不正案件とは？見抜き方とリスク回避の5つのポイント【ファクタリング業界の実態解説】

ファクタリングの現場で言う「不正案件」ってなに？初めてでも分かる見抜き方と実務ポイント

「不正案件って具体的に何を指すの？」「怪しいと思ったら、どこを確認すればいい？」――ファクタリングや金融の現場で耳にする言葉ですが、初めてだと曖昧で不安になりますよね。本記事では、業界で実際に使われる「不正案件」という現場ワードを、初心者にもわかりやすく、かつ実務で役立つレベルまで丁寧に解説します。典型的な不正の手口、見抜くチェックポイント、発覚時の対応フロー、関連する法的リスクまで、網羅的にまとめました。読み終えるころには、「何が不正なのか」「どうやって防ぐか」が自信を持って説明できるようになります。

業界ワード（不正案件）

定義

ファクタリングや決済・貸付等の金融実務において「不正案件」とは、取引主体・書類・債権・資金の流れなどに虚偽や偽装が疑われる、またはその蓋然性が高い案件を指す現場用語です。典型例には、架空・水増し請求、二重譲渡、書類改ざん、なりすまし、反社会的勢力関与、マネー・ロンダリング目的の資金移動などが含まれます。なお、社内管理上は「疑わしい取引（Suspicious transaction）」と切り分けられることがあり、疑い段階（グレー）のものと不正確定（クロ）を区別して運用する会社もあります。

現場での使い方

言い回し・別称

現場では次のような言い回しが使われます。

• 不正案件／クロ案件（不正が強く疑われる、または確定）
• 疑義案件／グレー案件（合理的な疑いが残る）
• 危険案件（事故発生可能性が高い）
• 偽装ファクタリング（実態は貸付なのに売買を装う類型）
• 二重譲渡リスク案件（同一債権の多重譲渡が疑われる）

使用例（3つ）

• 「売掛先の受領エビデンスが弱い。架空計上の可能性があるので不正案件の疑いで一旦ストップ。」
• 「相手先名義の口座じゃない入金指示はNG。不正案件ルールに抵触するため再ヒアリング。」
• 「登記前に他社から照会が来た。二重譲渡の不正案件かもしれないので法務・コンプラ同席で対応。」

使う場面・工程

不正の芽は、以下の工程で拾い上げます。

• 案件受付・初期ヒアリング（ビジネス実態、商流、資金使途）
• KYC/CDD（本人確認・実質的支配者確認・反社チェック）
• 与信審査（売掛先の信用・支払サイクル、取引実績の検証）
• 債権確認（請求書・納品書・受領確認・注文書・契約書の整合）
• 対抗要件確保（債権譲渡登記・債権譲渡通知・承諾の取得）
• 入金管理（入金口座、名義一致、消込の整合性）
• モニタリング（異常なキャンセル/赤伝、支払遅延、KPI逸脱）

関連語

• 二重譲渡／債権譲渡登記／債権譲渡通知・承諾
• KYC（顧客確認）、CDD/EDD（顧客デューデリジェンス/強化デューデリジェンス）
• AML/CFT（マネロン・テロ資金供与対策）、反社チェック
• 2社間/3社間ファクタリング、偽装ファクタリング
• 赤伝（返品・値引によるマイナス伝票）、架空計上
• 名義貸し、なりすまし、私文書偽造

不正案件の典型パターンとリスク

不正の類型を知っておくと、早期に違和感を拾えます。代表的なパターンとリスクの所在を整理します。

• 架空・水増し売掛債権：実態のない請求、数量や単価の水増し。リスクは回収不能と詐欺・私文書偽造等の刑事可能性。
• 二重譲渡：同一債権を複数業者へ譲渡。対抗要件（登記・通知）劣後側の回収不能リスクが大。
• 書類改ざん：受領印の偽造、納品日・注文書の差し替え。稟議番号や担当者名の虚偽も典型。
• 支払通知の偽装：売掛先になりすましたメール・FAXで承諾を偽装。ドメインや連絡先の精査が必須。
• 名義貸し・なりすまし：休眠法人や第三者名義を利用。実質的支配者（UBO）不透明。
• 取引実績の虚偽：初回から高額・短納期・単発案件など、通常の商流から逸脱。
• 関連当事者取引の偽装：実質は同一グループ内処理で現金化狙い。資金循環が閉じている。
• 反社関与の疑い：過去の関係先や紹介経路に注意。連絡先や役員遍歴の不自然な変遷。
• マネロン目的：入出金の分散・分割、反復性のない資金移動、取引の経済合理性の欠如。
• 偽装ファクタリング：売買契約を装い、実態は貸付（リコース過多、手数料の利息性、割戻し条項など）。

見抜き方：実務チェックリスト

現場で即使える、過不足のない確認ポイントをまとめます。全てを画一的に要求するのではなく、案件のサイズ・リスクに応じて深度を調整しましょう。

書類の整合性

• 契約書・注文書・納品書・請求書・検収（受領）記録の内容が相互に一致しているか（取引先名、品目、数量、単価、日付）。
• 受領印や署名の正当性（社印の版違い、インクの違和感、担当者名／内線番号の実在）。
• 赤伝・キャンセルの履歴、異常に多い減額・返品の発生有無。

相手先（売掛先）の実在・信用

• 法人番号、登記情報（所在地、代表者、資本金変動、目的の妥当性）の確認。
• 支払サイトや締め支払の慣行に合致しているか（業界平均からの逸脱）。
• 問い合わせ先の公式性（コーポレートドメイン、代表電話からの取次ぎで人名確認）。

商流の合理性

• 通常のロット・リードタイム・単価レンジに収まっているか。
• 初回から高額・短納期・単発は要注意。少額から積み上がるのが自然。
• 関連当事者取引の有無（資本・取締役・住所の関係、Web上の記載、役員の横すべり）。

二重譲渡の芽を摘む

• 債権譲渡登記または確実な通知・承諾で対抗要件を早期確保。
• 入金口座の名義一致（売掛先→ファクターの専用口座、または合意済みの回収口座）。
• 他社からの照会・問い合わせが来た場合は社内エスカレーションを即時実施。

KYC/反社・マネロン対策

• 本人確認書類、会社実印と印鑑証明の整合、実質的支配者の確認。
• 反社チェック（公開情報の確認、継続的モニタリング）。
• 資金使途が明確かつ商流と整合するか。入出金の流れが閉じていないか。

2社間と3社間での注意点の違い

不正の温床になりやすいのは、債権譲渡の通知を行わない2社間ファクタリングです。売掛先の関与がないため、架空債権や二重譲渡の検出が遅れがち。一方、3社間では売掛先の承諾や入金指図により早期に矛盾が表面化しやすい反面、承諾偽装（なりすまし）リスクには要警戒です。2社間では登記・回収管理の厳格化、3社間では連絡先の正当性（公式ドメイン・代表電話の取次ぎ経由）確認が鍵になります。

発覚時の対応フロー（実務ベース）

• 即時ストップ：新規買取・実行を停止。入金指図の変更凍結。
• 証憑保全：原本・電子データ・通信履歴の保全（改ざん防止）。
• 社内連携：審査・法務・コンプラ・回収チームに一斉共有。
• 反面照会：売掛先の公式窓口経由で事実確認（契約・納品・支払予定）。
• 対抗要件の強化：未了なら速やかに登記・通知・承諾取得の可否検討。
• 外部専門家：顧問弁護士と対応方針（債権保全、差止・仮処分、刑事相談の要否）。
• 取引先対応：誠実・記録重視。安易な示談や口頭合意は避け書面化。
• 再発防止：チェックリスト改訂、システムアラート整備、教育実施。

法的・規制的な観点（日本の一般的整理）

ファクタリングは債権の売買契約が基本形態です。架空債権の譲渡や書類偽造は、詐欺や私文書偽造等の刑事責任の可能性があります。二重譲渡は民事上の優先関係（登記・通知による対抗要件）で劣後側の回収が困難になり得ます。また、売買の外観を装いながら実態が貸付に該当する「偽装ファクタリング」の場合、貸金業法・利息制限法・出資法の問題が生じる恐れがあります。

犯罪による収益の移転防止に関する法律（犯収法）について、銀行や貸金業者など「特定事業者」には疑わしい取引の届出義務等が課されています。独立系のファクタリング事業者は一律に特定事業者とされているわけではありませんが、AML/CFTの国際的潮流を踏まえ、自主的なKYC・モニタリング・反社排除体制を整備することが実務上不可欠です。具体的な義務の範囲は各社の業態・登録状況により異なるため、最終的には自社の顧問弁護士・専門家に確認してください。

売り手・中小事業者が気をつけたいこと

不正は業者側だけでなく、資金繰りに悩む事業者が誤った選択をしてしまうことでも発生します。知らずに不正へ巻き込まれないために、以下を意識しましょう。

• 実体のない請求や水増しは絶対にしない（刑事リスク）。
• 同じ売掛を複数先で資金化しない（二重譲渡は高リスク）。
• ファクタリングの条件が利息計算に近い、損失全額を売り手が負う等は偽装の疑い。契約内容を専門家にチェック。
• 売掛先の承諾が必要なスキームで、先方の公式窓口を経ない手続きは避ける。
• 自社・取引先の情報は正確に。KYCに協力し、裏付け資料の提示をためらわない。

現場の「違和感」サイン集

経験者が口を揃えて言うのは、「最初の違和感を軽視しない」こと。小さなサインを見逃さないための具体例です。

• メールドメインがフリーメール、担当者の署名に代表番号がない。
• 受領印の位置・サイズが書類によって微妙に違う（貼付の疑い）。
• 請求書の日付と納品書の日付が逆転、または休日・深夜の不自然なタイムスタンプ。
• 支払サイトが通常より極端に短い/長い、商慣習に合わない。
• 初回から「急ぎ」「今日中」の連呼、条件への過度な柔軟性の要求。

ケースで理解する：よくある3つのシナリオ

ケース1：二重譲渡の未然防止

受付時、他社での資金化歴をヒアリング。過去に資金化した債権と同一の売掛先・同一締めであることが判明。登記・通知を先行させ、入金口座を売掛先の経理に公式に指示。結果、先行取得で優先権を確保し事故回避。

ケース2：承諾偽装の見抜き

売掛先名義の承諾メールを受領。しかしドメインが公式サイトの表記と1文字違い。代表電話に確認し、該当メールの存在を否定。なりすましが発覚し、案件中止で損失回避。

ケース3：架空計上の早期発見

注文書・納品書は揃っているが、検収データが社内システムに存在せず。受領印も不自然。売掛先の購買部門に照会し、関与否定。社内で不正案件判定し、書類を保全の上で法務対応へ。

社内ルール化のポイント

• 定義の言語化：「不正案件」「疑義案件」「事故案件」の社内定義と判定基準を明文化。
• 分岐条件の設計：金額・売掛先与信・スキーム別に、要求書類と反面照会の深度を規定。
• アラートの自動化：入金名義不一致、赤伝の連続発生、ドメイン差異などのシステム検知。
• 記録・監査トレイル：審査メモ、確認ログ、通話記録の保全で、事後検証を可能に。
• 教育・ローテーション：担当固定による癒着・見逃しを防ぎ、定期的な不正トレーニングを実施。

初心者のよくある疑問Q&A

Q. 与信が弱い先＝不正案件ですか？

A. いいえ。与信が弱いのは「信用リスク」の話で、不正とは別軸です。ただし与信が脆弱な環境ほど、不正のインセンティブが高まりやすい点には注意が必要です。

Q. 二重譲渡はなぜ発覚するの？

A. 登記・通知・承諾・入金指図の整備で、売掛先や他社との接点が増えるため矛盾が露見しやすくなります。入金消込の段階で名義不一致や金額差異が出ることも多いです。

Q. 売掛先に迷惑はかかりますか？

A. 不正が絡むと、売掛先は誰に支払うべきかで混乱します。早期の正規フロー（通知・承諾・入金指図）整備と、公式窓口を通じた丁寧な連絡が重要です。

Q. 偽装ファクタリングは何が問題？

A. 法的には貸付に該当する可能性があり、貸金業法等の規制に触れます。契約書の条項やリスク分担が売買実態に沿っているかを、法律の専門家と確認してください。

最低限そろえたい資料セット（2社間の標準例）

• 取引基本契約書・個別注文書・納品書・検収（受領）記録・請求書
• 売掛先の締め支払条件の分かる資料（支払通知、約定書など）
• 登記用委任状・譲渡通知案・入金指図合意書
• KYC関連（登記簿、印鑑証明、実質的支配者情報、本人確認書類）
• 入金口座エビデンス（名義・金融機関・支店・口座番号）

外部情報の賢い使い方（一般的な実務）

公的・公開情報の活用は、不正の芽の早期発見に有効です。

• 国税庁法人番号・登記情報：法人の実在、商号・所在地・代表者履歴の確認。
• 官報・裁判例公開情報：破産・民事再生、合併・解散等の法的手続の有無。
• 企業情報データベースや信用調査：支払遅延情報、財務傾向、関係者のつながり。
• ドメイン情報（WHOIS）：公式サイトとメールドメインの整合性。

注）個人情報・営業秘密の取り扱いには最新の法令・社内規程を遵守し、必要最小限の取得と安全管理措置を徹底してください。

まとめ：不正案件を遠ざける5つの原則

• 定義を明確にし、グレーとクロを運用で分ける。
• 証憑の整合性・実在性を「別経路」で突き合わせる（代表電話取次ぎ・公式ドメイン・原本）。
• 対抗要件は前倒しで確保し、入金口座の名義一致を厳格化。
• KYCとモニタリングは「点」ではなく「線」で継続する。
• 違和感は止める・集める・共有する（即停止、証拠保全、チーム連携）。

不正は「完璧な一撃」ではなく、小さな違和感の積み重ねとして現れます。基本の型を全員で徹底することが最大の予防策です。本記事が、現場の迷いを減らし、健全な取引と資金循環の一助になれば幸いです。なお、最終判断や法的手続きが絡む場合は、実情に即した専門家の助言を必ず受けてください。