廃棄記録とは？金融業界で求められる適切な管理方法と注意点をわかりやすく解説

廃棄記録を正しく残す意味と実務のコツ：金融・ファクタリング現場での安心運用ガイド

「書類を捨てた」「データを消した」と伝えただけでは、金融・ファクタリングの現場では不十分です。なぜなら、顧客の個人情報や与信資料、債権原本の写しなど、機密性の高い情報を扱う業務では、廃棄の実態を客観的に示す証跡が求められるからです。本記事では、現場で頻出するワード「廃棄記録」について、意味・使い方・作り方・注意点まで、初心者にもわかりやすく丁寧に解説します。読めば、監査やトラブル時にも慌てない、安心できる運用のポイントがつかめます。

業界ワード（廃棄記録）

定義

廃棄記録とは、機密文書・電子データ・記録媒体などの「廃棄（消去・溶解・裁断・物理破壊など）」を実施した事実を、誰が・何を・いつ・どこで・どの方法で・どの承認に基づいて行ったかまで含めて残す証跡（ログ、台帳）のことです。金融機関、貸金業者、ファクタリング事業者などでは、個人情報保護や監査対応、事故発生時の原因追跡のために、廃棄のプロセスと結果を記録・保管することが実務上強く求められます。

なぜ「廃棄記録」が重要なのか

金融・ファクタリングの現場では、顧客情報、本人確認資料、信用調査資料、契約書、債権関連資料といった機微情報を扱います。廃棄記録を残さないまま処分すると、情報漏えい時に「本当に廃棄していたのか」「どの媒体が残っていたのか」が検証できず、責任の所在や再発防止策が曖昧になります。適切な廃棄記録は次の価値を生みます。

• コンプライアンス：個人情報保護や金融当局の監督指針、社内規程に沿った運用の証跡化
• 監査対応：内部監査・外部審査（ISMS、プライバシーマーク等）・取引先監査での提示資料
• リスク低減：委託先での不正・廃棄ミスの抑止、万一の事故時の影響範囲の特定
• 信頼の獲得：顧客や出資者・金融機関に対する情報管理力の明確なアピール

現場での使い方

言い回し・別称

現場では、以下のような言い回しや別称が使われます。

• 廃棄記録／廃棄台帳／廃棄ログ
• 破棄記録（「破棄」を使う会社もあり、意味はほぼ同義）
• データ消去記録／媒体廃棄記録／機密文書廃棄証跡
• 廃棄証明（委託先から受け取る証明書）／消去証明

使用例（3つ）

• 「保存期間満了の与信資料について、溶解処理の廃棄記録と業者の廃棄証明書を台帳に添付しておいてください。」
• 「ファイルサーバのKYCフォルダはNIST準拠ツールで消去し、操作ログを廃棄記録として保管します。」
• 「二社間ファクタリングの請求書コピーは、入金確認後に廃棄。担当者立会いで裁断し、廃棄記録にサインを残してください。」

使う場面・工程

廃棄記録は、次のような工程で作成・更新されます。

• 文書管理：保存期間の一括棚卸し、廃棄対象の確定、承認、実廃棄、記録化
• KYC・AML：本人確認記録や取引記録の保存期間満了時の消去・記録
• システム運用：退職者のPC・HDD・USB、故障サーバのストレージの物理破壊・消去ログの保管
• 事故対応：漏えい・誤送付後の再発防止で、廃棄プロセスの強化・記録項目の追加

関連語

• 保存期間／文書管理規程／取扱区分（極秘・社外秘等）
• 個人情報保護／情報セキュリティ／アクセス権管理
• 廃棄証明書（委託先発行）／媒体サニタイズ（データ無害化）
• 内部監査／ISMS（ISO/IEC 27001）／JIS Q 15001（Pマーク）

廃棄記録に最低限含めるべき項目

「何を」「どう廃棄したか」が客観的にわかるよう、以下の項目をそろえるのが実務の基本です。

• 廃棄対象の特定：文書名・フォルダ名・媒体種別（紙、HDD、USB、ノートPCなど）・件数/容量
• 分類と機密度：個人情報の有無、与信資料、契約書、KYC記録などの区分
• 保存期間と根拠：自社規程名、法令・ガイドラインの根拠（例：犯罪収益移転防止法の保存義務等）
• 廃棄理由：保存期間満了、取引終了、テストデータ削除、媒体交換など
• 廃棄方法：溶解、溶融、裁断（クロスカット等）、物理破壊、データ消去方式（例：NIST SP 800-88準拠）
• 日時・場所：実施日、保管庫やサーバ、処理場の所在地
• 実施者・立会者：担当者名、承認者名、外部業者名
• 証跡：写真、システムログ、廃棄証明書の写し、作業報告書、シール番号
• 例外・特記事項：廃棄見送りの理由、再スケジュール、事故/不適合の有無と対処

紙と電子、媒体ごとの廃棄方法と証跡化のポイント

紙文書（契約書・請求書・与信資料など）

• 方法：クロスカット以上のシュレッダー、溶解処理、立会い付き処理
• 証跡：処理前後の数量照合、立会いサイン、処理業者の廃棄証明書（処理日・重量等）
• 注意：スキャン保存で原本破棄する場合は、社内規程や関連法令・ガイドラインの要件（原本性・真正性・可視性・検索性等）を満たすこと

電子データ（ファイルサーバ、クラウド、メール、バックアップ）

• 方法：アクセス権剥奪→削除→ゴミ箱/履歴/世代バックアップの確実な消去、クラウドの削除証跡取得
• 証跡：削除操作ログ、監査ログ、システムのレポート出力、削除完了のスクリーンショット
• 注意：バックアップ媒体にも同じ方針を適用。仮想環境・SaaSの世代管理の見落としに注意

記録媒体（HDD/SSD、USB、PC、複合機のストレージ）

• 方法：NIST SP 800-88等に準拠したデータ消去（消去/クリア/パージ）または物理破壊（穿孔、破砕）
• 証跡：シリアル番号、消去ツールのレポート、破壊時の写真、業者発行の証明書
• 注意：SSDは上書きでは不十分な場合があり、適切なパージ/破壊手段を選択する

法令・ガイドライン上の目安（実務での一般的な考え方）

保存・廃棄の期間や方法は、事業内容・扱う情報・社内規程によって異なります。実務では以下がよく参照されます（各社で必ず最新の公式情報と顧問弁護士・専門家の確認を行ってください）。

• 個人情報保護法：利用目的達成に必要な範囲での保管、不要となった個人情報の削除・消去
• 犯罪収益移転防止法：本人確認記録・取引記録の保存義務（多くの金融業務で「7年間」が目安とされる）
• 会社法・商法・税法：帳簿書類等の保存期間の一般的な目安（7年等）
• 金融庁の監督指針・各種ガイドライン：顧客情報管理、委託管理、情報セキュリティ等
• ISMS（ISO/IEC 27001・27002）、JIS Q 15001（Pマーク）：情報資産のライフサイクル管理、廃棄の管理
• NIST SP 800-88：ストレージ媒体のデータ消去（サニタイズ）に関する実務の参考枠組み

これらの要件を社内の「文書管理規程」「情報セキュリティ規程」に落とし込み、廃棄記録の様式や承認フローを定めるのが王道です。

ファクタリング特有の実務ポイント

ファクタリングでは、売掛債権の関係書類や請求書写し、入金確認資料、取引先情報が扱われます。特有の注意点は次の通りです。

• 二社間ファクタリング：売掛先非通知のケースが多く、売掛先名・金額・支払サイト等の秘匿性が高い。保存期間満了後の廃棄は、紙・電子の両方で確実に行い、廃棄記録を残す。
• 三社間ファクタリング：通知書・合意書の原本・副本の扱いに注意。再発行が困難な書類は保存期間管理を厳格にし、廃棄時は承認レベルを上げる。
• 本人確認・反社チェック資料：スクリーンショットや照会結果の保存期間を規程化し、満了時に削除。外部照会システムのログも含めて証跡管理。
• 入金関連データ：入金データ・消込資料の個人情報含有有無を分類し、バックアップの消去を失念しない。

委託（外部業者）利用時の注意点

機密文書の溶解処理や媒体破壊を業者に委託する場合は、契約・運用・証跡の3点を整備します。

• 契約：守秘義務、再委託の制限、立会い可否、事故時の責任/報告、証明書の発行、処理方法の具体化
• 運用：回収箱の施錠、運搬ルートの管理、数量照合、封緘シールとシリアル管理、立会い・写真記録
• 証跡：廃棄証明書（処理方法・重量・日時・施設名）、作業報告、マニフェストが必要となる場合の管理

なお、廃棄物の取り扱い区分やマニフェストの要否は処理方法や分類によって異なるため、地域の行政ルールや業者の案内も確認してください。

よくあるミスと防止策

• 紙は捨てたが記録がない：台帳様式を標準化し、処理前に「廃棄票」を発行してから処理に進む。
• 電子データのバックアップが残存：バックアップの保持ポリシーと削除手順を規程に明記し、削除レポートを添付。
• クラウドSaaSの履歴/ごみ箱未消去：機能仕様を把握し、履歴期間と完全削除の操作を二重確認。
• 委託先任せで証跡不足：立会い、写真、重量・数量の事前計測、証明書の必須化を徹底。
• 保存期間の誤判定：資料ごとの根拠（法令・契約・規程）を台帳に併記し、年1回は棚卸し。
• SSD/HDDの消去方式の誤り：媒体種別ごとに推奨方式を一覧化、ツールのレポート出力を必須化。

実務で使える「廃棄記録」テンプレイメージ

以下の要素を1枚（またはシステム項目）にまとめると、監査対応もしやすくなります。

• 廃棄ID／案件名：例）2025-HAIKI-019／KYC記録2025年3月満了分
• 対象：紙文書（本人確認書類コピー 120件）、サーバフォルダ（/KYC/2024Q1、計8.2GB）
• 機密度：社外秘（個人情報あり）
• 保存根拠：社内文書管理規程 第◯条／犯罪収益移転防止法に基づく保存期間満了（7年）
• 廃棄理由：保存期間満了
• 方法：紙→溶解処理（立会いあり）、電子→NIST準拠ツールでパージ、履歴/バックアップ削除
• 日時・場所：2025/04/10 本社、2025/04/12 処理場（◯◯市）
• 実施者・立会者：実施（山田）、立会（佐藤）、承認（情報管理責任者 高橋）
• 証跡：溶解証明書No.XXXX、消去レポートPDF、写真3枚、封緘シールSN: A12345～A12347
• 備考：1件は法務判断で保存継続（2026/03まで）

監査で評価される運用フロー（おすすめ手順）

• 1. ルール設計：対象分類・保存期間・廃棄方法・承認権限・記録様式を規程化
• 2. 棚卸し：四半期/半期ごとに満了予定一覧を自動抽出（紙は台帳、電子はメタデータ）
• 3. 承認：例外（係争案件等）は保存継続、通常案件は廃棄指示
• 4. 実廃棄：チェックリストに沿って紙・電子・媒体を処理、数量/容量のダブルチェック
• 5. 記録：台帳更新、証跡添付、責任者サイン、検索性の担保（タグ付け・ID採番）
• 6. モニタリング：内部監査やスポット点検、委託先の現地確認
• 7. 改善：不適合の是正、教育・訓練、規程の年次見直し

用語辞典的補足：似ているけれど違う言葉

• 破棄：主に「無効化・取り消し」のニュアンスで使われることもある。現場では廃棄と同義で使う会社も。
• 消去（削除）：データの論理削除/物理消去を指す。媒体が残る場合は「媒体廃棄」と区別する。
• 溶解：紙文書を工場で水で溶かして再生紙化する処理。機密文書の主流手法。
• 物理破壊：HDD穿孔・破砕など、媒体自体を破壊する処理。
• サニタイズ：媒体中のデータ復元を実質的に不可能にする措置の総称。

チェックリスト：今日からできるミニ改善

• 廃棄記録の様式を1ページに統一し、全社で使う
• 「処理前の数量/容量」を必ず記録する欄を作る
• バックアップ削除の証跡（レポート/ログ）を添付必須にする
• 委託先の廃棄証明書の保管場所（フォルダ）を固定化する
• 満了予定の自動リマインド（カレンダー/タスク）を設定する

よくある質問（FAQ）

Q1. 廃棄記録はいつまで保管すべき？

一般には、当該情報の保存期間満了後も、監査対応や紛争リスクに備えて一定期間保管するのが実務的です。期間は業種・規程によりますが、年次監査をまたぐ期間（例：3年など）を目安に、社内規程で明確化してください。

Q2. シュレッダーにかけたら十分？

シュレッダーだけでは「廃棄した証拠」になりません。数量照合、立会い、写真、廃棄証明書などを組み合わせ、プロセス全体の証跡を残しましょう。クロスカットレベル以上を推奨します。

Q3. クラウドに保存している資料はどうする？

クラウドの削除は「論理削除」の場合があり、履歴・ごみ箱・世代管理・バックアップ領域の完全削除が必要です。ベンダの仕様・ログ取得方法を確認し、削除証跡を保存してください。

Q4. 原本をスキャンして破棄しても良い？

要件の厳格さは資料の種類や法令によって異なります。真正性確保や検索性、タイムスタンプ等の要件が課される場合もあるため、スキャン保存の可否・方法は社内規程と専門家の確認を経て運用しましょう。

ミニケーススタディ：監査で指摘されやすいポイント

あるファクタリング会社では、入金消込後の請求書コピー（紙）の廃棄は徹底されていたものの、メール添付で受領したPDFのバックアップがクラウドに残存していました。監査では「紙と電子で運用が分断」「バックアップ削除の証跡なし」と指摘。対策として、保存期間満了リストにクラウドパスを紐づけ、削除レポートを廃棄記録に添付する運用に改めた結果、次回監査で是正完了となりました。ポイントは「紙・電子・バックアップを同一案件IDで束ねる」ことです。

検索ユーザーへのメッセージ：まずはここから

廃棄記録は難しく見えますが、やることはシンプルです。「対象を正しく特定し、適切に処理し、第三者が見てもわかる形で証跡を残す」。この3点を徹底すれば、監査・事故・取引先からの確認依頼にも自信を持って対応できます。まずは自社の保存期間一覧と廃棄記録様式を見直し、来月の満了分から改善していきましょう。小さな一歩が、大きな安心につながります。

本記事が、金融・ファクタリングの現場で「参考になった」「疑問が解消した」と感じていただけたら嬉しいです。自社の規程や監督当局の最新情報に照らし合わせ、無理のない範囲から運用を整えていきましょう。

この記事の監修者

平松 樹 （ひらまつ いつき）

資金調達アドバイザー／元メガバンク法人営業・審査担当

金融実務20年以上。メガバンクで法人融資・審査・再生支援を担当後、独立。中小企業の資金繰り改善に特化し、請求書買取（ファクタリング）・ABL・リスケ・補助金活用まで一気通貫で支援。建設・運送・IT・医療など500社超の案件を伴走し、累計支援額は数十億円規模。入金サイト長期化や赤字決算・債務超過局面でも、債権譲渡禁止特約や民法改正（債権法）への実務対応、与信・反社/不当条項チェック、適正手数料レンジの見立てまで具体策を提示。安全性・適法性・スピードのバランスを重視し、「即日資金化」と「継続的な資金繰り安定」の両立を設計するのが強み。

所属：ファクタリングナビ