在庫評価とは？正しい計算法・種類・メリットを初心者にもわかりやすく解説

在庫評価の基本と実務ポイント：金融・ファクタリングの現場で差がつく見方と計算

「在庫評価って、結局どう計算すればいいの？」「金融機関は在庫をどう見ている？」——はじめて会計や資金調達に向き合うと、こんな疑問が次々に湧いてきますよね。在庫は利益も資金繰りも左右する大きな資産。だからこそ、評価方法を正しく選び、実務の流れを知っておくことが安心につながります。本記事では、ファクタリングや銀行融資、為替を扱う現場で通用する“在庫評価”の考え方・計算法・使い方を、やさしく、しかし実務に役立つ深さで解説します。

業界ワード（在庫評価）

定義

在庫評価とは、棚卸資産（商品・原材料・仕掛品・半製品・製品など）を会計上どの金額で計上するかを決めるプロセスのことです。取得原価を基礎に、期末時点の収益性や正味実現可能価額（売価から販売費用等を差し引いた実際に回収できる見込み額）を考慮して評価するのが一般的。評価方法の選択は、売上総利益・税金・借入限度・財務比率（流動比率・運転資金）に直結します。

在庫評価の基礎知識：対象と原則

在庫評価の対象は、通常以下を含みます。

• 商品（転売目的の仕入品）
• 原材料・部品（製造の投入物）
• 仕掛品・半製品（加工途中の在庫）
• 製品（完成品）
• 付随費用を含む取得原価（運賃・荷役・関税・保険料など合理的に配賦できるもの）

多くの会計基準で共通する考え方は「取得原価主義」と「収益性の低下がある場合は切下げ（低価法）」です。つまり、原価で評価するのが原則ですが、値下がりや滞留・陳腐化で売れ行きが悪化した場合は、正味実現可能価額まで減額します。

主な計算方法（コストフロー仮定と低価法）

コストフロー仮定（原価の割当方法）

• 先入先出法（FIFO）：先に仕入れた在庫から先に売れたとみなす。物価上昇局面では期末在庫が新しい価格に近づき、在庫価額は相対的に高め、売上原価は低めになりやすい。
• 平均法（総平均・移動平均）：入庫の平均単価で評価。価格変動を平準化し、現場でも運用しやすい。
• 個別法：個々の単価が識別できる高額・少量品（機械、特殊部材など）に適用。
• 後入先出法（LIFO）：後から入った在庫が先に出るとみなす方法。会計基準により採用可否が異なるため、会社が採用する基準に従い専門家と要確認（国際的には認められない基準があります）。
• 小売法など：小売業で粗利率を用いて在庫原価を推定する手法もあります。

低価法（LCM/正味実現可能価額）

期末に「原価」と「正味実現可能価額（NRV）」を比較し、低い方で評価する考え方です。滞留や陳腐化がある場合は評価減（在庫評価損）を計上します。価格下落、型落ち、破損、返品見込みなどが代表的な要因です。

在庫評価の会計処理の考え方

• 期中は選択したコストフロー仮定で売上原価と在庫を計算。
• 期末に低価法テストを行い、必要に応じて評価損を計上。
• 翌期以降、回復が明らかな場合の戻入可否は会計基準に依存（採用基準に従い専門家と確認）。

会計基準・税務上の留意点（実務で迷わないために）

会計基準（日本基準、IFRS、US GAAPなど）により、採用可能な方法や用語が一部異なりますが、共通して重要なのは次の点です。

• 取得原価を合理的に配賦すること（直接材料費、加工費、関連する間接費の配賦）。
• 収益性の低下が認められる在庫は切下げ（低価法）。
• 評価方法の継続性（恣意的な方法変更は原則不可、変更時は注記・影響額の開示が必要）。
• 税務は会計と一致しない場合があり、別表調整が発生することがある。

各社が採用する基準によって詳細は変わるため、最終判断は公認会計士・税理士に確認してください。

現場での使い方

言い回し・別称

• 棚卸資産評価／在庫の評価替え／低価評価／在庫評価損／評価減
• エイジング（在庫滞留日数）／陳腐化、滞留在庫、死に筋在庫
• NRV（正味実現可能価額）／LCM（Lower of Cost or Market）

使用例（3つ）

• 「今期は型落ち製品が増えたので、NRVベースで低価評価を計上します。粗利と在庫回転を同時に見直しましょう。」
• 「ABLのボローベース算定で、滞留在庫と仕掛品は掛目を下げられる可能性があります。評価方法とエイジング表を提示してください。」
• 「ドル建て輸入の原材料は為替が円高に振れた分、NRVテストの結果次第では評価損が必要です。ヘッジの影響も合わせて説明します。」

使う場面・工程

• 決算・四半期決算の在庫評価、実地棚卸、監査対応
• 銀行融資・ABL・在庫ファイナンスの審査、借入限度（アベイラビリティ）計算
• ファクタリング提案時の信用補完分析（運転資金改善、在庫回転日数短縮）
• 予算策定・原価管理・SKU削減、価格改定判断

関連語

• 在庫回転率／回転日数／在庫エイジング
• ボローベース（Borrowing Base）／アドバンスレート（掛目）
• 実地棚卸／サイクルカウント／棚卸差異
• 在庫担保融資／動産譲渡登記／フィールド監査

ファクタリング・ABLと在庫評価の関係

通常のファクタリングは「売掛債権」を資金化しますが、運転資金を総合的に考えると、売掛金の前工程にある「在庫」の健全性が極めて重要です。特に以下の点で在庫評価が効いてきます。

• 借入限度（アベイラビリティ）への影響：ABLや在庫ファイナンスでは、在庫カテゴリ（原材料・仕掛品・製品）や滞留状況に応じて評価額に控除や掛目が設定されます。評価が甘いと後で是正が入り、借入余力が想定より小さくなることも。
• 信用力の説明力：低価法やエイジングを適切に管理し、滞留や陳腐化を定期的に処分・評価減している会社は、在庫の透明性が高く金融機関からの信頼を得やすい。
• 資金繰り連動：在庫回転の改善（SKU整理、発注点管理、リードタイム短縮）は、売掛債権の回収に先行する資金効率の改善に直結。ファクタリングと併用すると資金繰りの波をならしやすい。
• 倉庫証券・在庫担保：第三者倉庫や保管証券を活用する在庫ファイナンスでは、在庫の所在・所有権・保険付保・品質管理と一体で評価が行われます。

為替・国際取引での在庫評価：ここだけは押さえる

• 多通貨の取得原価：輸入品は仕入通貨（例：USD）で発生し、帳簿通貨（例：JPY）へ換算。決算時点の為替レートや期中の平均単価への影響を整理します。
• NRVへの為替影響：円高で想定売価が相対的に下がる／円安で輸入原価が上がるなど、NRVテストに影響。価格改定やプロモーション原資も含めて検討。
• 付随費用の扱い：関税・保険料・内外運賃・通関費用の配賦は、原価に含める範囲を社内方針で明確化。
• 在途品・インコタームズ：FOBやCIFなどの条件によって所有権移転のタイミングが異なるため、計上基準を契約と整合させます。
• ヘッジの影響：為替予約やオプションの効果は、会計方針に沿って開示・測定（ヘッジ会計の可否は基準と実態に依存）。

金融機関・貸金業の審査で見られるポイント

• 在庫エイジングの粒度（製品分類・SKU別・90日超滞留の把握）
• 評価方法の妥当性と継続適用、低価法の判断根拠（見積売価・販売費用の算定）
• 実地棚卸・サイクルカウントの体制、棚卸差異率、是正プロセス
• 仕掛品・受託品・委託品の区分け、所有権の明確化
• 季節性・新製品入替サイクル・返品リスクの把握
• システム統制（ERP・WMS・バーコード/RFID）、ロット・有効期限管理
• 保険付保（火災・盗難等）、第三者倉庫の管理、在庫担保の優先順位（動産譲渡登記等）

よくある審査上の除外・控除例として、過度に滞留した在庫、返品見込みの高い在庫、仕掛品や原材料（完成品比で価値確定性が低い）などが挙げられます。基準や掛目は金融機関ごとに異なるため、事前に開示可能な資料（エイジング表、滞留在庫の処分計画、評価減の方針）を準備しておくとスムーズです。

実務フロー：在庫評価の進め方

• 事前準備：品目マスタ・原価計算の方針（FIFO/平均法/個別法）を明文化。付随費用の配賦ロジックやNRVテストの基準も決める。
• 実地棚卸：年1回以上、重点品はサイクルカウント。差異の原因（記帳漏れ、ロス、盗難、誤出荷）を分析。
• 単価決定：期中の仕入・製造データから原価単価を確定。価格変動の大きい品目は移動平均で平準化。
• 低価法テスト：販売価格見込み、販売費用、滞留状況からNRVを算定。必要に応じて評価減を計上。
• 帳簿反映・開示：評価替えの影響額を財務諸表・注記に反映。重要な見積もりは説明資料を整備。
• 改善アクション：滞留在庫の処分計画、SKU削減、発注点見直し、価格改定、プロモーションなど。

具体例で理解する在庫評価

例：ある製品Aの期中仕入は以下の通り。期末棚卸数量は60個。想定売価は1,150円、販売費用は1個あたり50円。

• 1月 仕入 50個 × 900円
• 3月 仕入 50個 × 1,000円
• 11月 仕入 50個 × 1,100円

1. FIFOの場合の期末在庫原価：最新仕入から60個を構成するため、1,100円×50 + 1,000円×10 = 55,000 + 10,000 = 65,000円。平均単価は 65,000 ÷ 60 ≒ 1,083円/個。

2. NRVの確認：NRVは売価1,150円 − 販売費50円 = 1,100円/個。原価1,083円/個と比較し低い方で評価。今回は原価の方が低いので評価減は不要。

3. もし売価が1,050円に下落したら：NRVは1,050 − 50 = 1,000円/個。原価1,083円/個を上回るため、差額83円×60個=4,980円を評価減（在庫評価損）として計上。

このように、同じ在庫でも評価方法や市況次第で、在庫金額・売上原価・利益が変動します。金融機関のボローベースにも影響するため、算定の前提は丁寧に説明できるようにしておきましょう。

よくある誤解と落とし穴

• 原価の含め忘れ：関税・国内運賃・保険などの付随費用を原価に入れないと、在庫が過少計上・粗利が過大に見える。
• 所有権の誤認識：委託品・在途品・預り品の区分誤りは、実地棚卸との不一致や評価ミスの原因。
• 評価減の先送り：滞留・陳腐化を放置すると、後で大きな評価損が発生し、与信や借入枠に悪影響。
• 方法変更の軽視：評価方法の変更は利益操作と見なされるリスク。妥当性と開示を徹底。
• 為替の影響軽視：多通貨在庫は為替の方向でNRVが急変。ヘッジ・価格改定と合わせて管理。

在庫の健全性を示す指標（金融が見るKPI）

• 在庫回転率・回転日数（売上原価ベース）
• 滞留在庫比率（90日/180日超などのエイジング）
• 棚卸差異率（実地棚卸差異 ÷ 帳簿在庫）
• 評価減比率（評価減額 ÷ 期末在庫）
• 粗利率との整合（原価上昇・値下げの反映度合い）

これら指標が安定し、改善サイクルが回っていることは、ファクタリングやABLの審査でプラスに働きます。

実務で役立つツール・システム例

• SAP（SAP SE）：グローバルで広く使われるERP。原価計算・在庫管理・WMS連携に強み。
• Oracle NetSuite（Oracle Corporation）：クラウドERP。中堅企業の多拠点在庫に適合。
• Microsoft Dynamics 365（Microsoft）：会計・販売・在庫の統合管理が可能。
• Odoo（Odoo SA）：モジュール型のオープンソースERPで在庫・製造にも対応。
• 国内会計ソフト（例：弥生会計、freee会計）：在庫評価の基本機能と会計連携に便利。
• WMS・スキャナ（例：Blue Yonder、Manhattan Associates、キーエンス、Zebra Technologies）：ロット・有効期限・バーコード/RFIDで在庫精度を向上。

ツール選定時は、評価方法（FIFO/平均法など）への対応、エイジング・NRVテストの資料出力、棚卸差異の分析機能を確認しましょう。

在庫評価を強くする実践チェックリスト

• 評価方法（FIFO/平均/個別）を品目群ごとに定義・文書化しているか
• 付随費用の配賦ルールと例外処理が明確か
• エイジング表を毎月更新し、滞留対策（値下げ・セット販売・廃番）が実行されているか
• NRVテストの前提（売価・販売費用・回収見込み）が証憑で裏づけられているか
• 実地棚卸・サイクルカウントの差異原因を定量分析し、再発防止策が機能しているか
• 為替ヘッジと価格戦略の連携を意思決定会議体でレビューしているか
• 金融機関向け資料（エイジング、評価減方針、滞留処分計画）を即時提示できるか

ケースで学ぶ：金融コミュニケーションのコツ

例えば、在庫ファイナンスを検討する製造業A社。期末に90日超滞留が全体の18%に増加。A社は次を準備しました。

• SKU別エイジングと滞留の原因（需要予測外れ、設計変更）
• NRVテストの根拠（改定売価、販促費、処分見積）と評価減の計上計画
• 翌期の発注点見直し・リードタイム短縮・代替用途開発の具体施策

このように、評価の数字だけでなく、「なぜ」「どう改善するか」を一体で説明することで、借入枠や条件交渉での信頼度が高まります。

ミニFAQ：初心者の疑問に回答

• Q. 在庫評価はいつ見直す？ A. 期末だけでなく、価格変動が大きい時期や在庫処分の前にも実施すると精度が上がります。
• Q. 仕掛品は評価の対象？ A. 対象です。進捗度（材料費・加工費の投入割合）に基づく原価を計算します。
• Q. 評価減は戻せる？ A. 採用基準によって扱いが異なります。戻入の可否は会計専門家に確認してください。
• Q. ファクタリングに在庫は関係ある？ A. 売掛債権の資金化が中心ですが、在庫の健全性は運転資金の裏付けとして重要で、審査や提案精度に影響します。

まとめ：在庫評価は「利益・資金・信用」をつなぐコア技術

在庫評価は、単なる経理作業ではありません。適切な評価方法（FIFO・平均・個別）と低価法の判断、エイジング管理、NRVテストを軸に、原価と販売の現実をつなぐ「翻訳作業」です。ここが整うと、

• 利益のブレが減る（粗利の見える化）
• 資金の読みが立つ（在庫回転の改善と借入余力の把握）
• 信用が高まる（金融機関・投資家・監査とのコミュニケーションが円滑）

まずはエイジング表とNRVテストの仕組み化、評価方針の文書化から。ファクタリングやABLを活用する場合も、在庫評価の透明性があなたのビジネスの強い味方になります。迷ったら、会計専門家や金融機関の担当者に前提を共有し、同じ土台で議論することが最短距離です。

この記事の監修者

平松 樹 （ひらまつ いつき）

資金調達アドバイザー／元メガバンク法人営業・審査担当

金融実務20年以上。メガバンクで法人融資・審査・再生支援を担当後、独立。中小企業の資金繰り改善に特化し、請求書買取（ファクタリング）・ABL・リスケ・補助金活用まで一気通貫で支援。建設・運送・IT・医療など500社超の案件を伴走し、累計支援額は数十億円規模。入金サイト長期化や赤字決算・債務超過局面でも、債権譲渡禁止特約や民法改正（債権法）への実務対応、与信・反社/不当条項チェック、適正手数料レンジの見立てまで具体策を提示。安全性・適法性・スピードのバランスを重視し、「即日資金化」と「継続的な資金繰り安定」の両立を設計するのが強み。

所属：ファクタリングナビ