目次
- オリジネーションをやさしく解説—金融・ファクタリングの現場で使われる「案件づくり」のリアル
- 業界ワード(オリジネーション)
- 定義
- 現場での使い方
- 言い回し・別称
- 使用例(3つ)
- 使う場面・工程
- 関連語
- オリジネーションの全体像とチェックリスト
- 基本フロー
- チェックリスト(抜粋)
- ファクタリングにおけるオリジネーションの実務
- 必要情報と書類
- スキーム設計の勘所
- よくあるリスクと回避策
- 銀行・貸金業・リースにおけるオリジネーション
- 法人向けの要点
- 個人向けの要点
- 証券・資本市場でのオリジネーション(DCM/ECM/M&A)
- 為替・トレードファイナンスの文脈での使い方
- オリジネーションのKPIと改善ポイント
- オリジネーション手数料・収益の考え方
- コンプライアンスとリスク管理(オリジ段階での必須事項)
- よくある誤解と現場のコツ
- 用語ミニ辞典:オリジ周辺でよく出る言葉
- 現場での会話例(ニュアンスの把握に)
- ケーススタディ:中堅製造業の資金繰り改善(ファクタリング)
- FAQ(よくある質問)
- Q. オリジネーションとマーケティングは何が違いますか?
- Q. オリジネーションは審査部門の仕事ですか?
- Q. 手数料はどこまでがオリジネーションの範囲ですか?
- まとめ:オリジネーションは「案件を生み、通す」要の仕事
オリジネーションをやさしく解説—金融・ファクタリングの現場で使われる「案件づくり」のリアル
「オリジネーションって何?営業と何が違うの?」——金融やファクタリングの情報を調べると、現場で当たり前のように出てくる言葉に戸惑いますよね。この記事では、金融業界の現場で日常的に使われる「オリジネーション」を、初心者の方にも伝わる言葉で、しかしプロ目線の実務までしっかりカバーして解説します。ファクタリング、銀行・貸金業、証券・為替など、領域ごとの具体例や使われ方、注意点までまとめているので、読み終えるころには「何を指していて、どの工程なのか」が自信を持って語れるようになります。
業界ワード(オリジネーション)
| 読み仮名 | おりじねーしょん |
|---|---|
| 英語表記 | Origination |
定義
オリジネーションとは、金融商品・与信・取引案件を「生み出す(起源をつくる)」一連の活動のことです。具体的には、見込み顧客の発掘、課題整理、商品設計、初期審査に回せるだけの資料・条件を整え、テームシート(条件提示)や申込に至らせるまでのプロセスを指します。単なる集客や受付に留まらず、「案件化」して社内に乗せるところまでが含まれるのが特徴です。証券分野では発行体から引受・組成の案件を受注する働きかけ、貸金業や銀行・リースではローン申込までの流れ、ファクタリングでは売掛債権の買取案件を成立させるための前工程全般を指して用いられます。
現場での使い方
オリジネーションは現場では省略して「オリジ」「オリジ案件」と呼ばれることが多く、部署名(オリジネーション部)やKPIの名称(オリジ本数、オリジ金額)としても登場します。意味合いは「案件づくり」「案件の起案・取り付け」に近く、営業活動の中でも、案件として成立させるための実務(課題の具体化、条件の当て込み、資料回収、社内合意形成)に重心があります。
言い回し・別称
- オリジ、オリジ部、オリジ案件、オリジ手数料
- ソーシング(見込み案件の発掘)、案件化、起案、起票
- フロント(対顧先の最前線)に近い機能としての呼称
使用例(3つ)
- 「今月のオリジは新規3本・既存深耕2本、合計5本です。」
- 「先方CFOの課題感を把握できたので、ファクタリングで1.5億のオリジが立ちました。」
- 「DCMのオリジ側でピッチを取りに行き、引受は別チームにバトン渡しです。」
使う場面・工程
- 見込み先の抽出(ターゲティング、リスト作成)
- 初回接触〜課題ヒアリング(資金繰り・為替リスク・調達コストなど)
- 商品設計・条件案作成(レート、手数料、ファシリティ枠、期間)
- 必要資料の回収(決算、売掛先一覧、契約書、本人確認/KYC関連)
- テームシート提示、意向表明(LOI)取り付け
- 社内起案・審査へのブリッジ(必要情報の整備)
関連語
- ソーシング:案件の源泉を探し、初期ニーズを掘る活動。オリジの入口。
- アンダーライティング(引受・審査):条件を社内基準で正式判断する工程。オリジの次段。
- アレンジメント:複数金融機関の組成やストラクチャリングを主導する役割。大型案件で登場。
- ディストリビューション:組成した案件や債権を投資家・参加行に配分する工程。
- KYC/AML:本人確認・マネロン対策。オリジの初期段階で実施し、審査前にクリアにするのが鉄則。
オリジネーションの全体像とチェックリスト
オリジネーションは「集客」→「案件化」→「審査ブリッジ」→「クロージング前合意」の各段を滑らかに接続することが肝です。以下は現場で使える実務フローとチェック項目です。
基本フロー
- ターゲティング:業種・規模・資金需要の季節性を整理(例:建設業の入金サイト、医療福祉の公費入金など)
- 初回接触:課題仮説(資金繰り・金利負担・為替ヘッジ・支払条件)を持って臨む
- 要件定義:希望金額、期間、使途、返済原資(キャッシュフロー・売掛回収)を明確化
- 必要書類回収:決算資料、試算表、売掛先明細、契約書、請求・納品・発注書、身分確認
- 条件案:レート・手数料・担保/保証・契約スキーム(二社間/三社間、単発/枠型)
- テームシート/LOI:顧客合意を取り付け、社内起案へ
- 社内ブリッジ:案件メモ・リスク要点・回収シナリオ・KYC結果を整理して審査提出
チェックリスト(抜粋)
- KYCは完了しているか(反社チェック、実質的支配者、PEPs該当)
- 入出金の流れは合理的か(売掛の発生〜回収ルート)
- 譲渡禁止や相殺リスクなど、契約上の制約はないか
- 回収原資と時期の蓋然性(サイト、季節性、主要顧客依存度)
- 提示条件が顧客のKPI/財務制約に適合しているか(DSCR、CCC等)
ファクタリングにおけるオリジネーションの実務
ファクタリングのオリジネーションは、売掛債権の「真正性」と「回収可能性」を見極め、スムーズに審査へつなぐことが核心です。実務上の要点は以下の通りです。
必要情報と書類
- 売掛先の基本情報(企業名、信用力、取引期間、平均取引額)
- 債権の根拠資料(発注書、納品書、検収書、請求書、取引基本契約書)
- 支払サイトと回収ルート(二社間か三社間かの確認)
- 譲渡制限(譲渡禁止特約)や債権の対抗要件の確認
- KYC/AML、反社チェック、債権発生の実在確認(実査・電話確認)
スキーム設計の勘所
- 二社間の場合:デリケートな通知問題。回収入金の管理(専用口座/債権譲渡登記の検討)
- 三社間の場合:債務者の同意取得、回収の確実性向上、ただしスピードはやや低下
- 枠型(リボルビング):継続的調達ニーズには枠設定が有効。与信・担保の設計が肝
よくあるリスクと回避策
- 二重譲渡リスク:登記・通知・契約誓約でコントロール
- 架空債権・返品・値引き:検収書の確認、売掛先ヒアリング、信用限度設定
- 相殺・遅延:相殺条項の有無確認、売掛先の支払実績の分析
提示条件(買取率・手数料)を決める前に、売掛先の信用情報と債権の性質をオリジ段階でどこまで詰められるかが、成約率と事故率を左右します。
銀行・貸金業・リースにおけるオリジネーション
銀行や貸金業では「ローンオリジネーション」という表現が一般的で、申込受付から審査へ流すまでの前工程を指します。近年はオンライン申込と審査システム(LOS:Loan Origination System)連携が進み、KYC・本人確認・スコアリングの自動化がオリジ品質を大きく左右します。
法人向けの要点
- 資金使途と返済原資の整合(運転資金・設備資金・リファイナンス)
- 財務分析の初期当て込み(PL/BS/CFのクイックレビュー、DSCRの概算)
- 担保・保証の叩き台(在庫・売掛・不動産・保証人)
個人向けの要点
- 本人確認・在籍確認・属性情報の正確性
- 信用情報機関照会(延滞・多重債務)の早期確認
- 過剰与信防止(総量規制・返済比率の目安)
証券・資本市場でのオリジネーション(DCM/ECM/M&A)
証券会社の投資銀行部門では、発行体・売り手から「マンデート(受注)」を獲得する活動をオリジネーションと呼びます。DCM(債券)、ECM(株式)、M&Aいずれも、顧客課題を資本市場で解く提案を作り込み、ピッチ〜条件交渉〜社内審査につなげます。
- オリジネーション:提案・受注獲得・条件たたき台の形成
- アンダーライティング:引受リスクの評価、価格決定、目論見書整備
- ディストリビューション:投資家配分、ブックビルディング
現場では「オリジ側」「引受側」で役割分担されることが多く、KPI(受注額、フィー、勝率)が明確に管理されます。
為替・トレードファイナンスの文脈での使い方
為替営業では、輸出入企業の為替リスクを把握し、フォワードやオプション等のヘッジ取引を「案件化」するまでの活動をオリジネーションと表現します。トレードファイナンスでは信用状(L/C)やスタンドバイL/C、輸出債権買取(フォーフェイティング等)の相談を起案し、必要書類の整備や相手銀行との条件調整までを担います。
- 為替ヘッジのオリジ:外貨建売上/仕入のキャッシュフロー表を基にヘッジ量・期間を設計
- 貿易金融のオリジ:インコタームズ、書類流(B/L、インボイス)や支払条件の確認
オリジネーションのKPIと改善ポイント
オリジネーションはファネル(入口から成約までの転換率)で可視化すると、改善が進みます。
- リード→初回面談→資料回収→条件提示→審査起案→成約(各段のCVRを測定)
- リード獲得単価(CAC)、案件粗利、TAT(起案までの所要時間)、失注理由の分類
- ナレッジ化:成功条件(業種・レート・スキーム)のパターン化と再現
- デジタル:Webフォーム最適化、eKYC、与信スコアリング連携で落とし込みを高速化
オリジネーション手数料・収益の考え方
オリジネーションに紐づく収益は、分野により呼称が異なります。共通するのは「案件を成立させる前段の対価」をどこで回収するかです。
- ローン:アレンジメント/フロントエンドフィー(初期手数料)
- ファクタリング:事務手数料、買取手数料(スプレッド含む)
- 証券:オリジネーション/マネジメントフィー(引受手数料とは別建てのことも)
顧客満足と収益性のバランスを取るには、難易度・工数・リスクに応じた手数料設計が重要です。前受か成功報酬か、固定か出来高か、開示方法や契約書の明確化までがオリジの責任範囲に及ぶこともあります。
コンプライアンスとリスク管理(オリジ段階での必須事項)
オリジネーションはスピードが命ですが、コンプラを疎かにすると後戻りコストが大きくなります。最低限、以下はオリジ段階で完了・着手しておきましょう。
- AML/CFT・反社チェック・実質的支配者確認(最新情報の保存)
- 広告・勧誘表示の適正化(貸金業法、金融商品取引法、景表法)
- 個人情報保護(同意取得、利用目的の明確化、保管ルール)
- 過剰与信・過度な手数料設定の回避(適合性の原則)
- クロスセル時の説明義務(為替デリバティブのリスク説明など)
よくある誤解と現場のコツ
- 誤解:「オリジ=単なる営業」→実際は「審査につなげるための要件定義と案件化」。社内と社外の両方を動かす。
- 誤解:「資料は審査に入ってから集める」→実際はオリジ段階で8割方揃え、審査を短期化するのが勝ち筋。
- コツ:顧客のKPI(資金繰り日数、金利負担、在庫回転)に直結する表現で提案する。
- コツ:条件は1本勝負にしない。A案(スピード重視)/B案(コスト重視)/C案(柔軟性重視)の3案設計が定石。
用語ミニ辞典:オリジ周辺でよく出る言葉
- テームシート:主要条件を記した合意文書。最終契約前の道標。
- LOI(意向表明):取引への基本合意。独占交渉期間や条件を含む場合も。
- パイプライン:現在進行中の案件群。金額・確度・時期で管理。
- クロージング:契約締結・資金実行・権利移転を完了させる最終工程。
- モニタリング:実行後の経過管理。オリジとは別工程だが、実行前に設計しておくと事故防止に有効。
現場での会話例(ニュアンスの把握に)
- 「この売掛、譲渡禁止があるから三社間で同意取らないと。オリジで先方の法務に当てておくね。」
- 「審査の肝は売掛先の信用。KYCはOK、あとは検収書の突合をオリジ側で固めよう。」
- 「DCMはオリジがピッチ、引受はプライシング。役割を分けて今週中にテーム出し。」
ケーススタディ:中堅製造業の資金繰り改善(ファクタリング)
課題:入金サイトが長く、材料仕入が先行。借入枠は使い切り、為替の変動も重荷。
オリジの動き:売掛先の信用調査→三社間ファクタリングを提案→1.2億円の枠型で回転→ヘッジ需要を確認し、外貨支払のフォワードも提案。
結果:キャッシュコンバージョンサイクル短縮、購買条件改善、為替リスクの固定化。審査は売掛先格付けと譲渡同意を早期に押さえたことで短期化。オリジ段階の設計がそのまま成功を左右した好例です。
FAQ(よくある質問)
Q. オリジネーションとマーケティングは何が違いますか?
A. マーケティングは需要を作り興味を喚起する活動全般、オリジネーションはその興味を具体的な「案件」に仕立て、審査へ橋渡しする工程です。両者は連続していますが、KYC・資料回収・条件設計といった実務が入る点で、オリジのほうが「案件成立」に直結します。
Q. オリジネーションは審査部門の仕事ですか?
A. いいえ。多くの組織でオリジはフロント(営業/提案)側の責任範囲です。ただし、審査の観点を理解し要件を揃えることが求められるため、ミドル/審査と密に連携します。
Q. 手数料はどこまでがオリジネーションの範囲ですか?
A. 分野により異なりますが、初期の組成・提案・ドキュメンテーションに関する費用(事務手数料、アレンジメントフィーなど)が該当します。成功報酬のみとするか、前受とするかは契約で明確にしましょう。
まとめ:オリジネーションは「案件を生み、通す」要の仕事
オリジネーションは、単なる営業でも単なる審査でもありません。顧客の課題を深く理解し、最適なスキームと条件に落とし込んで、社内外の関係者を動かし「審査に通せる案件」をつくる仕事です。ファクタリングでは債権の真正性と回収導線、銀行・貸金業では使途と返済原資の整合、証券・為替では提案力と受注の確実性が肝。KPIとコンプラを両立させながら、資料回収と条件設計を先回りできるかが勝負です。
この記事を足がかりに、現場の会話で迷わない「使える知識」としてのオリジネーションを身につけ、案件創出から成約までの質とスピードを一段引き上げていきましょう。
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