是正実施とは？意味・手順・注意点まで金融プロがわかりやすく解説

金融現場で使われる「是正実施」の意味とやり方を、ファクタリングに強い金融プロが丁寧に解説

「是正実施って、結局なにをすればいいの？」――監査や検査、モニタリングで指摘を受けたとき、現場でよく飛び交う言葉ですが、初めて聞くととても抽象的に感じますよね。本記事では、ファクタリングや為替、銀行・貸金業などの金融の現場で日常的に使われる業界ワード「是正実施」を、基本の意味から実務の手順、注意点、具体例までやさしく解説します。読み終える頃には、「何を・どの順番で・どこまでやれば是正実施が完了と言えるのか」がハッキリわかるはずです。

業界ワード（是正実施）

定義

是正実施とは、監査・検査・コンプライアンスレビュー・業務モニタリングなどで判明した不備や違反、運用上の問題点について、原因を特定し、是正措置（コレクティブアクション）を計画・承認のうえ、現場で実行し、証跡を残し、効果を検証してクローズ（完了）する一連の実務プロセスを指します。単に「直した」と口頭で報告することではなく、計画、証跡、効果検証まで含めて管理するのがポイントです。

現場での使い方

是正実施は、指摘事項への対応を「具体的な行動と結果」で語るときに使われます。たとえば、ファクタリングで本人確認書類が不足していた場合に、追加取得・社内承認・システム反映・再発防止の教育まで行い、証跡をまとめて報告する一連の対応を「是正実施」と表現します。

言い回し・別称

• 是正措置の実施／是正対応の実行
• 改善実施／改善対応
• リメディエーション（Remediation）の実施
• アクションプランの実行／是正プランの完遂
• 指摘事項の解消／クローズ対応

使用例（3つ）

• 監査指摘No.12について、KYC書類の再取得とチェックリスト改訂を完了。是正実施の証跡は共有フォルダに格納済みです。
• 為替約定時刻の記録漏れは、システム改修で自動記録化し運用を是正実施しました。1カ月のモニタリングでも再発ゼロを確認。
• 利息計算ロジックのバグは修正リリース済み。過去分の過徴収は返金し、顧客通知も完了。是正実施報告書を取締役会に提出しました。

使う場面・工程

是正実施は、以下のような場面・工程で使われます。

• 社内監査・外部監査・当局検査の「指摘事項対応」
• コンプライアンス・AML/CFT・反社チェックの不備解消
• 与信・照合・入出金・為替約定などのオペレーションミスの修復
• 商品・スキーム・契約書の不備や齟齬の是正
• システム不具合修正後の回収・影響範囲対応

関連語

• 是正措置／改善計画／アクションアイテム
• 根本原因分析（RCA）／再発防止策
• 証跡（エビデンス）／有効性検証／クローズ報告
• モニタリング／PDCA／リメディエーション
• 訂正仕訳／取消更正／是正仕訳

是正実施の標準手順（ワークフロー）

現場で迷わないために、一般的な流れを押さえておきましょう。規模やリスクに応じて簡略化や厳格化を行います。

• 1. 事実確認：指摘の内容・影響範囲・発生日・件数・金額・関係者を整理。
• 2. リスク評価：法令違反の有無、顧客影響、財務影響、風評リスクを評価。
• 3. 根本原因分析（RCA）：人・プロセス・システム・ガバナンスの観点で原因を特定。
• 4. 是正計画策定：やること、担当、期限、必要資源、完了条件、証跡の定義を明確化。
• 5. 承認：適切な決裁（部門長、コンプラ、リスク管理、必要に応じ経営会議）。
• 6. 実行：運用修正、契約修補、返金・返還、データ修正、システム改修、教育等。
• 7. 証跡化：手順書改訂、スクリーンショット、ログ、契約書、通知文、返金記録などを保存。
• 8. 有効性検証：テスト・モニタリング・サンプルチェックで再発有無を確認。
• 9. クローズ報告：結果、効果、残課題、再発防止策をまとめ、関係者と当局・監査先へ報告。

ファクタリングにおける「是正実施」の具体例

売掛金買取（2社間・3社間）の現場で典型的な是正実施は次のとおりです。

• 債権譲渡通知の不備：通知書式の誤りを訂正し再送、債務者の受領確認を取得。社内チェックリストを改訂し、担当者へ教育を実施。証跡を案件ファイルへ格納。
• KYC/反社チェックの不足：本人確認書類の追加取得、外部データベースでの再スクリーニング、承認ワークフローの強化。過去案件の遡及点検も実施しクローズ。
• 買取限度超過：システムの上限管理を是正、超過分の条件見直しまたは解消。与信ルールを改訂して再発防止策を周知。

為替・送金業務での具体例

レート、時刻記録、本人確認、制裁スクリーニングなど、スピードと正確性が問われます。

• 約定レート誤適用：誤差分の調整・返金、台帳の訂正仕訳、原因のシステム設定を修正。ログ保存と有効性テストを実施。
• 送金時の制裁スクリーニング漏れ：再スクリーニングの実施、ヒット時は直ちにブロック・報告。運用ルールの時間基準を是正し、トレーニングを追加。
• 本人確認の不備：不足書類の追完、リスクが高い場合は取引停止と再開条件を設定。KYCフローの分岐ロジックを見直し。

銀行・貸金業の融資・審査での具体例

利息計算、条件変更、担保管理などの是正実施は顧客影響が大きくなりがちです。

• 利息計算ミス：過誤期間の洗い出し、返金・振替、顧客通知、システムロジック修正、監視KPIの追加。
• 貸付条件の社内規程逸脱：承認権限の再確認、稟議プロセスの是正、該当案件の見直しと格付再評価。
• 担保書類の欠落：契約書の再締結、登記の追完、保全状況の棚卸、台帳・原本管理の是正。

よくある誤解と注意点

• 誤解1：「修正した」と口頭で報告すれば良い → 実務は証跡と効果検証までが必須。スクリーンショット、改訂版手順書、ログ、テスト記録を残す。
• 誤解2：担当者が頑張れば終わる → 原因が構造的なら、組織設計・権限・システムの是正が必要。個人対応で終わらせない。
• 誤解3：期限優先で形だけ整える → 再発防止策が弱いと再指摘へ。暫定対応と恒久対応を区別し、二段階で進める。
• 注意点：顧客影響の一次対応（補償・通知）と、内部統制の恒久対応は別トラックで並行管理する。

証跡（エビデンス）の残し方

是正実施は「見える化」できて初めて評価されます。代表的な証跡は以下です。

• 改訂後の手順書・規程・チェックリスト（改訂履歴付き）
• システム設定値の変更記録、ログ、リリースノート
• 顧客通知文の写し、返金記録、振替伝票、台帳の訂正履歴
• 再発防止策の教育資料、受講記録、理解度テスト
• 有効性検証のテストケース、結果、モニタリングレポート

KPIとマネジメントのポイント

• 是正完了率：期限内クローズ率、遅延件数
• 再発率：同種指摘の再発件数・比率
• 是正リードタイム：指摘からクローズまでの平均日数
• エビデンス品質：証跡不備での差戻し率
• 顧客影響の早期解消率：補償・通知完了までの時間

役割分担と「3線ディフェンス」

是正実施は組織の役割分担が肝心です。

• 第1線（事業部門）：是正の実行主体。現場の運用・システム・顧客対応を直す。
• 第2線（リスク・コンプラ）：計画妥当性の確認、ルール適合性のチェック、進捗管理。
• 第3線（内部監査）：是正の有効性を独立に検証し、必要に応じて再指摘。

監督・規制の文脈と実務上の留意

金融機関や貸金業者、資金移動業者などでは、当局の検査・監督、各種ガイドラインや内部監査の指摘に対し、具体的な是正実施とクローズ報告が求められます。特にマネロン・テロ資金供与対策、利用者保護、利息・手数料表示、苦情対応、システム管理は着眼点が厳格です。社内規程・委員会の決裁フローに沿って、期限を管理しながら進めましょう。

チェックリスト（着手前に確認）

• 指摘の事実・範囲・リスクが定義されているか
• 根本原因が「人・プロセス・システム・ガバナンス」で言語化されているか
• 是正計画に完了条件と証跡要件が明記されているか
• 暫定対応と恒久対応に分け、優先順位を付けたか
• 顧客影響（補償・通知）の方針が決まっているか
• 承認者・期限・責任者が明確か
• 有効性検証の手段（テスト・モニタリング）が設計されているか
• 再発防止の教育・周知計画があるか

失敗事例から学ぶ（典型パターン）

• 「形式改訂だけ」で運用が変わっていない：手順書は変えたが画面が複雑で現場が回避。UIや承認ゲートの設計変更が必要。
• 証跡が散在：メール・個人PCに分散し、監査時に提示できず差戻し。保管場所・命名規則・版管理を統一する。
• 期限直前の駆け込み：恒久策が間に合わず暫定策のまま固定化。初期に範囲を絞って段階導入する。

ミニ用語辞典（周辺ワード）

• 是正措置：不備や違反を是正する具体的行為。返金、再契約、設定変更、教育など。
• リメディエーション：大量案件の一括是正・追完作業を指すことが多い現場語。
• 根本原因分析（RCA）：再発防止に直結する最も深い原因を特定する分析。
• 有効性検証：是正が実際に効いているかをテストやデータで確認すること。
• クローズ：是正が完了し、関係者の承認を得て案件を締めること。

ケースで学ぶ是正実施の全体像（簡易シナリオ）

例：ファクタリングで債権者名の誤記により、債務者の入金が保留になったケース。

• 事実確認：対象1件、金額500万円、入金遅延3日。
• リスク評価：顧客影響中、信用リスク低、風評リスク軽微。
• 原因分析：チェックリスト項目はあるが、二重チェック工程が抜けていた。
• 是正計画：記載修正・再通知、二重チェック導入、システムの自動照合追加。
• 実行：再通知の受領確認、設定変更、教育。
• 証跡：再通知状、受領メール、改訂チェックリスト、システム設定ログ。
• 有効性検証：翌月サンプル30件でエラーゼロ。
• クローズ報告：原因と再発防止策を役員会に報告し承認取得。

FAQ（よくある質問）

Q. 是正実施はいつ完了とみなされますか？

A. 計画に定めた完了条件を満たし、証跡が揃い、有効性が確認され、所定の承認を得た時点です。単なる作業完了ではなく、効果が出ていることが重要です。

Q. 小さな不備でも正式な是正計画が必要ですか？

A. 影響が軽微な場合は簡易版（簡易記録・簡易承認）でよいこともありますが、判断基準を社内で統一し、記録を残しましょう。

Q. 再発防止策はどのレベルまで求められますか？

A. 人的注意に依存する対策は弱く、プロセス・システム・権限設計で再発を物理的に防ぐレベルが望ましいです。

Q. 外部への報告は必要ですか？

A. 法令や契約で報告義務がある場合や顧客影響が重大な場合は必要です。社内のリーガル・コンプラと連携して判断してください。

まとめ

是正実施は「指摘に対する片付け作業」ではなく、原因を断ち、再発を防ぐための経営品質の営みです。ファクタリングでも為替でも融資でも、計画・実行・証跡・検証・クローズを一気通貫で回すことが信頼につながります。今日から、完了条件と証跡の定義、そして有効性検証の設計を最初に置く――この3点を徹底するだけでも、是正実施の質は大きく変わります。現場での迷いを減らし、強い金融実務を一緒に作っていきましょう。