画とは、監査・検査・レビュー等で判明した不備やリスク(例:コンプライアンス違反、手続きの欠落、管理の甘さ、与信・債権管理の不具合など)を、いつまでに、誰が、どの手順で、どの水準まで正すのかを明文化した計画書です。目標、是正内容、期限、責任者、必要資源、進捗管理方法、成果の証拠(エビデンス)などを具体的に定めます。ファクタリング会社、銀行、貸金業者、ノンバンク、ひいては指摘を受けた企業の財務部門など、金融に関わる多くの現場で用いられます。

現場での使い方

是正計画は、単なる「やります宣言」ではなく、「実行して効果が出る設計図」です。現場では以下のように使われます。

言い回し・別称

  • 是正措置計画/是正アクションプラン
  • 業務改善計画/改善計画
  • 再発防止計画
  • CAP(Corrective Action Plan)
  • 是正報告(計画と報告を一体化する場合あり)

使用例(3つ)

  • 「金融庁検査の指摘事項に対する是正計画を、来週の取締役会に上程します。」
  • 「ファクタリングの売掛債権管理で滞留が増えているので、回収フローの是正計画を立て直しましょう。」
  • 「KYCの未更新案件について、30日以内の是正計画と具体的なエビデンス提示をお願いします。」

使う場面・工程

  • 監督当局や外部監査の指摘後(例:内部管理態勢、AML/CFT、苦情対応、システム障害対応など)
  • 内部監査・内部統制レビューでの不備判明後
  • 業務事故・不正・苦情の発生後(再発防止策を伴う是正計画)
  • 与信・審査プロセスや債権管理のKPI逸脱時(滞留債権、集中度超過など)
  • ファクタリングのデューデリジェンスでの改善要請に対応する際

関連語

  • 是正措置/改善措置/再発防止策
  • 指摘事項/改善命令(行政処分)/監督指針
  • PDCA/KPI・KRI/内部監査/コンプライアンス態勢
  • KYC・CDD/AML/CFT/反社排除
  • 与信ポリシー/回収フロー/リスクアペタイト

是正計画の作成手順(テンプレート付き)

初めてでも迷わないよう、実務で評価されやすい標準手順と骨子を示します。

8ステップの進め方

  • 1. 指摘の正確な把握:指摘文言・背景・期待水準を明確化。何が不足し、何が求められているのかを1行で要約。
  • 2. 影響範囲の特定:対象業務、システム、規程、顧客影響、法令・ガイドライン対応状況を棚卸し。
  • 3. 根本原因の分析:表層原因(手順抜け)と深層原因(人員・文化・統制設計の問題)を分けて明記。
  • 4. 目標の設定:SMART(具体的・測定可能・達成可能・関連性・期限)でゴールを定義。
  • 5. 是正措置の設計:ToDoではなく「プロセスがどう変わるか」を工程別に記載。必要な規程改定・システム改修・教育・モニタリングもセットで。
  • 6. 体制と責任:責任者(オーナー)、実務担当、承認者、内部監査の関与、外部委託の役割分担を明確化。
  • 7. 期限・マイルストーン:主要マイルストーン(月次など)と最終期限、遅延時の代替案を記載。
  • 8. 効果検証とエビデンス:KPI・テスト方法・サンプル数・記録媒体(ログ、帳票、研修受講記録等)を定義。

是正計画のテンプレート例(骨子)

  • 1. 指摘事項の要旨/背景
  • 2. 適用範囲(対象業務・対象商品・対象顧客・対象期間)
  • 3. 根本原因(人・プロセス・テクノロジー・ガバナンス別)
  • 4. 目標(定量・定性)
  • 5. 是正措置一覧
    • 措置名/内容/担当/開始日/期限/必要リソース/依存関係
  • 6. 規程・手続・システム改定(文書名・改定箇所・周知方法)
  • 7. 研修・周知計画(対象者・教材・実施日・理解度確認)
  • 8. モニタリングとKPI・KRI(閾値・集計方法・報告先)
  • 9. 効果検証方法(テスト設計・サンプリング・エビデンス保管)
  • 10. リスク評価と残余リスクの扱い
  • 11. ガバナンス(承認体制・報告ライン・内部監査の追跡)

ファクタリング業務での具体例

ファクタリングは与信・債権管理・不正対策が要。是正計画は次のように落とし込みます。

売掛債権管理(滞留・回収遅延)の是正

  • 課題例:回収遅延率の上昇、期日超過の長期化、特定得意先への集中。
  • 是正の狙い:滞留圧縮、回収回転日数(DSO)の短縮、集中リスク低減。
  • 主な是正措置:
    • 与信枠と集中度ルールの再設定、例外承認の廃止・厳格化
    • 入金照合の自動化・照合基準の明確化、未消込アラートの日次運用
    • 滞留債権のエスカレーション基準(7日・14日・30日)と回収フローの標準化
    • 売掛先の信用情報の定期更新(四半期・半期)
    • KPI設定:30日超滞留率、トップ10集中度、回収回転日数
  • エビデンス:新ルールの社内周知資料、システム設定画面の変更記録、KPIダッシュボードのスクリーンショット、モニタリングレポート。

不正請求・二重譲渡リスクの是正

  • 課題例:架空請求の兆候検知が遅い、二重譲渡チェックが場当たり。
  • 是正の狙い:不正兆候の早期遮断、損失の未然防止。
  • 主な是正措置:
    • 請求書真否確認(バイヤー確認)の閾値設定とログ保存
    • 請求パターン異常検知(金額・頻度・先方変更)ルールの実装
    • 二重譲渡防止の登記・債務者通知・誓約取得の標準化
    • 高リスク業種の追加デューデリ(反社・反取引テスト)
    • KPI:疑わしい案件の検知件数、未然防止率、確認レスポンス時間
  • エビデンス:チェックリスト改定、ツールの検知ログ、登記・通知の控え。

KYC/AML(本人確認・継続的顧客管理)の是正

  • 課題例:本人確認書類の有効期限切れ、継続的顧客管理の抜け漏れ。
  • 是正の狙い:法令・ガイドラインに沿った態勢の実効化、制裁・反社リスクの低減。
  • 主な是正措置:
    • CDD更新サイクルの明確化(低・中・高リスクで周期差)と自動リマインド
    • スクリーニング対象・頻度・一致判定基準の定義
    • ハイリスク案件の二線・三線チェック、記録保存期間の明文化
    • 研修(リスク事例・疑わしい取引のシグナル)と理解度テスト
    • KPI:CDD期限切れ件数ゼロ化、スクリーニングSLA、疑わしい取引報告(STR)の適正化
  • エビデンス:CDD台帳、アラート対応記録、研修受講ログ、手順書改定履歴。

銀行・貸金業での主要論点と是正の視点

審査・与信プロセス

  • 論点:与信方針逸脱、例外承認の乱立、担保評価の一貫性不足。
  • 是正:スコアカードの閾値再設計、例外承認の限定化、セカンドレビュー導入、文書化とトレーサビリティ確保。

苦情・事故対応

  • 論点:初動の遅れ、再発防止が形式的、顧客説明の一貫性不足。
  • 是正:初動SLA設定、根本原因分析(5Why)、顧客コミュニケーションの標準文例整備、再発防止策の効果測定。

システム・情報セキュリティ

  • 論点:権限管理の過剰付与、操作ログの未活用、BCP/DR訓練不足。
  • 是正:権限最小化の定期棚卸し、ログの相関分析、復旧訓練の実施と課題是正のPDCA。

コンプライアンス・ガバナンス

  • 論点:社内規程の齟齬、三線(現場・リスク管理・監査)の役割不明瞭。
  • 是正:規程体系の棚卸しと統合、三線モデルの明確化、リスク委員会の機能強化。

審査・監査に評価される是正計画の要件

  • 具体性:行動が誰でも再現できるレベルで記載(どの画面をどう設定、どの帳票をどの頻度で点検、など)。
  • 測定可能性:KPI・KRIと閾値、測定方法の明記。
  • 期限の現実性:短期の暫定措置と中長期の恒久対策を分け、マイルストーンで管理。
  • 責任と資源:オーナー・担当・承認者の明確化と、必要人員・予算の根拠提示。
  • エビデンス設計:完了の判定基準と証拠の保管方法を事前に定義。
  • リスクベース:全件対応ではなく、リスクの大きい領域から優先順位を設定。
  • ガバナンス:取締役会・コンプラ委員会報告の頻度・形式、内部監査のフォローアップ。

よくある失敗と回避策

  • 抽象的な表現に終始する → 手順・頻度・担当・帳票名まで落とし込む。
  • 期限だけ切って中身が未設計 → 暫定策(短期)と恒久策(中長期)を併記。
  • KPIがない → 達成か否かの判定が不能。必ず数値指標と閾値を置く。
  • 現場が運用できない → 現場ヒアリングとパイロット運用を挟み、可用性を検証。
  • 依存関係を無視 → システム改修・規程改定・教育の順序を整理する。
  • エビデンス不備 → 設計段階で記録方法(ログ、スクショ、台帳、議事録)を決める。

成功事例のイメージ(一般化)

ある中小のファクタリング会社では、30日超の滞留率が上昇。是正計画で「集中度ルールの再設定」「回収フローの可視化」「入金照合の自動アラート」を導入しました。KPIを「30日超滞留率2%以下」「回収回転日数15%改善」と置き、週次レビューを実施。3か月で滞留率を目標内に収め、例外承認の乱発もゼロ化。監査のフォローアップでも「運用の定着と効果がエビデンスで確認できる」と高評価でした。

別のノンバンクではKYCの更新遅延が多発。是正計画で「ハイリスク層の更新周期短縮」「自動リマインド」「未完了の取引制限」を定義し、教育と理解度テストを実施。2か月で未更新件数が80%以上減少し、審査プロセスの遅延も同時に解消しました。

短時間で作れるチェックリスト(ドラフト用)

  • 指摘の要旨が1行で言えるか
  • 範囲(業務・顧客・期間・システム)が特定されているか
  • 根本原因を人・プロセス・テクノロジー・ガバナンスで分解したか
  • 目標がSMARTか(数値・期限・水準)
  • 是正措置に手順・頻度・責任者・期限があるか
  • 規程・システム・研修の整合性が取れているか
  • KPI・KRIと閾値、集計方法が定義されているか
  • エビデンスの種類・保管先・閲覧権限が決まっているか
  • マイルストーンと遅延時の代替策があるか
  • 取締役会・委員会・内部監査の関与が明記されているか

ケース別の書き方ヒント

外部からの指摘が複数ある場合

指摘をテーマ別に束ね、横串で是正。例:KYCの「規程不足」「教育不足」「記録不足」は一体で設計し、重複作業を排除。

システム改修に時間がかかる場合

短期:手動の代替コントロール(ダブルチェック、抽出点検、承認強化)を導入。中長期:改修要件定義と開発計画、データ移行・受入テスト・UATのスケジュールを明記。

人的リソースが限られる場合

優先度をリスクで決め、実装は段階化。外部委託やツール活用を検討し、費用対効果を示す。

用語補足(用語辞典的まとめ)

是正措置

不備を正す具体行為。暫定措置と恒久措置に分けて設計するのがコツ。

再発防止策

同様の不備が生じないようにする仕組み。教育・ルール・システム・監視の組み合わせで実効性を担保。

PDCA

Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の循環。是正計画はPlanに当たるが、Check/Actの設計がない計画は評価されにくい。

KPI/KRI

成果やリスク状態を測る指標。KPIは「できたか」、KRIは「危険信号」を示す。両方を置くと監視の精度が上がる。

作成後の運用と報告の仕方

  • 月次で進捗レビュー(達成率、遅延理由、是正の副作用)
  • KPI/KRIのダッシュボード化とアラート設定
  • 四半期ごとに取締役会・委員会へ報告(サマリー+重要エビデンス)
  • 内部監査によるフォローアップ(実査・記録確認・サンプルテスト)
  • 是正完了判定会議でクローズ(残余リスクの扱いを明記)

よくある質問(FAQ)

Q1. 是正計画と改善計画は同じですか?

重なる部分がありますが、是正計画は「指摘への対応」を軸に期限・責任・エビデンスまで定義する点が特徴です。改善計画は生産性向上など任意の取り組みも含みます。

Q2. 計画の長さはどのくらいが適切?

本質は分量ではなく具体性です。1案件あたりA4で2~5枚程度が目安。複数領域にまたがる場合は別紙で措置一覧を付けると整理しやすいです。

Q3. どの指標をKPIにすべき?

「不備が是正されたこと」を測れる指標を選びます。ファクタリングなら滞留率、回収回転日数、KYC未更新件数、例外承認件数などが典型です。

Q4. 外部委託してよい?

設計や実装の一部は委託可能ですが、最終責任とモニタリングは自社で持つのが原則。委託先管理(SLA、監査権限、報告体制)の是正も併せて設計しましょう。

まとめ:是正計画は“約束”であり“設計図”

是正計画は、指摘を受けたあとの最短ルートを示す実務文書です。重要なのは、具体性・測定可能性・期限・責任・エビデンスの5点。ファクタリングや銀行、貸金業の現場では、与信・債権管理・KYC/AML・システム・苦情対応など領域ごとの特性に沿って設計し、リスクの大きい箇所から優先的に着手しましょう。本記事の手順とテンプレート、チェックリストを使えば、今日からでも「評価される是正計画」を作れます。迷ったら、指摘の要旨を1行にまとめ、SMARTな目標とKPIを置く——ここから始めてください。

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記事執筆者
中島康彦 (なかじまやすひこ)

■ファクタリング実務・審査の専門家/金融ライター。
大手ファクタリング会社にて2者間・3者間・医療ファクタリングの組成・審査・導入支援を5年間担当。与信設計、債権譲渡禁止特約への実務対応、反社・不当条項チェック、請求書真正性の検証、適正手数料レンジの見立てなど、現場で培った知見をもとに、安全性・適法性・スピードのバランスを取った資金化支援を行ってきました。
現在は金融ライターとして**「ファクタリングナビ」で一次情報に基づく解説・検証記事を執筆。建設・運送・医療・ITを中心に、即日資金化の実務から資金繰り改善の中長期設計まで、経営者が意思決定に使えるコンテンツを目指しています。最新の制度・ガイドライン・判例等**を参照し、誤情報の排除と透明性を重視します。

■実績・取り組み
ファクタリング実務 5年(2者間/3者間/医療)
審査・与信・契約レビュー:数百件規模の案件に関与
手数料の妥当性評価・不当条項チェックの社内指針作成に参画
業界別(建設/運送/医療/IT)での導入支援経験
一次情報重視:制度・法改正の追随/誤情報の是正

■監修・寄稿・登壇
監修:ファクタリングの基礎・実務に関する記事多数
寄稿:中小企業向けメディア/資金調達メディア
登壇:資金繰りウェビナー

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