誤請求とは？原因・対策・トラブル事例をわかりやすく解説【初心者向けガイド】

誤請求の意味と実務対応：ファクタリング・金融の現場で避けるミスと防止策

「取引先から請求金額が違うと言われた」「二重で請求してしまったかもしれない」「ファクタリングの審査で“請求の正確性”を問われて不安」──こうした悩みは、請求実務に関わる多くの担当者が一度は経験します。この記事では、金融・ファクタリングの文脈でよく使われる現場ワード「誤請求」について、意味・原因・リスク・現場での言い回し・対処フロー・防止策まで、初心者にもわかりやすく丁寧に解説します。読めば、「どこから手を付ければよいか」「何を確認すべきか」が具体的にイメージできるはずです。

業界ワード（誤請求）

定義

誤請求とは、契約・注文・納品・検収などの事実に対して、請求内容（金額、単価、数量、税率、振込先、請求先名義、請求期間、締日、割引・リベート等）が一致していない、または重複している状態を指します。金融・ファクタリングの現場では、請求書そのものの誤りに加え、債権データ（売掛金情報）や債権譲渡通知の記載相違・名寄せ誤りなど、請求に紐づく周辺データの不整合も広く「誤請求」とみなされます。

典型例としては、二重請求、単価・数量の入力ミス、検収前のフライング請求、税率・インボイス番号の誤り、請求先の会社名や部署名の誤記、契約にない費用の請求、返品・値引の反映漏れなどが挙げられます。ファクタリング（売掛債権の買取）では、請求が正確であることが「債権の真正性」を支える前提となるため、誤請求は審査や買取可否、契約条項（償還請求・買戻し）に直結する重要テーマです。

現場での使い方

言い回し・別称

現場では次のような言い回し・別称がよく使われます。

• 請求ミス／請求誤り／過誤請求：一般的な総称。社内・社外いずれでも通じます。
• 二重請求／重複請求：同一対象への請求が二回以上発行・送付された状態。
• 過大請求／過小請求：本来より多く（少なく）請求してしまった状態。
• 赤伝対応：誤請求分をマイナス伝票（赤伝票）で相殺する訂正処理を指す現場語。
• 差額請求／再請求：訂正後の正しい金額で改めて請求し直すこと。
• 名寄せ誤り：取引先マスターの統合や部署名変更で別法人・別部門に誤って請求すること。
• 検収差異：納品・検収結果と請求内容が一致していない状態。

使用例（3つ）

• 「今月のA社向けに二重請求が発生。赤伝で相殺して差額分を再請求、ファクタリングの債権リストも差替します。」
• 「検収済み数量と請求数量に差異があり、過大請求でした。訂正請求書を本日中に送付して、入金消込は翌月にスライドします。」
• 「インボイス番号の記載漏れによる誤請求です。適格請求書で差し替えますので、取引先と買取ファクターへ同時に通知ください。」

使う場面・工程

誤請求は、営業（見積・契約）→調達・製造（納品）→バックオフィス（検収・請求）→金融（債権譲渡・資金化）→経理（入金消込・消費税計上）の各工程で発生し得ます。特に、

• 検収前の請求作成（受領確認不足）
• 契約条件（単価・値引き）の反映漏れ
• 名寄せ・締日ルールの取り違え
• システム移行時のマスタ不整合
• インボイス制度対応（税率・登録番号）の入力ミス

といった局面で出やすく、ファクタリングでは「債権データの真正性確認（証憑つき合わせ、三者確認）」の段階で顕在化することが多いです。

関連語

• 債権の真正性／表明保証／買戻し（償還請求）
• 三者間ファクタリング／二者間ファクタリング／コンファメーション（債務者確認）
• 入金消込／相殺／リベート／赤伝・青伝／デビットノート・クレジットノート
• 適格請求書（インボイス）／適格請求書発行事業者番号／税率区分
• 名寄せ／債権譲渡通知／債務者名変更

誤請求が起きる主な原因

誤請求の背景には、人・プロセス・システムのそれぞれに要因があります。代表的な原因を整理します。

• 入力ミス・転記ミス：手作業による数量・単価・税率の取り違え、桁ズレ、コピー＆ペースト誤り。
• 契約条件の反映漏れ：個別契約の値引き・リベート・運賃負担などが請求に落ちていない。
• 検収未了・納品差異の未反映：検収数量・品質結果が確定する前に請求を起票してしまう。
• 締日・請求先の取り違え：複数拠点・部門で締日ルールが異なり、誤った宛先や期間で作成。
• 返品・キャンセル・工事中止の反映遅れ：マイナス処理（赤伝）や差額調整が翌月回しになり、二重計上に。
• 税区分・インボイス要件の不備：税率の誤設定、適格請求書の必須項目（登録番号、適用税率等）の欠落。
• マスター不整合・名寄せ誤り：取引先名変更・合併・部門再編に追随できず、別法人へ誤請求。
• システム連携のズレ：ERP・販売管理・検収システム・ファクタリング用債権管理のデータ差異。

誤請求が招くリスクと影響

誤請求は単なる「事務ミス」にとどまらず、信用・資金繰り・契約リスクに波及します。

• 取引先との信頼低下：支払保留・支払サイトの長期化、発注減少につながる可能性。
• キャッシュフローの乱れ：入金遅延、差額の再請求に伴う未回収期間の発生。
• ファクタリング契約上の影響：債権の真正性に疑義が生じ、買取拒否・取引縮小・追加資料要求が増える。ウィズリコース（償還あり）では買戻し請求の対象になり得る。
• 会計・税務の手戻り：売上修正、消費税の課税区分修正、監査指摘リスクの増大。
• 社内コストの増加：問い合わせ対応、書類再発行、入金消込の複雑化、関係部署の工数増。

発生時の対応フロー（初動から再発防止まで）

誤請求が発覚したら、初動の早さと情報の一元化が鍵です。以下を目安に進めましょう。

• 事実確認：契約書・注文書・納品書・検収記録・請求書・メールログを突合し、誤りの範囲と原因を確定。
• 影響範囲の特定：対象取引先、請求書番号、金額、税区分、債権譲渡の有無、入金状況を一覧化。
• 社外連絡の優先順位付け：取引先（債務者）への謝辞・訂正案内を最優先。ファクタリング会社へも同時に事実と是正計画を共有。
• 訂正書類の発行：状況に応じて「赤伝（マイナス伝票）」「訂正請求書」「差額請求書」「再請求書」を選択。インボイス制度の必須記載事項も満たす。
• 債権データの差替：ファクタリングに供出した債権一覧・CSV・API連携データを訂正後の内容に差し替え、受領確認を記録。
• 会計・税務の処理：仕訳の取消・訂正、消費税の課税・不課税区分の再判定。税務影響は顧問税理士とも整合を取る。
• 入金消込の調整：既入金がある場合は相殺・返金・翌月相殺の方法を取引先と合意し、証跡化。
• 原因分析と是正：ヒューマンエラー・ルール欠落・システム設定のどこに原因があったかを切り分け、チェックポイントを標準化。

防止策・チェックリスト（今日からできる実務対応）

再発を防ぐには、属人化を排し、証憑ベースでの自動照合とダブルチェックを組み合わせるのが王道です。

• プロセス面
  • 検収基準の明文化：検収完了（納品受領・数量確定）前には請求起票しない。
  • 契約条件の一元管理：単価・割引・運賃・リベートを契約マスターに集約し、請求に自動反映。
  • 締日・請求先の台帳化：部門別締日・宛先・支払条件をカレンダーで可視化。
  • 変更管理：取引先名変更・合併・部署移動は承認フロー付きでマスター更新。
• 人・体制面
  • 職務分掌とダブルチェック：起票と承認を分離。金額閾値に応じて二重承認。
  • 教育・標準化：赤伝・再請求の使い分け、インボイス必須項目のチェックをマニュアル化。
  • KPIの可視化：誤請求率、差し戻し件数、訂正リードタイムを月次でレビュー。
• システム面
  • 自動照合：注文・納品・検収・請求の三点（四点）照合ルールをシステムに実装。
  • マスターの厳格運用：重複取引先の自動検知、名寄せ規則、締日ロジックのルール化。
  • インボイス対応：税率自動判定、登録番号の必須チェック、記載漏れアラート。
  • ファクタリング連携：債権CSV/APIの定義統一、差替履歴の監査ログ化。

クイックチェックリスト（請求前・出荷前に最終確認）

• 契約・注文番号と請求書のひも付けは正しいか。
• 数量・単価・税率・通貨が契約通りか（小数点・桁含む）。
• 適格請求書の必須項目（登録番号、税率、税額、適用税率ごとの区分）が満たされているか。
• 請求先名義・部署・住所・担当者メールは最新か。
• 値引・リベート・返品・キャンセルの反映漏れはないか。
• ファクタリング提出用の債権データと請求書PDFの内容が一致しているか。

具体的なトラブル事例と対処

事例1：二重請求のまま債権を買取に出してしまった

状況：システム移行直後、同一納品に対して2枚の請求書が発行。うち1枚をファクタリングで買取に出し、もう1枚は債務者に送付済み。債務者が差し戻しで発覚。

対処：直ちに赤伝で誤請求分をマイナス処理し、債務者とファクタリング会社双方に訂正通知。ファクタリングの債権リストも差替。買取済み分については真正な債権のみ残すよう契約に従って調整（必要に応じて一部買戻し）。

ポイント：移行期は請求番号の重複・連番ズレに注意。買取前の最終差分チェック（債権データと請求PDFの突合）を設ける。

事例2：インボイス番号の記載漏れで支払保留に

状況：取引先の経理規程上、適格請求書の要件不備は支払不可。登録番号の記載漏れが複数件見つかり、支払が翌月にスライド。

対処：訂正請求書を即日発行し、取引先に到達した時点をもって支払手続きを再開してもらう。ファクタリング会社には入金サイト変動の影響を共有し、必要に応じて買取限度額・アドバンス割合の見直しに備える。

ポイント：請求書テンプレートのロック、発行前の必須項目チェック（未入力アラート）で再発を防止。

事例3：検収前請求が原因で買取不可に

状況：大型案件で検収書の発行が遅延。請求だけ先行したため、ファクタリング審査で「検収未了＝真正性が未確定」と判断され、買取不可（もしくは大幅なディスカウント条件）。

対処：検収完了後に請求し直し、検収証憑（受領書・メール承認等）を添付して再審査へ。

ポイント：部分検収・出来高請求など契約上の請求条件を整理し、証憑で裏づける。

事例4：名寄せ誤りで別法人に送付

状況：グループ内再編にともなう社名・部署名変更に追随できず、別法人宛に請求。返送により発覚。

対処：正しい宛先に再発行。マスター更新の承認フローを強化し、グループコード・法人番号のキー管理を徹底。

ポイント：取引先の組織変更情報は営業・バックオフィス・システム管理で共有し、変更時は過去の与信・請求履歴の突合を行う。

よくある質問（FAQ）

誤請求と架空請求の違いは？

誤請求はミスや内部統制の不備による「間違い」で、事実と請求が一致していない状態。架空請求は実体のない取引を意図的に計上する不正です。ファクタリングでは、どちらも債権の真正性に直結しますが、不正は契約違反・法的問題に発展します。

誤請求が多いとファクタリングの審査に不利？

はい。不正確な請求が多い企業は、内部統制や請求プロセスの成熟度に課題があると見なされ、買取率の低下、追加証憑の要求、限度額の抑制などの条件悪化につながりやすいです。誤請求率や差し戻し率の改善は、審査のプラス材料になります。

赤伝と再請求の使い分けは？

過大請求や二重請求の訂正には赤伝（マイナス）で元の請求を取り消し、正額で再請求するのが一般的です。軽微な差額調整は差額請求書で対応する場合もあります。相手先の会計規程に合わせて書式を選び、相手と合意した方法で処理しましょう。

消費税・インボイス制度の影響は？

税率や適格請求書の要件不備は、相手の仕入税額控除に影響し、支払保留・差し戻しの原因になります。訂正請求書の迅速な再発行と、テンプレート・システムの必須チェック設定が有効です。具体的な税務判断は自社の税務担当・顧問税理士と整合を取ってください。

金融・ファクタリング実務の観点で押さえるべき要点

• 真正性の裏づけ：注文書、納品書、検収記録、請求書の整合は最低限。サービス系なら作業報告書・受領メール・検収サインも保存。
• 三者間の整合：売主・買主・ファクターで「請求内容＝債権内容」の一致を確認できる仕組み（コンファメーション）があると強い。
• 差替の透明性：訂正履歴・差替履歴を残し、誰がいつ何を直したかの監査ログを確保。
• 与信への波及：誤請求が多い先は、ファクターから見て「回収プロセスに不確実性が高い」ため、アドバンス率や手数料に影響する。

現場で使えるテンプレ文例（通知・メール）

取引先（債務者）向け訂正通知

件名：請求内容訂正のご連絡（請求書No.XXXX）
本文：
平素よりお世話になっております。
このたび弊社から送付いたしました請求書（No.XXXX、金額△△円）に誤りがございました。正しくは金額□□円となります。
訂正請求書（適格請求書）を本メールにて添付いたします。大変ご迷惑をおかけし申し訳ございません。
本件に関しご不明点がございましたらお知らせください。

ファクタリング会社向け差替依頼

件名：債権データ差替のお願い（取引先A／請求書No.XXXX）
本文：
いつもお世話になっております。
当該債権について、請求金額・税区分の訂正が発生しました。訂正後の請求書PDFおよび債権データ（CSV）を添付いたします。
買取可否・条件に影響がある場合はご指摘ください。差替履歴は社内で管理しております。

まとめ：誤請求は「早期発見・速やかな訂正・仕組み化」で最小化できる

誤請求は、どの組織でも一定確率で起こり得ます。大切なのは、発生をゼロにすることだけではなく、

• 発見を早める（照合・アラート・ダブルチェック）
• 訂正を早める（赤伝・再請求の標準手順、関係者への同時通知）
• 再発を防ぐ（契約条件の一元管理、検収基準の徹底、インボイス要件の自動チェック、ファクタリング連携の整備）

この3点を地道に回すことで、取引先の信頼、資金繰りの安定、ファクタリング条件の改善につながります。まずは自社の請求プロセスを棚卸しし、今日できるチェックリストの導入から始めてみてください。小さな改善の積み重ねが、誤請求の大幅な減少と、金融取引の信頼性向上に直結します。

この記事の監修者

平松 樹 （ひらまつ いつき）

資金調達アドバイザー／元メガバンク法人営業・審査担当

金融実務20年以上。メガバンクで法人融資・審査・再生支援を担当後、独立。中小企業の資金繰り改善に特化し、請求書買取（ファクタリング）・ABL・リスケ・補助金活用まで一気通貫で支援。建設・運送・IT・医療など500社超の案件を伴走し、累計支援額は数十億円規模。入金サイト長期化や赤字決算・債務超過局面でも、債権譲渡禁止特約や民法改正（債権法）への実務対応、与信・反社/不当条項チェック、適正手数料レンジの見立てまで具体策を提示。安全性・適法性・スピードのバランスを重視し、「即日資金化」と「継続的な資金繰り安定」の両立を設計するのが強み。

所属：ファクタリングナビ