承諾取得とは？ファクタリングや金融取引で失敗しないためのポイントと注意点を徹底解説

ファクタリング現場で必須の「承諾取得」をゼロから理解する：意味・実務フロー・リスク対策まで

「承諾取得って何？取引先に何をお願いするの？」——初めてファクタリングや債権譲渡に関わると、こうした疑問を抱くのは自然なことです。承諾取得は、支払い先（債務者）に“これからはこの請求の支払先が変わります”と正しく認めてもらうための大事なプロセス。ここを曖昧にすると、代金が元の口座へ振り込まれてしまう、譲渡禁止特約で支払いが止まる、第三者への対抗力（法的な主張力）が弱くなるなど、実務上のトラブルが起きやすくなります。本記事では、金融・ファクタリングの現場で当たり前に使われる「承諾取得」を、初心者にもわかりやすく、具体的な手順・書類・注意点まで丸ごと解説します。

業界ワード（承諾取得）

定義

承諾取得とは、売掛金や請求権などの債権を第三者（ファクタリング会社や金融機関）に譲渡・売却する際、支払い義務を負う相手方（債務者・売掛先）から、支払先変更や債権譲渡の事実について「承諾（合意）」を正式に得ることを指します。実務上は「債権譲渡通知兼承諾書」などの書面で交わし、確定日付を備えた形で残すのが基本。これにより、①支払先の明確化、②譲渡禁止特約に対する不安の軽減、③第三者への対抗力の補強といった効果が期待できます。

なぜ承諾取得が重要なのか

承諾取得の重要性は、以下の実務・法務の観点で理解できます。

• 支払先の固定化：債務者の支払先が明確になり、誤送金や「元の取引先に払ってしまった」という事故を防げます。
• 第三者対抗力の確保：債権譲渡は、通知や承諾を適切な形式で行うことで、第三者に対して主張しやすくなります（日本の民法・関連特例法の実務）。
• 譲渡禁止特約の影響緩和：契約書に譲渡禁止特約があっても、債務者が承諾すれば、支払実務上の障害が減り、支払いが円滑になります。
• 資金化スピードの向上：承諾が早く取れるほど、ファクタリングの最終実行（入金）が早まります。
• 紛争・回収リスクの低減：支払い期日に「どこへ払えばよいか」で揉めにくくなり、管理コストも下がります。

現場での使い方

言い回し・別称

承諾取得は現場では次のように表現されます。

• 承諾取り／承諾もらい
• 債務者承諾／債権譲渡の承諾
• 支払先変更承諾／支払承諾
• 三者間同意（ファクタリング会社・売主・債務者の三者で合意）

使用例（現場の言い回し）

• 「今週中に主要先2社の承諾取得、お願いします。確定日付は公証役場で付けてください。」
• 「譲渡禁止特約があるので、先方の法務チェック後に承諾書を回します。」
• 「半分だけ承諾とのことなので、今回の対象請求書を分けて再提出します。」

使う場面・工程

承諾取得は、ファクタリングや債権譲渡を実行する直前〜実行後の早い段階で行います。典型的な工程は次のとおりです。

• 事前確認：基本契約・個別契約に譲渡禁止特約がないか確認。ある場合は、事前に債務者の社内承認ルート（購買・経理・法務）を把握。
• 書類準備：債権譲渡通知兼承諾書、対象請求書の一覧、支払先口座情報、印鑑証明（必要に応じて）など。
• 提出・説明：債務者の担当窓口へ趣旨説明と書類送付。大手は所定フォーマットを要求するケースあり。
• 確定日付の付与：公証役場で確定日付を付ける、または内容証明郵便・配達証明郵便を活用するなど、対抗力を補強。
• 回収管理：承諾取得後、支払期日までに支払指示が社内で回っているかをフォロー。支払直前のリマインドも有効。

関連語

• 債務者通知：譲渡人が債務者に対し、債権譲渡の事実を通知すること。承諾とセットで扱われます。
• 債権譲渡登記：登記により第三者対抗力を補強する手段。非通知型（二者間）で用いられやすいです。
• 確定日付：いつ作成されたかを公的に証明する日付。公証役場付与、公正証書、内容証明郵便の受領日などが該当。
• 譲渡禁止特約：契約上、債権の譲渡を制限する条項。承諾取得で実務上の障害を下げられます。
• 二者間／三者間ファクタリング：債務者へ通知・承諾を取る（三者間）か、取らない（二者間）かの区別。
• ノンリコース：償還請求権なしの買取。承諾取得はリスク低減に直結します。

承諾の取り方（実務フロー）

承諾取得は、スピードと法的安定性の両立が肝心です。代表的な進め方を具体的に整理します。

• 1. 事前ヒアリング：債務者に「支払先変更の可否」「社内決裁の経路・所要日数」「必要書式」を確認。
• 2. 書式準備：債権譲渡通知兼承諾書（対象債権の特定・金額・満期日・支払口座・再譲渡の可否・相殺留保の扱い等）。
• 3. 送付と説明：メール＋郵送（原本）で送付。大口ではオンラインのワークフロー登録を求められることも。
• 4. 確定日付の確保：可能なら公証役場で確定日付を取得。最低限、内容証明郵便・配達証明で送達日を明確化。
• 5. 回収前の確認：支払予定表・支払依頼書に反映されたかを確認し、必要に応じて再周知。
• 6. バックアップ策：承諾が遅延・困難な場合、債権譲渡登記や対象の絞り込み、代替先の選定などでリスクを管理。

承諾書の記載項目（チェックリスト）

最低限、次の項目が明確だと実務がスムーズです。

• 当事者の表示：譲渡人（あなたの会社）、譲受人（ファクタリング会社等）、債務者（支払先）
• 対象債権の特定：請求書番号、発生日、金額、支払期日、取引内容
• 支払指図：新しい支払先口座（銀行名・支店・口座番号・名義）
• 相殺・返品・値引の扱い：承諾時点までの調整と、承諾後の調整方法
• 譲渡禁止特約への対応：債務者として承諾により支払う旨を明確化
• 準拠法・合意管轄（必要に応じて）：法務部門が重視する項目
• 署名・押印・日付：法的安定性の観点から原本で保管。確定日付の取得推奨
• 問い合わせ窓口：支払の運用担当、連絡先、メールアドレス

ケース別の注意点

1. 大企業・官公庁向けの請求

購買・経理・法務の承認フローが明確で、所要日数が長めになりがちです。相手先の「所定フォーマット」や「支払先変更申請システム」への登録が必要な場合が多く、早めの打診が肝心です。締め日・検収日・支払サイトも厳格なので、承諾書の返送期限を余裕を持って設定しましょう。

2. 中小企業・個人事業者が債務者の場合

譲渡禁止特約の有無や、支払先変更への心理的ハードルで、承諾が後ろ倒しになりやすい傾向があります。メリット（請求の正当性・支払の確実性が高まる）を丁寧に説明し、フォーマットを簡便にする、提出負担を下げるなどの配慮が実務上有効です。

3. 電子記録債権（でんさい等）

電子記録債権は、譲渡・支払の指定が記録機関（例：でんさいネット）の手続に従います。承諾取得の趣旨は同じでも、運用は「記録変更の申請・承認」を通じて行われます。紙の承諾書とは流れが異なるため、事前に債務者の運用ルールを確認しましょう。

4. 医療・介護報酬など公的性の強い債権

支払基金や国保連合会等に対する届出・所定の委任や譲渡手続が定められているケースがあります。各機関の最新の手続案内に従い、必要書式・締切を厳守することが大切です。

よくあるQ&A

Q1. 口頭やメールの承諾でも大丈夫？

結論、書面（原本）での承諾取得が安心です。特に第三者への主張や支払トラブル時の証拠価値、社内統制の観点から、確定日付のある形で保全するのが実務の基本です。メールのみでは相手社内での統制や真正性の確認が弱くなるリスクがあります。

Q2. 債務者に承諾を断られたら？

代替策として、二者間ファクタリング（非通知）＋債権譲渡登記で対抗力を補強する方法があります。ただし、誤払（元の口座への入金）リスクやコスト増を伴います。可能なら対象先の見直しや請求単位の分割で部分承諾を狙い、将来的な三者間移行を目指すのが現実的です。

Q3. 対象請求の一部だけ承諾された場合は？

承諾済みの請求書だけを別立てで買取対象にし、未承諾分は後回しにする運用が安全です。請求番号・金額・期日を分けて特定できるよう、明細管理を徹底しましょう。

Q4. 取引先に知られずに資金化したい

非通知（二者間）の選択肢はありますが、支払が元口座に入る可能性や、売掛遅延時の負担（償還）が重くなりがちです。調達コストやリスクとのバランスを踏まえ、最適な手段を比較検討してください。

Q5. 譲渡禁止特約があると絶対に無理？

契約条項の内容・適用範囲によりますが、債務者側の承諾が得られれば、実務上の支払は進めやすくなります。個別合意での例外対応や、相手先の法務確認を前提に交渉の余地があるケースもあります。

失敗しないための実務チェックリスト

• 相手先契約の譲渡禁止特約の有無・文言を確認したか
• 債務者の承認ルート（部署・決裁権者・締切）を把握したか
• 対象債権の特定（請求番号・金額・期日）が明瞭か
• 支払先口座・名義・金融機関情報に誤りがないか
• 承諾書の原本回収・確定日付の確保ができているか
• 支払サイクル前に再周知・リマインドを行ったか
• 承諾が遅延した場合の代替策（登記、対象変更）の準備があるか
• 社内保管・証憑管理（スキャン・原本保管・アクセス権限）が整備されているか

承諾取得と法律・ガバナンスの基本理解

日本の実務では、債権譲渡の対抗力（第三者に主張できる力）を確保するうえで、「債務者への通知」または「債務者の承諾」を、確定日付のある形で整えることが重要とされています。また、動産・債権譲渡の特例法に基づく「債権譲渡登記」を活用して対抗力を補強する運用も一般的です。どの手段を選ぶかは、債務者の規模・内部統制、契約条項（譲渡禁止特約）や調達スピードの要請に応じて、実務的に最適化するのがポイントです。最終判断に際しては、具体的な契約文言や相手先の社内ルールを踏まえ、必要に応じて専門家（弁護士・司法書士・公証役場）へ相談すると安心です。

ファクタリングの方式と承諾取得の関係

• 三者間ファクタリング：債務者の承諾取得が前提。支払先が変更されるため、誤払リスクが低く、回収の見通しが明確になりやすい。
• 二者間ファクタリング：債務者へ通知・承諾を取らない代わりに、債権譲渡登記や内部モニタリングを強化。迅速性はあるが、回収リスクとコストが上がりやすい。

実務では、まず三者間で重要先を固め、難易度が高い先だけ二者間で運用するなど、併用での最適解を図るケースが増えています。

承諾取得を円滑にする交渉のコツ

• 相手の負担を減らす：事前記入済みのフォーマットを提示し、押印・署名だけで済む形にする。
• メリットの共有：支払先が明確になり、請求・支払の突合作業が軽くなることを説明する。
• 社内統制への配慮：法務・経理・購買の懸念（コンプライアンス、相殺、返品）を事前に潰す。
• 期限とリマインド：支払サイトを逆算し、返信期限・フォローのスケジュールを組む。
• トラブル未然防止：紛争時の連絡フローや、相殺・クレーム発生時のハンドリングを文面で明記。

ミス・トラブル事例と対策

• 対象債権の特定不十分：請求番号の記載漏れで誤払発生。対策＝一覧表にして双方で突合。
• 承諾書の返送遅延：決裁ルートが長く、支払期日に間に合わず。対策＝早期打診・仮承認メール＋原本追送。
• 譲渡禁止特約の見落とし：法務チェック抜けで差し戻し。対策＝基本契約・注文書も含めて全体確認。
• 確定日付なし：第三者との優先関係で不利に。対策＝公証役場・内容証明の活用。
• 経理の未周知：債務者の現場担当だけが認識し、経理が旧口座へ送金。対策＝経理宛の再通知・決裁文書への添付。

まとめ：承諾取得は「スピード×法的安定性×相手配慮」の三拍子で

承諾取得は、単なる書類回収ではありません。支払先の明確化、譲渡禁止特約の影響緩和、第三者対抗力の補強という、資金化の「安全性」を作る中核プロセスです。要点は、①相手先の手続フローを正確に把握する、②対象債権を具体的に特定し、確定日付を備える、③支払サイトから逆算してスケジュール管理する、の3つ。もし承諾が難航しても、登記や対象の分割など代替策はあります。この記事のチェックリストとフローを基に、一つずつ整えていけば、初心者でも現場で通用する実務レベルに到達できます。迷ったときは、相手先にとってのやりやすさ（書式の簡素化、説明の丁寧さ）を意識して進めてみてください。結果的に、最短で安全な資金化に近づけます。