偏頗弁済とは？意味やリスクをわかりやすく解説｜ファクタリングで注意すべきポイント

偏頗弁済をやさしく解説｜意味・具体例・ファクタリングでの注意点

「資金繰りが苦しくて一部の支払いだけ先に済ませたい。これって大丈夫？」——経営が厳しくなると、こうした悩みは避けられません。金融・ファクタリングの現場でよく耳にする「偏頗弁済（へんぱべんさい）」は、まさにこの場面で重要になるキーワードです。本記事では、初心者の方にもわかりやすいように、偏頗弁済の意味、法律・実務上のリスク、現場での使われ方、そしてファクタリングを利用するときに注意すべきポイントを丁寧に解説します。読み終える頃には、「どこまでがOKで、何がNGか」がクリアになるはずです。

業界ワード（偏頗弁済）

定義

偏頗弁済とは、債務者が支払不能や倒産が近い状況で、特定の債権者にだけ有利な支払い（弁済）や担保の提供などを行い、他の債権者との公平を害すること、またはそのように評価され得る行為を指します。倒産手続（破産・民事再生など）の場面では「偏頗行為」として扱われ、条件に該当すると「否認」（やり直し）され、受け取った側が返還を求められることがあります。広い意味では、法的整理前に一社だけを優先して支払う「選別払い」全般を指して現場で使われます。

現場での使い方

言い回し・別称

偏頗弁済は、実務現場では次のような言い回しで使われます。

• 偏頗（へんぱ）になっている／偏頗気味
• 選別弁済・選別払い（えり好み払い）
• 特定弁済（特定の債権者だけに払う）
• 偏頗行為（弁済に限らず、担保設定・相殺などを含む広い言い方）

使用例（3つ）

• 「法的整理を視野に入れているので、偏頗弁済と評価される支払いは避けましょう。」
• 「この二者間ファクタリングの入金をそのまま特定の借入返済に充てると、偏頗と見なされるおそれがあります。」
• 「資金繰り表を見ると、家賃や従業員給与よりも一部の仕入先に先払いしており、偏頗リスクが高い配置です。」

使う場面・工程

• 銀行・ノンバンクとのリスケ交渉（返済の優先順位の相談）
• 私的整理・法的整理の検討フェーズ（顧問弁護士・会計士との協議）
• ファクタリング審査（資金使途の確認、他債権者への影響チェック）
• 与信・回収現場（相手先の支払い動向の分析、危険信号の把握）
• 取引先の倒産対応（管財人からの否認通知や返還請求への対応）

関連語

• 否認権：倒産手続で、特定の行為を取り消して財産を回復する権限
• 支払不能：一般に、弁済期にある債務を弁済する資金・見込みが欠けた状態
• 劣後・平等：倒産処理で求められる債権者間の公平（パリ・パス）
• 相殺・担保供与：偏頗行為に含まれ得る周辺概念
• 期限の利益喪失（期失）：貸付契約で一括返済義務が生じる条項。偏頗と絡む実務注意点

法律背景と実務のポイント

なぜ問題になるのか（公平の原則）

企業が破綻に近づくと、持てる資金は限られます。そこで一部の債権者だけを優先して払うと、他の債権者が割を食い、公平が損なわれます。倒産法制はこの公平（債権者平等の原則）を重視するため、一定の条件下で偏頗弁済を「否認」し、支払われた資金等を財団（みんなに配る財布）に戻す仕組みを置いています。

否認の対象になりやすい典型例

• 支払不能に陥った後、特定の債権者にだけ現金弁済した
• 法的整理の申立てが見えている時期に、一部の借入だけ繰上げ返済した
• 平時に無担保だった債務に、破綻が近い段階で新たな担保を設定した
• 実質的に同一グループ・関係者（役員・親族など）への返済を優先した

否認されるかどうかは、個別事情（時期、相手方の認識、対価の有無など）で判断されます。形式が弁済でなくても、相殺や担保供与など「一部の債権者を有利にする行為」全般が問題になり得ます。

否認の効果と実務影響

• 返還請求：受け取った側（銀行・仕入先・ファクター等）が返金を求められることがある
• 取引信用への影響：返還によりキャッシュが流出し、連鎖的に資金繰りが悪化する可能性
• 役員個人の問題：関係者取引が偏頗と評価された場合、説明責任が問われる

誤解しがちなポイント

• 「給与や税金の支払いは全部OK」ではありません。社会的必要性が高い支出でも、状況や流れによっては整理手続の中で調整対象になり得ます。
• 「事前合意があれば大丈夫」ではありません。債権者間の個別合意であっても、倒産手続のルールが優先される場合があります。
• 「ファクタリングなら回避できる」わけではありません。資金の使途やタイミングによっては偏頗評価・否認のリスクが残ります。

ファクタリングと偏頗弁済の関係

なぜファクタリングで問題になるのか

ファクタリングは売掛金を売却して資金化するスキームです。資金繰り改善に有効ですが、調達した資金を「特定の債権者の返済にだけ」充てる流れが明確だと、全体として偏頗弁済と評価され得る場面があります。また、二者間ファクタリング（売掛先に通知しない）で、実態が貸付に近いと疑われる構造や、破綻間際の対抗要件具備（通知・登記）などは、倒産手続で検証対象になりやすい論点です。

リスクが高まるパターン

• 支払不能に近い段階で、ファクタリング資金の大半を特定の借入返済に充当
• 同族・関係者への貸付返済に優先配分（社長借入の返済など）
• 実態が返済原資の付け替え（A社の回収前倒し→B社にだけ返済）になっている
• 売掛先との三者間合意や登記を破綻直前に急いで行い、他債権者を害していると受け取られるケース

リスクを下げる実務上の工夫

• 資金使途の分散：仕入・給与・賃料・公共料金など、事業継続に不可欠な支払いへバランスよく配分する
• 資金繰り計画の根拠化：合理的な再建計画に基づく資金使途を、帳票で説明できるようにする
• 情報のオープン化：メインバンクや主要債権者と早期に共有し、個別優先にならない枠組み（私的整理のガイドライン等）を検討
• 契約・時期の慎重設計：対抗要件具備の時期、入金フロー、経済合理性の説明資料を整える
• 第三者性の確保：関係者間や同族内だけで回る資金循環は避け、外部の独立性・合理性を担保

二者間と三者間の違い（概要）

三者間ファクタリングは、売掛先の承諾や合意を得て支払先をファクターに切り替えるため、入金フローが透明です。二者間は売掛先に通知しないため、資金使途や実態（売買取引か、貸付に近いか）へのチェックが厳しくなりがちです。どちらでも、破綻直前の「特定債権者だけを助ける結果」と見える構図は避けるのが基本です。

売掛先への影響

ファクタリングの通知や支払先変更が駆け込みで実行されると、売掛先は「他の債権者への影響は？」と懸念します。信用維持のため、変更理由・事業継続性・会計処理の正当性を丁寧に説明しておくことが、後日のトラブル防止につながります。

銀行・貸金業の実務での見どころ

審査・モニタリングの観点

• 資金繰り表の偏り：ある債権者のみに厚く資金を回していないか
• 返済原資の性質：運転CFではなく、短期の資産売却や新規借入で返済していないか
• コベナンツの遵守状況：期失条項発動の有無、債務超過・ DSCR 等の動き
• 関連当事者取引：役員・親族・グループ内への偏った支払い

交渉時の実務提案

• 平等原則に沿った支払計画（横並びの元金一時止め・利息のみ支払い等）
• メインバンク・準メインとの枠組み形成（情報共有会・共同の再生スキーム）
• キャッシュ・コントロール（入金口座の一本化、支出承認フローの明確化）

「どこまでが偏頗？」よくある疑問に回答

Q. 仕入先の一部にだけ先払いすると、即「偏頗弁済」ですか？

A. 直ちに違法・無効とは限りません。緊急の仕入が止まると事業継続が不可能な場合、その支払いには経済合理性があります。ただし、全体として他債権者と比べ著しく有利な扱いになっていないか、時期や事情、再建計画との整合性で判断されます。

Q. 給与や税金・社会保険料への支払いは？

A. 社会的影響が大きく、実務上も優先される場面は多いですが、資金全体の配分や倒産手続のルールによって取り扱いが異なります。固定観念で「常に最優先」と決めつけず、計画的に配分してください。

Q. ファクタリングで得た資金を、特定の借入返済に充てるのはNG？

A. 状況次第です。返済に合理的な根拠（継続取引の維持、全体合意に基づく一律措置など）があれば直ちに否認とは限りません。しかし、破綻直前の一社優遇は偏頗評価のリスクが高まります。資金使途は分散・説明可能性を確保しましょう。

判断の目安（現場チェックポイント）

• タイミング：支払不能・法的整理の申立てが視野に入っている時期か
• 相手の範囲：特定の債権者だけが抜きん出て有利になっていないか
• 目的と合理性：事業継続・価値毀損の回避という明確な目的があるか
• 全体合意：メイン債権者等と合意した枠組みに沿っているか
• 資料化：資金繰り表・議事録・契約書で説明可能か
• 関係者性：役員・親族・グループ内への支払いが混じっていないか

偏頗弁済を避けるための実務アクション

1. 早めの情報共有と合意形成

資金繰りが悪化したら、メインバンク・主要債権者・専門家に早期相談。透明性を確保し、個別優遇ではなく全体最適の枠組み（私的整理の手続やガイドライン等）を検討します。

2. 資金使途のバランス設計

仕入・給与・賃料・インフラ費など、事業継続の生命線に配分。特定の返済だけが突出しないよう、資金繰り表を週次・月次で見える化します。

3. ファクタリングの適正化

売掛の実在性・対価の妥当性・入金フローの透明性を確保。調達目的・使途・再建計画への位置付けを事前に整理し、破綻直前の駆け込みや関係者優遇に見える構図を避けます。

4. ドキュメントの整備

取締役会議事録、資金繰り表、債権者との協議記録、契約書一式を整え、意思決定の合理性・公平性を後から説明できる状態にします。

ケースで理解する偏頗弁済

ケース1：仕入先A社にだけ現金前払い

在庫が尽きれば売上が止まるため、A社への支払いは一見合理的です。ただし、同時に長期滞納のB社・C社を完全に無視すると、偏頗評価のリスク。最小限の分配や代替策（部分出荷・条件変更）を合わせて検討し、全体説明を整えましょう。

ケース2：二者間ファクタリング→メインバンクだけ繰上げ返済

返済で取引を維持したい意図は理解できますが、破綻が近い段階でメインだけ優遇すると、他債権者との不公平が大きくなります。メインと準メインの横並び措置、利息調整など全体合意に引き直すのが安全です。

ケース3：役員借入の返済を優先

関係者取引は偏頗の疑いが強くなります。原則として後回しにし、第三者債権者や事業継続費用を優先。取締役会での利害対立の管理（議決除斥など）も重要です。

用語辞典：関連キーワードの簡潔解説

偏頗行為

偏頗弁済を含む広い概念で、特定の債権者を有利にする一連の行為全般（相殺、担保設定など）を指す用語。倒産手続で否認の対象になり得ます。

否認権

破産管財人や監督委員などが、倒産直前に行われた不公正な取引を取り消し、財産を回復するための権限。返還請求の根拠となります。

支払不能

単なる一時的な資金不足を超え、一般的・継続的に弁済ができない状態。偏頗評価で重要な事実認定ポイントです。

期限の利益喪失（期失）

契約違反や財務悪化などの条件で、分割払いの権利が失われ一括返済義務が生じる条項。期失後の特定返済は偏頗の疑いが高まることがあります。

現場で役立つチェックリスト（印刷・共有用）

• 資金繰り表は週次で更新し、債権者横断で配分を可視化している
• ファクタリングは実在債権・妥当対価・明確フローで運用している
• 主要債権者と情報共有会を設定し、個別優遇を避ける合意を作っている
• 役員・親族等の関係者への支払いは原則停止または後順位化している
• 「やむを得ず優先する支払い」には合理性のメモ・議事録を残している
• 対外説明資料（取引先・売掛先向け）を準備し、信用不安を抑えている

まとめ：フェアで透明な運用が最善の防御

偏頗弁済は、「一社（者）だけを特別扱いする支払い」が、公平を害する行為として問題視される概念です。倒産手続では否認・返還の対象となり、受け取った側にもリスクがあります。ファクタリングは資金繰りの強力な手段ですが、資金使途・タイミング・合意形成を誤ると偏頗評価の火種になり得ます。ポイントは次の3つです。

• 資金配分は事業継続の合理性に基づき、偏りすぎない
• 主要債権者との情報共有と全体合意を重視する
• 説明可能なドキュメントと透明なフローを整える

この3点を押さえれば、偏頗弁済のリスクを実務的に抑えつつ、再建や資金繰り改善に専念できます。迷ったときは早めに専門家や主要債権者へ相談し、フェアで納得感のある進め方を選びましょう。

この記事の監修者

平松 樹 （ひらまつ いつき）

資金調達アドバイザー／元メガバンク法人営業・審査担当

金融実務20年以上。メガバンクで法人融資・審査・再生支援を担当後、独立。中小企業の資金繰り改善に特化し、請求書買取（ファクタリング）・ABL・リスケ・補助金活用まで一気通貫で支援。建設・運送・IT・医療など500社超の案件を伴走し、累計支援額は数十億円規模。入金サイト長期化や赤字決算・債務超過局面でも、債権譲渡禁止特約や民法改正（債権法）への実務対応、与信・反社/不当条項チェック、適正手数料レンジの見立てまで具体策を提示。安全性・適法性・スピードのバランスを重視し、「即日資金化」と「継続的な資金繰り安定」の両立を設計するのが強み。

所属：ファクタリングナビ