是正義務とは?金融・ファクタリング業界で知っておくべき基礎知識と実務への影響

金融実務でよく聞く「是正義務」を徹底解説—ファクタリング・銀行・貸金業の現場対応まで

「是正義務って、結局なにをどこまでやればよいの?」——監査の指摘や、金融庁・財務局の検査、ファクタリング取引での書類不備に直面したとき、多くの方が最初に抱く不安です。本記事では、金融・ファクタリングの現場で日常的に使われる「是正義務」を、初心者の方にもわかりやすく、かつ実務で使えるレベルまで丁寧に整理します。言い回しのコツ、使用例、発生しがちなシーン、実際の進め方、関連用語・法令の見取り図までまとめました。読み終えるころには、「何が是正義務に当たり、どう動けばよいか」が具体的にイメージできるはずです。

業界ワード(是正義務)

読み仮名 ぜせいぎむ
英語表記 corrective obligation / remediation obligation(一般的な訳)

定義

是正義務とは、法令・監督指針・契約条項・社内規程・監査指摘などに照らして不備・違反・誤り・欠陥が判明した場合に、それを正しい状態へ戻す(訂正・修復・改善する)ことが求められる義務の総称です。金融・ファクタリング業界では、コンプライアンスや内部統制、審査・KYC、債権管理、表示・広告、システム運用など、幅広い工程で発生します。ここで言う「義務」には、法令上明示されたもの(例:行政処分や監督当局からの是正指示に基づくもの)だけでなく、契約や社内規程・業務手順に基づくもの(例:表明保証違反時の買戻し・訂正対応の履行、内部監査指摘の修正)も含まれます。

現場での使い方

是正義務は、フォーマルな文書だけでなく、社内外のメールや会議メモでも広く使われます。言い回しの選び方でニュアンス(行政指導に基づく強制性があるのか、契約ベースの実務対応なのか)も伝わりやすくなります。

言い回し・別称

  • 是正対応/是正措置/是正アクション/是正計画
  • 改善対応/業務改善/改善命令対応(行政処分がある場合)
  • 修正義務/訂正義務(書類・台帳・システム訂正に焦点)
  • 是正勧告対応(監査や当局からの勧告ベース)
  • CAPA(Corrective and Preventive Action:是正・予防措置)という表現が品質管理や内部統制の現場で使われることもあります

使用例(3つ)

  • 「監査指摘事項No.3について、当社には同種事案の再発防止を含む是正義務があるため、30日以内に是正計画を提出し、90日以内に完了報告まで行います。」
  • 「三者間ファクタリングの債権譲渡通知に記載漏れがありました。契約上の是正義務に基づき、関係各社へ訂正通知を再送し、入金指定先の誤りを本日中に修正します。」
  • 「犯罪収益移転防止法に基づく本人確認手続の一部に不備が判明しました。当局の検査結果を受け、KYCフローの是正義務を履行するため、運用手順書の改定と再教育を今月内に実施します。」

使う場面・工程

  • コンプライアンス/内部統制:監査指摘、当局検査の改善指示、社内規程違反の修正
  • 審査・KYC・AML/CFT:本人確認・反社チェックの不備是正、CDD/EDDの補完
  • ファクタリング契約実務:表明保証違反時の買戻し・差額補填、二重譲渡リスクの解消、債権通知の訂正
  • 債権管理・入金消込:請求書誤記・名寄せ誤り・入金口座誤りの修正
  • 表示・広告・開示:貸金業法や景品表示法等に関わる表記の修正、ウェブサイトの記載是正
  • 情報セキュリティ・個人情報:アクセス権限・ログ管理の是正、事故後の報告と再発防止

関連語

  • 是正措置:是正義務を果たすために実行する具体策(訂正、回収、通知再送、システム改修、教育など)
  • 予防措置:再発防止・未然防止のための施策(規程改定、二重承認、モニタリング強化など)
  • 業務改善命令:監督当局が発出する行政処分。命令に基づく改善・報告は強制力が強い性質
  • 内部監査指摘:社内監査からの指摘事項。期限付きの是正計画(CAPA)を要することが多い
  • 表明保証違反:契約で約束した事実と異なる場合に生じる違反。買戻し等の是正義務が契約条項で定まる

是正義務が発生する典型パターン

是正義務は、以下のような「ズレ」や「不一致」から生じます。自社のどこに発生しやすいか、まずは棚卸ししましょう。

  • 法令・監督指針への不適合:本人確認(犯収法)や広告規制(貸金業法等)、個人情報保護、反社対応、資金決済関連の運用不備
  • 契約不適合・取引実務の瑕疵:債権不存在・重複請求・二重譲渡、請求書記載誤り、債務者への通知漏れ
  • 会計・税務の誤り:仕訳ミス、売上/割引料の計上誤り、債権譲渡の会計処理の誤解
  • システム・運用の欠陥:アクセス権限過多、ログ欠落、ワークフローのバイパス、RPAの例外処理漏れ
  • 表示・開示の不備:商品説明・手数料表示の不正確さ、ウェブ・資料の更新遅れ

ファクタリングにおける具体例と実務対応

ファクタリング(2社間・3社間)では、是正義務は主に契約条項と運用手順に基づいて発生します。代表的な場面を整理します。

よくある是正シーン

  • 債権譲渡通知の不備:債務者名・金額・入金口座の誤記、通知漏れ。訂正通知の再送、入金先の確定、誤入金の回収・振替対応が必要
  • 表明保証違反の可能性:債権の不存在・二重譲渡・請求書の虚偽表示など。契約に基づく買戻しや差額補填、関係者への報告・調整
  • 請求書・検収の齟齬:検収未了や返品・値引きが後日判明。割引料計算や買取金額の精算見直し、追加合意書での是正
  • 反社・属性審査の補完:CDD/EDDの追加資料取り寄せ、スクリーニング再実行、社内承認の取り直し

実務フロー(例)

  • 事実確認:証憑・取引ログ・メール・契約書・振込記録を収集し、影響額と関係者を特定
  • 契約条項の照合:表明保証、通知義務、買戻し、損害補償、秘密保持の各条文を確認
  • 是正計画:訂正通知テンプレ、入金先訂正手続、精算スキーム(相殺・返金・追加請求)を設計。期限・責任者を明確化
  • 実行・記録化:通知の再送・合意書締結・会計修正。エビデンス(送付記録、相手方受領確認、仕訳)を保管
  • 再発防止:審査チェックリスト改定、二重譲渡防止の網掛け、請求書取込OCRの検証ルール強化、役割分担の見直し

ポイントは、訂正・精算・通知・会計の4点を抜け漏れなく結び直すことです。いずれかが欠けると、後続のトラブル(未入金、二重請求、監査指摘の再発)に繋がります。

銀行・貸金業など金融機関での是正義務の実務

金融機関では、当局の検査・モニタリングや内部監査に起因する是正義務が頻出します。一般的な運用は以下の通りです。

  • 検査・監査結果の受領と区分:重大性(High/Medium/Low)とリスク(法令違反・顧客影響・再発可能性)で分類
  • 是正計画書の作成:是正項目、責任部署、期限、KPI/KRI、想定残存リスク、報告方法を明記
  • 定期報告:月次・四半期の進捗報告、完了後の有効性検証(サンプリング・モニタリング)
  • 教育・規程改定:該当部署だけに閉じず、横展開(水平展開)で同種リスクを抑止

典型的なテーマとして、KYC・AML/CFT体制、本人確認記録の保存、広告・表示の適正化、個人情報保護、システムアクセス管理、苦情・紛争対応プロセスの整備等が挙げられます。是正の実効性は、形式的な改訂だけでなく、現場オペレーションで実際に運用されているか(実査・ログ追跡)まで確認される点に注意が必要です。

是正義務の進め方フレームワーク(実践版)

現場で使いやすい、汎用的な進め方を示します。小さな不備から大きな行政対応まで応用可能です。

  • 1. 事実と影響の確定:範囲・影響額・顧客影響・関係法令・契約条項を特定
  • 2. 原因分析(RCA):5 Whys/特性要因図。人(技能・教育)・プロセス(手順・承認)・システム(要件・権限)・外部要因に分解
  • 3. 是正策と予防策の設計:短期(止血)と中長期(仕組み化)を分け、期限と責任者を割当(RACI)
  • 4. 実装と検証:テスト証跡、サンプル検証、二重承認。KPI/KRIで効果を測定
  • 5. 文書化・証跡管理:手順書改定、教育記録、送付記録、監査対応資料の整備
  • 6. 水平展開:同種の業務・商品・拠点へ展開し、残存リスクを再評価

スケジュール感の目安は、軽微なものは30日以内、構造的な改善は90日程度で中間・最終報告を設定するのが現場の相場です(実態に応じて調整)。

文書・メールの書き方テンプレ(例)

  • 件名:是正計画(案件名/指摘No./期限)
  • 本文冒頭:「本件、是正義務に基づき、以下の通り対応いたします。」
  • 記載項目:
    • 指摘内容(要約)/発生日/影響範囲
    • 是正策(誰が、何を、いつまでに)/予防策
    • 必要な合意・通知・契約手続(関係者・期限)
    • 完了基準(受領確認、ログ、テスト結果)と報告予定日
  • 結び:「上記の通り進め、進捗は隔週でご報告いたします。」

よくある誤解と注意点

  • 「指摘されたら直せば良い」だけでは不十分:再発防止(予防措置)と有効性検証までが一連の是正義務
  • 行政指導と契約上の是正の混同:監督当局からの命令・指示は強制力が強く、報告義務や期限も厳格。契約上の是正は相手方との合意形成や精算設計が肝
  • エビデンス不足の軽視:是正を「やった」ではなく「証明できる」ことが重要(送付記録、受領確認、システムログ)
  • 会計・税務の反映漏れ:金額影響のある是正は、仕訳・決算・税務申告への反映まで確認
  • 個人情報・機微情報の扱い:是正過程での資料授受にも、最小限・暗号化・アクセス権限の原則を適用

チェックリスト(すぐ使える簡易版)

  • 是正義務の根拠(法令/契約/規程/監査指摘)を特定したか
  • 関係者(社内外)に事実・影響・役割を正しく共有したか
  • 訂正・通知・精算・会計・開示の各タスクを網羅したか
  • 完了条件(受領確認、ログ、テスト)を定義したか
  • 期限・責任者・進捗報告のルールを設定したか
  • 予防措置(規程改定、教育、監視設計)を組み込んだか
  • 水平展開と残存リスク評価を行ったか
  • 証跡を監査対応可能な形で保管したか

関連法令・ガイドラインの例(方向性を掴むための見取り図)

是正義務は多くの法令・指針に跨ります。以下は代表例です。具体的要件・最新動向は必ず原典・最新改正を確認してください。

  • 犯罪による収益の移転防止に関する法律(本人確認・記録保存等)
  • 貸金業法(広告・勧誘、契約書面、過剰貸付の抑制等)
  • 資金決済関連法令(資金移動・前払式支払手段等に関する規制)
  • 個人情報保護法(取得・利用・管理・第三者提供の適正)
  • 金融庁の監督指針・検査の着眼点(各業態向けの監督上の留意事項)
  • 会社法・金商法等に基づく開示・内部統制関連の諸規程

ファクタリング自体は商品形態やスキームにより適用法令が変動し得るため、契約書の条項(表明保証、買戻し、通知義務、秘密保持)と合わせて整合性を点検すると安全です。

用語辞典:短く掴む「是正義務」要点

  • 意味:不備・違反・誤りを正す義務(法令・契約・規程・監査が根拠)
  • 現場訳:直すだけでなく、締切と証跡を伴って再発防止までやること
  • 重要場面:KYC/AML、債権譲渡通知、表明保証違反、広告表示、個人情報、会計
  • 成功の鍵:原因分析→是正策+予防策→実装→検証→水平展開→証跡保管

ミニFAQ(初心者の疑問に回答)

Q1. 是正義務は法律で決まっているのですか?

A. 一部は法令や監督当局の指示により直接的に生じます。一方で、契約上・社内規程上の約束に基づいて実務的に生じる是正義務もあります。まず根拠を特定することが大切です。

Q2. ファクタリングでの「買戻し義務」は是正義務ですか?

A. 多くのケースで、表明保証違反等に起因する買戻し・差額精算は「契約上の是正措置」の一種として位置付けられます。契約条項と事実関係を丁寧に確認してください。

Q3. 是正の完了をどう証明しますか?

A. 訂正後の文書・通知の送付記録、相手方の受領確認、システムログ、仕訳の訂正記録、教育の受講記録など、第三者が追跡できる証跡を揃えます。完了基準を事前に定義するとスムーズです。

Q4. 期限に間に合わない場合は?

A. 進捗・障害・代替策を明確にして、関係者(監督当局・相手先・社内ガバナンス)へ早めに相談します。部分完了の根拠と新期限を提示し、リスク低減策を同時に講じます。

Q5. どこから着手すればよいですか?

A. 影響の大きい順に、①法令・顧客影響が甚大なもの、②金額影響が大きいもの、③再発可能性が高いもの、の順で着手し、同時に原因分析と再発防止策まで設計します。

ケーススタディ(簡易)

状況:三者間ファクタリングの債権譲渡通知に入金口座の誤りが発覚。既に一部の債務者が誤口座へ入金。

是正義務の履行ステップ:

  • 事実確認:影響債務者と金額を確定、誤入金の着金確認
  • 契約確認:通知訂正の手順、誤入金の返還・振替方法、費用負担を規定条項で確認
  • 是正措置:訂正通知の即日再送、誤入金返還手続の開始、債務者へのフォロー
  • 会計・精算:相手先と相殺・返金の方法を合意、仕訳訂正
  • 予防:通知作成の二重承認、テンプレ修正、送付先マスタの監査ログ化

このように、通知・資金・会計・運用の4軸で整えると再発リスクを下げられます。

リスクと未履行時の影響

  • 監督上の影響:追加の報告要求、命令・処分の可能性、管理態勢評価の低下
  • 契約上の影響:損害賠償・契約解除、信用毀損、取引先審査の厳格化
  • 運用上の影響:入金遅延・回収難航、監査での再指摘、内部コスト増

是正義務は「早く・正確に・証跡を残す」ことで大半のリスクが回避できます。逆に、先送りはリスクを指数的に増やします。

まとめ:是正義務を味方にする

是正義務は「罰」ではなく、現場を強くするためのチャンスです。金融・ファクタリングの実務では、是正を通じてプロセスが磨かれ、顧客と当局からの信頼が積み上がります。根拠の特定、原因分析、是正と予防の両輪、エビデンス管理——この基本を確実に回せば、どんな指摘にも落ち着いて対処できます。今日からは、是正義務を恐れず、仕組みで着実に履行していきましょう。

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記事執筆者
中島康彦 (なかじまやすひこ)

■ファクタリング実務・審査の専門家/金融ライター。
大手ファクタリング会社にて2者間・3者間・医療ファクタリングの組成・審査・導入支援を5年間担当。与信設計、債権譲渡禁止特約への実務対応、反社・不当条項チェック、請求書真正性の検証、適正手数料レンジの見立てなど、現場で培った知見をもとに、安全性・適法性・スピードのバランスを取った資金化支援を行ってきました。
現在は金融ライターとして**「ファクタリングナビ」で一次情報に基づく解説・検証記事を執筆。建設・運送・医療・ITを中心に、即日資金化の実務から資金繰り改善の中長期設計まで、経営者が意思決定に使えるコンテンツを目指しています。最新の制度・ガイドライン・判例等**を参照し、誤情報の排除と透明性を重視します。

■実績・取り組み
ファクタリング実務 5年(2者間/3者間/医療)
審査・与信・契約レビュー:数百件規模の案件に関与
手数料の妥当性評価・不当条項チェックの社内指針作成に参画
業界別(建設/運送/医療/IT)での導入支援経験
一次情報重視:制度・法改正の追随/誤情報の是正

■監修・寄稿・登壇
監修:ファクタリングの基礎・実務に関する記事多数
寄稿:中小企業向けメディア/資金調達メディア
登壇:資金繰りウェビナー

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