職務分掌とは?初心者にもわかる意味・メリット・導入手順を徹底解説

金融・ファクタリングの現場で使う「職務分掌」をやさしく解説—意味・重要性・実務の作り方

「職務分掌って、聞いたことはあるけれど具体的に何をどう決めればいいの?」という方へ。特にファクタリングや銀行、貸金業、為替事務などお金を扱う現場では、職務分掌は不正防止・誤謬防止・業務の品質確保のための土台です。本記事では、現場がすぐに使えるレベルで「意味」「使い方」「設計手順」をわかりやすく解説します。初めての方でも、読み終える頃には自社に合った分掌設計の道筋が見えるはずです。

業界ワード(職務分掌)

読み仮名 しょくむぶんしょう
英語表記 Segregation of Duties(SoD)

定義

職務分掌とは、組織における役割・権限・責任を人や部署ごとに適切に分け、相互けん制が働くように設計することです。特に資金移動・与信・会計といったリスクの高い業務で「起案・承認・実行・記録・監査」を同一人物や同一部署に集中させないよう分離し、不正とミスの発生確率を下げ、発生時の早期発見を可能にします。金融・ファクタリングの実務では「四眼原則(Four Eyes Principle)」や「デュアルコントロール(二重承認)」として運用されることが多く、内部統制の中核をなす考え方です。

なぜ金融・ファクタリングで重要か

お金と信用を扱う業務は、1つの判断ミスや不正が即時に損失へ直結します。職務分掌は以下の効果でリスクを抑えます。

  • 不正抑止:一人で起案から送金まで完結できない仕組みを作る。
  • エラー早期発見:ダブルチェックや相互けん制で誤りを発見しやすくする。
  • 透明性向上:責任の所在と承認履歴が明確になり、監査対応が容易に。
  • 顧客・投資家への信頼:内部統制が効いている組織は資金調達や取引の信用度が高まる。

規模の大小に関わらず、現場フローに沿って最小限でも「分けるべきところを分ける」ことが重要です。

現場での使い方

言い回し・別称

現場では次のような言い回しが使われます。

  • 職務分掌/職務分離/権限と責任の明確化
  • 相互牽制/四眼原則(Four Eyes)/デュアルコントロール
  • 承認権限規程/職務権限規程/RACI(Responsible, Accountable, Consulted, Informed)
  • SoD(Segregation of Duties)/アクセス権限分離(システム)

使用例(3つ)

  • 「送金は起案と承認を分けましょう。高額は二段階承認で」
  • 「営業は審査に関与せず、与信判断は審査部が独立して行うのが職務分掌の原則」
  • 「売掛金の消込は経理、回収交渉は回収担当。記録と実行を分離します」

使う場面・工程

  • 新規取引審査(KYC/反社・与信)
  • 契約・債権譲渡の受入・ファクタリング実行
  • 入出金(送金起案/承認/実行/消込)
  • 債権回収・延滞管理・債権放棄の決裁
  • 会計記録・月次締め・監査対応
  • システム権限設定・ログ監査

関連語

  • 内部統制/ガバナンス/承認権限規程/相互牽制
  • 三線モデル(Three Lines Model:現場・リスク管理/コンプラ・内部監査)
  • アクセスコントロール/職務権限マトリクス/稟議フロー

実務での設計手順(初めてでも取り組める)

以下は現場に落とし込みやすい標準的なステップです。

  • 1. 対象業務の可視化:営業、審査、契約、入出金、回収、会計、システム管理などを工程単位に分解し、フローチャート化。
  • 2. リスク評価:改ざん・不正送金・二重譲渡・粉飾受入・入力誤りなど、工程ごとのリスクを洗い出し、重要度と発生可能性で優先順位付け。
  • 3. 分離の原則を適用:起案・承認・実行・記録・監査を可能な限り別人・別部署へ。最小でも「起案と承認」「実行と記録」を分ける。
  • 4. 権限マトリクス作成:業務×役割でR(実行)/A(最終責任)/C/Iを割付。金額閾値ごとの承認権限も明記。
  • 5. システム権限整備:ワークフローとEB(インターネットバンキング)で役割分離を技術的に担保。承認ログ・操作ログを保存。
  • 6. 規程・マニュアル化:「職務分掌規程」「承認権限規程」「業務手順書」に反映し、改定履歴を管理。
  • 7. 教育と演習:年次教育、入社時研修、権限改定時のリフレッシュトレーニング。
  • 8. モニタリング:サンプル検査、例外レポート、権限の定期棚卸し(四半期・半期)を実施。
  • 9. 監査・改善:内部監査や第三者レビューで欠陥を特定し、是正計画(CAPA)を回す。

ファクタリング業務における職務分掌のモデル

2者間・3者間ともに、以下の要点を押さえると堅牢になります。

共通の基本分離

  • 営業と審査の分離:営業は情報収集と説明、審査は与信判断を独立して実施。
  • 送金の分離:起案者(事務)と承認者(管理職)を分離。高額送金は二重承認。
  • 入金消込と回収交渉の分離:記録と実行を分ける。
  • 契約書作成と法務チェックの分離:条項リスクを独立レビュー。
  • 会計記帳と資金出納の分離:現金・預金取引の実行者と仕訳者を別に。

2者間ファクタリングの例

  • 反社・KYCチェック:コンプラ担当が実施。営業は結果のみ参照。
  • 売掛債権の妥当性確認:事務が請求書・入金実績を収集、審査が二重譲渡・取引継続性を評価。
  • 買取実行:事務が起案、管理職が承認、別担当が送金実行。会計が記録。
  • 回収:回収担当がフォロー、経理が消込、管理部が延滞超過の決裁を別系統で行う。

3者間ファクタリングの例

  • 債務者通知・同意:事務がドラフト、法務が文言チェック、管理職が最終承認。
  • 入金口座管理:入金先の名義・口座は二名以上の承認で登録・変更。
  • 検収確認:営業が入手、審査が真正性を確認し、事務が記録。

銀行・貸金業での典型的な分掌ポイント

  • 為替・送金:入力・承認・実行・日次照合(Nostro/Vostro等)を分離。高額・外為は承認層を追加。
  • 貸出業務:営業・審査・稟議・契約・実行・回収・債権管理を段階分離。格付や引当の独立性を担保。
  • 現金取扱:カストディと記帳者の分離、日次在高照合の相互検証。
  • システム:開発・運用・本番権限の分離、職務ローテーション、権限の定期棚卸し。

中小規模で人数が限られる場合は、最小限「二者以上での承認」「外部者(顧問、公認会計士等)による定期レビュー」を組み合わせて補完します。

メリットと導入時の注意点

メリット

  • 不正・誤謬の顕著な減少
  • 監査・当局対応の効率化(証跡が揃う)
  • 属人化の解消と業務継続性(BCP)の向上

注意点

  • 形骸化のリスク:繁忙時に承認スキップが起きないよう、システムで必須化。
  • 過剰統制:スピードが落ちすぎないよう、金額・リスクに応じた層別化。
  • 人員制約:代行者(バックアップ)を定義し、兼務禁止の範囲を明確に。

よくある失敗と対策

  • 「小口だから一人でOK」に穴が開く:閾値以下でもサンプル抽出で抜き打ちチェック。
  • 承認者が内容を見ていない:承認者KPIに「否認率」「指摘件数」「滞留時間」を設定。
  • システム権限が肥大:権限申請は期限付き、未使用権限は自動失効。四半期棚卸し。
  • ルールが見つからない:規程・フロー図・権限マトリクスを同じ場所で管理し、検索可能に。

チェックリスト(すぐに使える自己診断)

  • 送金の起案・承認・実行・照合が別人になっているか
  • 営業と与信審査の意思決定が独立しているか
  • 入金消込と回収交渉は分かれているか
  • 契約書の法務レビューが独立しているか
  • 高額取引の追加承認ルールがあるか
  • 例外処理(緊急・休日)の記録と事後承認の仕組みがあるか
  • システム管理者と運用担当の権限が分離されているか
  • 権限の棚卸しと教育が定期的に行われているか

規制・基準との関係(概要)

日本の金融・上場企業分野では、職務分掌は内部統制の基本要素として広く求められています。たとえば、金融商品取引法に基づく内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX)や、各業法の監督指針・ガイドラインにおいて、適切な権限設定・相互けん制・記録の保存が重視されます。国際的にも、COSOフレームワークや情報セキュリティのISO 27001で「職務の分離(SoD)」が主要統制として位置付けられています。なお、具体的な要求は事業者区分・業態・規模・上場有無で異なるため、自社の所管法令・監督方針・監査基準に合わせて最終確認してください。

文例:職務分掌規程に書くときのひな型

以下はあくまで例です。自社の実務に合わせて調整してください。

  • 送金業務:送金データの作成は事務部、承認は管理部課長以上、実行は経理部。10百万円超は部長決裁を要する。
  • 与信審査:新規・増額は審査部が独立評価し、営業部の稟議起案とは分離する。最終承認は審査部長。
  • 契約管理:契約書は法務担当がレビューし、ひな形外条項は総務部長の承認を要する。
  • 会計記録:仕訳入力は経理担当、銀行勘定調整と月次照合は別担当が行い、相互確認する。
  • 権限管理:全システムの管理者権限付与・剥奪は情報システム責任者が行い、四半期ごとに棚卸しを実施する。

小規模事業者の現実的なやり方

人数が少ないと完全分離が難しくなります。以下の工夫で実効性を確保できます。

  • 二重承認をシステムで必須化(紙や口頭依存をやめる)
  • 代表者と外部専門家(顧問税理士・会計士)による月次レビューを組み込む
  • 高額閾値で承認層を追加し、少額はサンプリング検査で補完
  • 兼務禁止リストを最小限でも定義(例:送金実行者は仕訳不可)

ケーススタディ:ファクタリングの一連フローに落とし込む

新規申込から回収までの流れを簡略化し、分掌の具体化例を示します。

  • 申込受付:営業が受領し、KYC資料を整え事務へ提出。
  • KYC・反社確認:コンプラ担当が実施し、結果は審査へ。
  • 与信審査:審査が財務・入金実績・二重譲渡リスクを判定。営業は参考意見のみ。
  • 契約・通知:事務がドラフト、法務がレビュー、管理職が承認。
  • 実行・送金:事務が起案、管理職が承認、経理が実行、会計が記録。
  • 回収・消込:回収担当がフォロー、経理が消込、管理部が延滞方針を決定。
  • 月次レビュー:例外(期限延長・減額)案件は管理会議で事後評価。

監査対応のコツ(証跡づくり)

  • 承認ログと操作ログ:ワークフローとEBのログを案件IDで紐づけ保存。
  • 権限変更の履歴:申請・承認・有効期限・実施者を記録。
  • 照合作業の記録:銀行残高調整表、差異一覧、是正記録を保管。

FAQ(よくある質問)

Q1. 人手が少なくて完全分離ができません。最低限どこを分けるべき?

A. 送金の「起案・承認・実行」の分離と、会計記録と出納の分離は最優先です。さらに高額は二重承認、例外処理は事後承認で補強しましょう。

Q2. 紙とハンコ文化から移行中。何から着手?

A. 承認フローを可視化し、ワークフローシステムに置き換えるのが近道です。承認を必須ステップにし、ログ保存と権限棚卸しをセットで設計します。

Q3. 職務分掌が業務スピードを落としませんか?

A. 金額・リスクに応じた層別化を行えば過剰統制を避けられます。低リスクは簡易承認、高リスクは層を追加。SLAs(処理時間目標)を決めてモニタリングしましょう。

Q4. どの基準に合わせれば良い?

A. 上場企業はJ-SOX(内部統制報告制度)や監査基準が参考になります。金融・貸金業等は監督指針や業界ガイドライン、国際的にはCOSOやISO 27001のSoDを参照し、自社の規模・業態に合う水準へ落とし込んでください。

まとめ

職務分掌は、金融・ファクタリングの現場で「当たり前」に聞こえる一方、実務に落とすと奥の深い仕組みです。重要なのは、起案・承認・実行・記録・監査の分離を、業務フローとシステム権限の両面で確実に実装し、ログと教育と棚卸しで回し続けること。完璧を目指すよりも、リスクの高い箇所から優先して分離し、データに基づいて改善を続ければ、強い内部統制と無理のない運用は両立できます。今日できる一歩として、「承認権限マトリクスの作成」「送金の二重承認の必須化」から始めてみてください。現場が安心して動ける仕組みづくりが、顧客の信頼と事業の持続的成長に直結します。

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記事執筆者
中島康彦 (なかじまやすひこ)

■ファクタリング実務・審査の専門家/金融ライター。
大手ファクタリング会社にて2者間・3者間・医療ファクタリングの組成・審査・導入支援を5年間担当。与信設計、債権譲渡禁止特約への実務対応、反社・不当条項チェック、請求書真正性の検証、適正手数料レンジの見立てなど、現場で培った知見をもとに、安全性・適法性・スピードのバランスを取った資金化支援を行ってきました。
現在は金融ライターとして**「ファクタリングナビ」で一次情報に基づく解説・検証記事を執筆。建設・運送・医療・ITを中心に、即日資金化の実務から資金繰り改善の中長期設計まで、経営者が意思決定に使えるコンテンツを目指しています。最新の制度・ガイドライン・判例等**を参照し、誤情報の排除と透明性を重視します。

■実績・取り組み
ファクタリング実務 5年(2者間/3者間/医療)
審査・与信・契約レビュー:数百件規模の案件に関与
手数料の妥当性評価・不当条項チェックの社内指針作成に参画
業界別(建設/運送/医療/IT)での導入支援経験
一次情報重視:制度・法改正の追随/誤情報の是正

■監修・寄稿・登壇
監修:ファクタリングの基礎・実務に関する記事多数
寄稿:中小企業向けメディア/資金調達メディア
登壇:資金繰りウェビナー

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