識別情報とは?ファクタリングで求められる理由と安全な活用ポイントを徹底解説

目次

「識別情報」を現場目線でスッキリ解説——ファクタリング・銀行実務での意味と守るべきルール

「識別情報って具体的に何を指すの?」「KYCや与信で何を出せばいいの?」——ファクタリングや銀行、貸金業の実務に携わると、必ず耳にするのがこの“識別情報”ということばです。ただ、現場では人や会社、債権や口座、請求書など、対象ごとに呼び方も管理方法も違うため、初心者の方ほど混乱しがち。この記事では、業界で通じる使い方に絞って、必要な場面、具体例、法的な注意点までを丁寧に整理します。読んだあとには、「何を集め、どう照合し、どう守るか」が一本の線でつながるはずです。

業界ワード(識別情報)

読み仮名 しきべつじょうほう
英語表記 Identifying information / Identifier (ID)(個人の場合は PII: Personally Identifiable Information)

定義

識別情報とは、特定の対象(人・法人・口座・債権・請求書・取引・拠点・システム利用者など)を一意に見分け、他と混同しないようにするための情報・記号・番号・属性の総称です。金融実務では、KYC/AMLの本人特定、与信・回収管理、入金消込、債権譲渡や契約事務の正確性確保のために、識別情報を組み合わせて照合します。個人に関わる識別情報は個人情報保護法上の「個人情報」に該当し、そのうち運転免許証番号等の「個人識別符号」やマイナンバー(特定個人情報)はより厳格な取扱いが求められます。

まず押さえる全体像:識別情報は「見分けるための鍵」

識別情報は「誰(どの会社)か」「どの取引・債権か」「どの口座か」を取り違えないための鍵です。氏名や商号のように単体では重複しうる属性は、住所や生年月日、登録番号、取引IDなどと組み合わせて実務上の一意性を確保します。システム設計では、意味を持たない連番のサロゲートキー(取引ID・顧客ID)を基本キーにして、商号・住所等の“変わりやすい情報”は参照属性として扱うのが定石です。

代表的な識別情報の種類と具体例

個人に関する識別情報

個人の識別には、単独では重複しやすい情報(氏名など)と、ほぼ一意の情報(番号・生体情報など)を組み合わせます。特に以下は管理・保護が重要です。

  • 氏名+生年月日+住所+電話番号(組み合わせで識別精度を高める)
  • 運転免許証番号、パスポート番号(個人識別符号・公的本人確認)
  • マイナンバー(特定個人情報。金融取引の通常実務では取得不要・目的外収集禁止)
  • 顔写真・指紋・声紋等の生体情報(個人識別符号。厳格管理)
  • 顧客ID、会員ID(社内システム上の一意キー)

法人・事業者に関する識別情報

法人・個人事業主の識別は、公式番号や第三者DBのコード、社内コードを組み合わせます。

  • 法人番号(13桁、国税庁の公表情報。請求・与信・反社チェックの紐付けに有用)
  • 適格請求書発行事業者の登録番号(インボイス制度。請求書の信用確認に必須)
  • 商号・本店所在地・代表者(登記情報。変更可能性があるため番号と併用)
  • LEI(Legal Entity Identifier:国際的な法人識別子。主に市場取引や海外送金周辺)
  • D-U-N-S Number(ダンズナンバー:企業識別の国際コード)
  • 帝国データバンク(TDB)コード、東京商工リサーチ(TSR)企業コード(信用調査の参照)
  • 社内の取引先コード(マスター管理の基本キー)

金融・決済に関する識別情報

入出金の正確性とトレーサビリティを担保します。

  • 銀行コード・支店コード・口座番号(国内振込の基本セット)
  • 口座名義(カナ表記含む。名寄せ・消込の補助要素)
  • SWIFT/BIC(国際送金先金融機関の識別子)
  • IBAN(欧州中心の国際口座番号。相手国が採用の場合に必要)
  • 仮想口座番号(入金消込の自動化に用いる専用番号)
  • 振込依頼人ID/EDI情報(全銀EDI等。請求番号との照合に活用)

債権・請求書・取引に関する識別情報

ファクタリングのコア領域です。売掛金の特定・重複・二重譲渡防止に直結します。

  • 請求書番号(Invoice No.:相手先と被らない設計が重要)
  • 受注番号・発注番号(PO/注文書番号。裏取りに有効)
  • 債権ID/伝票番号/取引ID(社内の一意キー。原始記録と紐付け)
  • 売掛先コード(債務者識別。得意先マスターのキー)
  • 納品書番号・検収番号(検収済み確認の証跡)
  • 契約番号(基本契約・個別契約の識別)

ファクタリング実務での役割

識別情報が求められる主な理由

  • 正確な特定・照合:債務者・債権・請求書・入金の「一対一」対応を取り違えないため
  • 与信・リスク管理:取引先の同一性を担保し、別名・同名・事業承継・分社化等でも継続識別
  • コンプライアンス対応:KYC/AML、反社・制裁リストスクリーニング、取引記録の監査証跡確保

与信・審査で確認する識別情報チェックリスト

  • 法人番号・登記情報(商号・本店・役員。変更履歴の有無)
  • 適格請求書発行事業者登録番号(登録の有無・名称一致)
  • 売掛先コードと外部コード(TDB/TSR/LEI/D-U-N-S)との紐付け一貫性
  • 請求書番号・注文書番号・納品/検収番号の整合性(連番欠番や重複の有無)
  • 銀行口座情報(銀行・支店・口座・名義。振込と照合ルール)
  • 反社・制裁スクリーニング結果(名称同一性の突合根拠含む)
  • 担当者の本人確認(権限確認、名刺・社用メール・委任状の一致)

ポイントは「複数の識別情報で突合し、同一性の確からしさを上げる」こと。単一情報に依存すると誤認や不正混入のリスクが上がります。

現場での使い方

言い回し・別称

  • ID情報/識別子(Identifier、Key):システムや帳票での“鍵”
  • キー項目/トレーサビリティ情報:監査・追跡の要
  • 本人特定事項(KYCの文脈)
  • 企業コード/得意先コード/顧客ID(マスター管理)
  • 原始記録の参照キー(契約・受発注・納品・検収・請求・入金の連鎖)

使用例(3つ)

  • 「請求書の識別情報(請求書番号・発注番号・検収番号)を教えてください。入金と突合します。」
  • 「売掛先の識別は法人番号と社内コードの両方でお願いします。同名他社があるので。」
  • 「KYC更新で担当者の本人特定事項(氏名・生年月日・公的身分証の番号)を再確認します。」

使う場面・工程

  • 新規取引先登録(法人番号・登記・反社チェックの紐付け)
  • 契約締結(契約番号付与、権限者の本人確認)
  • 受発注・検収・請求(注文書番号・検収番号・請求書番号の連鎖管理)
  • 債権譲渡(債権ID・請求情報の特定、二重譲渡防止)
  • 入金消込(仮想口座・EDI・振込名義と請求情報の照合)
  • モニタリング・督促(対象案件の一意特定で誤督促防止)

関連語

  • KYC(顧客管理)、AML/CFT(マネロン・テロ資金対策)、反社チェック
  • 与信・回収、名寄せ、データクレンジング、監査証跡
  • 法人番号、LEI、D-U-N-S、SWIFT/BIC、適格請求書登録番号

取り扱いの法令・ガイドラインと実務ポイント

個人情報保護法:個人識別符号と特定個人情報

運転免許証番号や旅券番号、顔・指紋などの「個人識別符号」は個人情報に該当します。マイナンバーは「特定個人情報」で、利用目的は法律で厳格に限定。一般的な金融取引やファクタリングの審査・契約にマイナンバーは通常不要です。むやみに収集・保管しないことが原則です。

犯罪収益移転防止法:取引時確認と記録保存

金融機関・貸金業者等の特定事業者には、顧客の本人特定事項の確認(KYC)義務と、確認記録・取引記録の一定期間(原則7年)保存義務があります。身分証番号の取得・保存は必要最小限とし、目的外利用・過剰保管を避けます。

インボイス制度・電子帳簿保存法

適格請求書の発行・受領では、登録番号の記載・名称一致が必要です。電子帳簿保存法では、検索要件(取引日・金額・取引先の組合せで検索可能)を満たすために、取引ID・請求書番号等の識別情報を整理しておくと実務がスムーズです。

国際送金・制裁対応

海外送金ではSWIFT/BIC、IBAN、受取人名義(ローマ字)等の識別情報の正確さが審査通過の鍵です。制裁リスト(国連・各国当局等)との名称照合は略称・別表記を含めて実施し、同姓同名ヒットの誤判定を避けるため、住所・登録番号など追加識別情報で突合します。

安全な活用と管理:ベストプラクティス

  • 目的限定・最小化:収集は必要最小限、余分は取らない・持たない
  • 一意性の設計:社内では意味のない連番ID(サロゲートキー)を基本キーに
  • 複数要素での突合:氏名等の曖昧情報は番号・住所等と併用
  • アクセス制御・権限分離:KYC情報へのアクセスを最小権限化
  • 暗号化・マスキング:保存時・送信時の暗号化、閲覧時の必要部分のみ表示
  • 監査ログと定期点検:アクセス記録の保全・レビュー
  • データ品質管理:重複排除、名寄せ、表記ゆれ統一(全角/半角・カナ・ハイフン等)
  • 変更管理:商号変更・合併・支店移転の履歴管理と旧IDのトレース保持
  • 安全な廃棄:保存期限到来後は復元困難な方法で確実に廃棄
  • テストデータの匿名化:開発・検証では実データを使わない

よくある失敗と回避策

  • 同姓同名の誤消込:氏名だけで突合せず、口座情報・請求番号・取引IDを必ず併用
  • 請求番号の重複:相手先別の連番ルールを明確化し、社内で一意制約を設定
  • 合併・社名変更で識別断絶:法人番号を主キーに、旧商号・旧コードを履歴で保持
  • 反社スクリーニングの誤ヒット:カナ・英字・旧表記を正規化し、追加識別で精査
  • メール添付の身分証漏えい:安全なポータル受領・パスワード分割送信・早期削除を徹底
  • KYC再更新漏れ:満期・更新時期をマスターで管理し、アラート運用

現場ですぐ使えるチェックフレーズ

  • 「同一性確認のため、法人番号と適格請求書番号のご提示をお願いします。」
  • 「請求書番号・発注番号・検収番号のいずれかで入金照合可能です。記載を統一ください。」
  • 「ご担当者の本人特定事項は公的身分証で確認します。番号は目的の範囲内でのみ保管します。」
  • 「名寄せのため、表記ゆれ(株式会社/(株)等)を社内標準に合わせて登録します。」
  • 「二重譲渡防止の観点から、債権IDを契約・請求・入金で一貫付番します。」

用語ミニ辞典(識別情報まわり)

個人識別符号

個人情報保護法で定義される、特定個人を識別できる符号。運転免許証番号、旅券番号、生体データなど。取扱いは厳重に。

特定個人情報

マイナンバーを含む個人情報。利用目的が厳格に限定。通常の金融実務では取得不要。

名寄せ

同一実体に関する複数レコードを統合すること。識別情報と表記統一ルールで精度を上げる。

サロゲートキー

意味を持たない連番等で付与する内部ID。現実世界の属性変更の影響を受けにくい。

Q&A:初心者の疑問に答えます

Q1. 識別情報と個人情報は同じですか?

重なる部分がありますが同義ではありません。識別情報は対象を一意に見分けるための情報の総称で、個人以外(法人・取引・口座等)にも使います。個人に関する識別情報は個人情報に該当し、うち個人識別符号やマイナンバーは厳格な管理が必要です。

Q2. ファクタリングでマイナンバーは必要ですか?

一般に不要です。本人確認は公的身分証(運転免許証、パスポート等)で行うのが通常で、マイナンバーは目的外収集に該当するおそれがあります。

Q3. 取引先コードが合併で変わりました。どう管理する?

法人番号を軸に履歴管理し、旧コードを別名・統合テーブルで保持。請求・債権・入金の既存レコードは新コードへリレーション付け直し、監査証跡を残しましょう。

Q4. 海外送金でどの識別情報が重要?

受取銀行のSWIFT/BIC、受取人口座(IBANがあればIBAN)、受取人名(ローマ字)と住所。制裁スクリーニングに備え、登録番号・住所等の補助情報も整備します。

まとめ:識別情報は“正確さ・安全性・トレーサビリティ”の土台

識別情報は、金融実務の品質を決める見えないインフラです。ファクタリングでは特に、債務者・債権・請求・入金の一貫識別が、誤消込や二重譲渡、与信ミスを防ぎます。社内では「一意のID設計」「複数情報での照合」「最小化と厳格管理」をチーム共通ルールとして運用し、法令(個人情報保護法、犯罪収益移転防止法、インボイス制度、電子帳簿保存法)を踏まえて安全性を高めましょう。今日からできるのは、番号の一貫付番、表記ゆれの是正、そして不要データの削除。この3つを回すだけでも、現場の精度とスピードは大きく変わります。

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記事執筆者
中島康彦 (なかじまやすひこ)

■ファクタリング実務・審査の専門家/金融ライター。
大手ファクタリング会社にて2者間・3者間・医療ファクタリングの組成・審査・導入支援を5年間担当。与信設計、債権譲渡禁止特約への実務対応、反社・不当条項チェック、請求書真正性の検証、適正手数料レンジの見立てなど、現場で培った知見をもとに、安全性・適法性・スピードのバランスを取った資金化支援を行ってきました。
現在は金融ライターとして**「ファクタリングナビ」で一次情報に基づく解説・検証記事を執筆。建設・運送・医療・ITを中心に、即日資金化の実務から資金繰り改善の中長期設計まで、経営者が意思決定に使えるコンテンツを目指しています。最新の制度・ガイドライン・判例等**を参照し、誤情報の排除と透明性を重視します。

■実績・取り組み
ファクタリング実務 5年(2者間/3者間/医療)
審査・与信・契約レビュー:数百件規模の案件に関与
手数料の妥当性評価・不当条項チェックの社内指針作成に参画
業界別(建設/運送/医療/IT)での導入支援経験
一次情報重視:制度・法改正の追随/誤情報の是正

■監修・寄稿・登壇
監修:ファクタリングの基礎・実務に関する記事多数
寄稿:中小企業向けメディア/資金調達メディア
登壇:資金繰りウェビナー

業界用語