情報削除とは？ファクタリング業界で失敗しないための正しい知識と注意点

「情報削除」を正しく理解する：ファクタリング・金融現場で迷わないための実務ガイド

「情報削除って、具体的に何を指すの？」——ファクタリングや融資の現場でよく耳にするけれど、実は範囲やルールが曖昧に伝わりがちな言葉です。不要なトラブルを避けるうえでも、何が消せて何が消せないのか、どう依頼すればよいのかを知っておくことはとても大切。本記事では、初心者の方にも分かりやすく、現場で本当に使える知識と注意点を整理して解説します。

業界ワード（情報削除）

定義

金融・ファクタリングの現場で使われる「情報削除」とは、取引や審査の過程で収集・生成された顧客情報、取引記録、与信データ、掲載情報などのうち、業務目的を終えたもの、誤りが判明したもの、または法令・規程に基づいて削除（もしくはマスキング・匿名化）することを指す現場用語です。なお、実務上は「法令に基づく保存義務がある情報は削除できない」「信用情報機関の記録は『削除』ではなく『訂正』や『保有期限の満了』が原則」といった制約が伴います。

現場での使い方

言い回し・別称

現場では、以下のような言い回しが使われます。厳密には意味が異なる場合もありますが、実務では広い意味で「情報削除」に含めて会話されます。

• データ削除／データ消去（IT部門・情報セキュリティ寄りの表現）
• 記録抹消／登記抹消（法務・登記実務での「抹消」）
• マスキング／匿名化（削除の代替としてアクセス制御や不可逆化を行う）
• 訂正・削除・利用停止（個人情報保護法上の権利行使の総称）

使用例（3つ）

• 与信審査否決後の申込書類について「目的外の保有はしないので情報削除（またはマスキング）します」
• 公表済みの契約先リストからの社名取り下げ依頼に対して「法令保存対象外なので情報削除可能です」
• 誤った与信レポート（売掛先の事故情報）に対し「根拠資料に基づき訂正・情報削除の手続きをお願いします」

使う場面・工程

• KYC/本人確認完了後、取引不成立時のデータ取扱いの確認
• 解約・取引関係終了時のデータ棚卸しと削除・保管の切り分け
• 信用情報機関や企業調査レポートの誤記訂正のやり取り
• ファクタリングの債権譲渡登記の抹消（現場では「登記情報の削除」と呼ぶことも）
• セキュリティ事故対応後のログ・バックアップの消去計画策定

関連語

• 個人情報保護法（訂正・利用停止・消去の権利と事業者の義務）
• 犯罪収益移転防止法（KYC記録・取引記録の7年間の保存義務）
• 信用情報機関（CIC／JICC／全国銀行個人信用情報センター［KSC］）
• 債権譲渡登記（抹消登記）
• 反社チェック（暴排条例、制裁リスト、ネガティブニュース）

「何が消せて、何が消せないのか」をまず把握する

削除が可能なもの（一般的な例）

• 審査や見積もりのみで取引未成立の場合の申込書類・添付資料（法令保存対象外の範囲）
• マーケティング目的で取得した情報（同意の撤回や目的達成後は削除または匿名化）
• 社内の重複データ、誤取り込みデータ、検証用ダミーデータ
• 自社ウェブサイトや資料に掲載した顧客ロゴ・名称（契約上の同意が撤回された場合）

ポイントは「利用目的が終了し、かつ法令・契約で保存が要求されない」こと。不要となった個人データは、個人情報保護法上も、漏えい等のリスクを抑えるため「遅滞なく消去」が望ましいとされます。

削除できない、または容易に削除できないもの

• 本人確認記録・取引記録（犯罪収益移転防止法等に基づく保存義務：多くは7年間）
• 会計・税務の証憑（会社法・税法に基づく保存義務）
• 監査や紛争に備える必要がある記録（内部統制・監査証跡）
• 信用情報機関の記録（原則は「削除」ではなく「訂正」または「保有期限の満了」）
• 公知情報に基づく企業調査レポートの記載（事実に基づくもの。誤りの場合は訂正請求）
• 反社会的勢力関連のリスク管理記録（法令・ガイドライン上の管理・保存が求められる）

「正当な根拠に基づき保有している情報は、単純な『削除依頼』では消せない」という前提を共有しておくと、社内外のコミュニケーションがスムーズになります。

ファクタリング特有の「情報削除」場面

債権譲渡登記の抹消（俗称：登記情報の削除）

2社間ファクタリング等で行う債権譲渡登記は、取引完了後に「抹消登記」をして登記情報を閉じるのが実務です。現場では「登記情報を削除しておいて」と口頭で言うことがありますが、正しくは「抹消登記」。抹消には、登記原因（弁済・契約終了など）を示す書面、当事者の申請、登録免許税の納付などが必要です。時期や必要書類は案件により異なるため、リーガル・司法書士と連携して抜け漏れなく進めます。

与信レポート・売掛先情報の訂正（誤記の「削除」）

帝国データバンクや東京商工リサーチ等の企業調査レポート、商業登記や官報、公表資料に基づく評価に誤りがある場合は、根拠資料を添えて情報提供元に訂正を求めます。実務では「ネガティブ情報の削除をお願いします」と依頼しますが、実際は「事実に基づかない記載の訂正・差し替え」です。公知の事実に基づく記載は、原則として消せません。

個人信用情報機関に関する「情報削除」の誤解

保有期間の一般的な目安（最新は各機関の公表資料を確認）

• CIC／JICC：延滞や異動情報は概ね5年、申込情報は約6か月が目安
• KSC（全国銀行個人信用情報センター）：延滞等は概ね5年、破産等の官報情報は概ね10年が目安

重要なのは、「任意の削除」はできないという点です。誤登録であれば「訂正」、事実に基づく事故情報は「保有期限の満了」を待つのが原則です。表記の有無や期間は各機関の規程・加盟会員の登録状況で変わり得るため、必ず最新の開示情報で確認しましょう。

訂正の基本手順

• 本人開示：まずご自身の信用情報を開示し、記載内容を確認
• 根拠の収集：支払済み証明、契約書、和解書等の資料を整える
• 異議申立て：信用情報機関または登録会員（金融機関・事業者）に訂正を申し出る
• 調査・結果通知：調査のうえ、訂正・登録維持・削除（誤登録時）のいずれかが決定

「お金を払えば消せる」という勧誘は要注意。信用情報の不当な改ざんは、関係者の規約違反・法令違反に直結します。

「情報削除代行」への注意喚起

インターネット上には「事故情報を消します」とうたうサービスがありますが、事実に反する削除はできません。高額な手数料トラブルや詐欺被害のリスクもあるため、利用は推奨されません。正規の手順（開示→異議申立て→訂正）を取りましょう。

反社チェック・制裁リストと「情報削除」

訂正が可能なケース

同姓同名マッチや古い報道の誤解釈などで誤検知が発生することがあります。この場合は、本人確認資料、法人の登記情報、報道の訂正記事などを添付し、データベンダーに訂正・更新を申請します。自社側でも「誤検知で非該当」と判断した根拠を記録に残し、将来の監査に備えることが重要です。

削除が原則不可のケース

反社会的勢力との関係や制裁対象である事実、捜査・公判・有罪判決といった公的情報に基づく記録は、原則として削除不可です。金融機関・事業者には、暴排条例や各種ガイドラインに基づく管理・保存が求められます。

情報削除を依頼・実行する社内運用フロー（実務の型）

• 受付・起票：依頼者、対象データ、依頼内容（削除／訂正／利用停止）、背景を記録
• 本人確認：依頼者が本人（または正当な代理人）であることを確認
• 法令・契約の確認：保存義務の有無、保有目的の存否を判定
• リスク評価：削除による証跡欠落の影響、監査・係争対応の必要性を評価
• 処理方針の決定：削除／マスキング／保留（保存義務あり）を決定し、期限と責任者を明確化
• 実行：本番データとバックアップ双方を対象に、可逆性のない方法で消去（必要に応じて匿名化）
• 証跡化：実行日時、対象範囲、担当者、判断根拠をログ化し、監査証跡を保存
• 通知：依頼者へ結果と理由、再発防止や次回の手順を丁寧に説明

ポイントは「誰が、何を、いつ、なぜ、どうやって処理したか」を一貫して証跡化すること。これは内部統制のみならず、外部からの照会や苦情対応にも役立ちます。

ファクタリング事業者・金融機関側の実務チェックリスト

• プライバシーポリシーと社内規程に「保存期間」「削除基準」「バックアップの扱い」を明記しているか
• 犯収法・税務・監査の保存対象と期限を、部門横断で統一理解しているか
• 否決案件・未成約案件のデータ削除タイミングを定めているか
• 信用情報・企業調査の誤記訂正フロー（窓口・証憑・期日管理）が整備されているか
• 登記抹消の責任者・期限・必要書類を事故なく運用できているか
• ログ・バックアップの削除や匿名化に関するIT統制が機能しているか
• 依頼者対応の定型文（可否の説明・理由・代替提案）を用意しているか

依頼文の書き方（テンプレート例）

件名：情報削除（または訂正）依頼の件（申込ID：XXXX）

平素よりお世話になっております。下記情報の削除（または訂正）につき、ご対応をお願い申し上げます。

• 対象者・法人名：株式会社〇〇
• 対象情報：〇年〇月に提出した申込書及び添付の取引先リスト
• 依頼理由：当該申込みは否決により不成立であり、利用目的が終了しているため
• 根拠：貴社プライバシーポリシー第〇条、個人情報保護法（目的外保存の制限）
• 希望対応：本番データおよびバックアップの削除（不可の場合は理由と代替案をご提示ください）

必要書類がございましたらご指示ください。何卒よろしくお願いいたします。

現場での注意点（NGとリスク）

• 保存義務のある記録を安易に削除すると、法令違反・監査指摘・係争不利のリスク
• 信用情報を「裏ルートで消す」という不当要求や勧誘に関与しない（規約違反・違法リスク）
• 削除の代替としてのマスキングでも、復元可能性が残る方法は避ける
• バックアップやログを放置し、表データだけ消すのは不十分（二次漏えいの温床）
• ウェブの「口コミ削除」は表現・著作権・プロバイダ責任制限法等の論点が絡むため、法的根拠の検討が必須

よくある質問（FAQ）

Q. 取引が不成立でした。提出した書類は消してもらえますか？

A. 多くの場合、目的を終えた個人データは削除または匿名化の対象です。ただし、法令に基づく保存が必要な記録は残ります。事業者のプライバシーポリシーに沿って依頼しましょう。

Q. 信用情報機関の延滞記録をすぐ消せますか？

A. 事実に基づく記録の任意の削除はできません。誤登録であれば訂正が可能です。保有期間は各機関の規程（目安として5年、官報情報は10年など）に従います。

Q. 債権譲渡登記は「情報削除」と同じですか？

A. 現場ではそう呼ぶことがありますが、正しくは「抹消登記」です。法的な手続きで登記記録を閉じます。

Q. 反社データベースのヒットを消してほしいと言われました。

A. 事実に基づく記録は削除できません。誤検知の可能性がある場合は訂正申請や社内判断（非該当の根拠記録）で対応します。

Q. 削除した証跡はどのように残すべき？

A. 対象、方法（完全消去／匿名化）、日時、担当者、判断根拠を記録し、監査で追える形にしておくのが基本です。

ミニ用語辞典：周辺ワードも一緒に理解

• 抹消登記：登記記録の効力を消滅させる手続。債権譲渡登記の終了時に行う。
• 匿名化・仮名化：個人を特定できないように加工。再識別できないことが重要。
• 訂正請求：誤った個人情報の訂正を求める権利。事業者は調査・対応義務あり。
• 利用停止：目的外利用の停止を求める手続。削除と組み合わせて扱われる。
• 開示請求：事業者が保有する自分の個人データの内容を確認する手続。

実務で失敗しないコツ（まとめ）

「情報削除」は、単にデータを消す行為ではなく、法令・契約・内部統制の要件を満たしながら、適切な時期に適切な方法で実行するプロセスです。ファクタリングや金融の現場では、登記抹消、信用情報の訂正、反社チェックの誤検知対応など、領域ごとにルールが異なるのが実情。まずは「何を消すのか」「なぜ消すのか」「消せない根拠は何か」を整理し、可否の判断と説明を丁寧に行いましょう。結果として、顧客からの信頼だけでなく、社内のリスクも大きく低減できます。

迷ったときは、保存義務の有無と根拠法令、代替手段（匿名化・マスキング）、証跡管理の3点を確認する——この基本を押さえておけば、現場での「情報削除」はきっとブレなく回せます。