表明確認とは？ファクタリング・金融取引で重要な意味と注意点をわかりやすく解説

「表明確認」の基礎から実務のコツまで—ファクタリング・金融取引で失敗しないためのガイド

「契約の前に“表明確認”が必要と言われたけれど、何を用意して、何を約束すればいいの？」——初めてファクタリングや金融取引に臨むと、多くの方がここで戸惑います。この記事では、現場で当たり前に使われる「表明確認」という言葉の意味から、実際にどんな項目を確認し、どんな書類を交わせばよいのかまで、やさしく丁寧に解説します。読み終える頃には、担当者との会話がスムーズになり、不要なトラブルややり直しを避けられるはずです。

業界ワード（表明確認）

定義

表明確認とは、取引当事者（例：ファクタリングの利用者・債権譲渡人や借り手）が「現時点で真実かつ正確であると約束する事実（＝表明）」と「それらが将来にわたって維持されること等の約束（＝保証・確約）」の内容を、相手方（ファクター・金融機関）が文書や証憑で確認し、合意するプロセスを指します。日本法に直接の定義はありませんが、契約実務上は「表明・保証（表明保証）」を設け、その内容を確認・同意する工程を総称して「表明確認」と呼ぶのが一般的です。

ファクタリングでは、売掛債権が真正・有効であること、二重譲渡がないこと、譲渡禁止特約がない（または適切に対処されている）こと、反社会的勢力と関係がないこと等を、譲渡人が表明し、ファクターが確認します。これにより、将来の紛争や回収不能リスクを低減し、取引の透明性を確保します。

現場での使い方

言い回し・別称

• 表明保証（ひょうめいほしょう）／表明・保証事項
• R&W（アール・アンド・ダブリュー）
• 表明確認書／表明保証書／反社排除条項の表明・確約
• 誓約（コベナンツ）と併記されることもあります（厳密には別概念）

使用例（3つ）

• 「クロージング前に表明確認を取らせてください。譲渡制限の有無と検収状況がポイントです。」
• 「表明保証違反があった場合は買戻し・損害賠償の対象になりますので、記載は事実ベースでお願いします。」
• 「債権者からクレームが出たと聞きました。期中の表明確認をアップデートしてもらえますか？」

使う場面・工程

多くは契約締結直前（クロージング前）に実施します。ファクタリングでは審査・デューデリジェンスの終盤で、債権の実在性や譲渡適格性を最終確認する工程です。継続取引の場合、期中モニタリングの一環として「表明の継続性（bring-down）」を求められることもあります。

関連語

• デューデリジェンス（DD）／KYC・AML（本人確認・マネロン対策）
• クロージング条件（CP：Conditions Precedent）
• 誓約（コベナンツ）／補償（インデムニティ）
• 反社会的勢力排除条項／譲渡禁止特約

何を確認するの？ファクタリングにおける主要な表明項目

ファクタリングの現場で実際に確認される代表的な表明事項は次のとおりです。実務では案件の性質や相手先の与信に応じて調整します。

• 債権の存在と有効性：売上計上済みで、請求書・納品書・検収書等により裏付け可能であること。
• 検収・役務提供の完了：納品完了、検収済み、役務提供済みで、解除・取消事由がないこと。
• 二重譲渡・担保設定なし：同一債権を他社に譲渡・譲渡担保・質入れしていないこと。
• 譲渡制限特約への対応：契約に譲渡禁止があれば必要な同意・通知を得ていること。
• 相殺・値引・返品・クレーム等の予定なし：債務者の支払額が減少する事情がないこと。
• 金額・期日の確定：請求金額・支払期日が確定しており、変更予定がないこと。
• 債務者情報の正確性：商号・所在地・取引担当の情報が正確で、支払能力に重大な悪化がないこと。
• 税金・社会保険料の滞納なし：差押え・公租公課の滞納等がないこと。
• 反社会的勢力との関係遮断：自社・役員・主要株主が反社に該当せず、関与もないこと。
• 訴訟・紛争なし：債権の支払に重大な影響を与える訴訟・紛争・行政処分がないこと。
• 権限・社内手続の完了：代表権・決裁権を有する者が署名し、必要な社内承認が完了していること。
• 提出資料の正確性：財務資料・売上台帳・契約書等が真正で、重大な虚偽・記載漏れがないこと。

銀行・貸金・為替取引に広げた「表明確認」の位置づけ

表明確認はファクタリングに限らず、銀行融資、貸金業の与信契約、為替・デリバティブ取引でも広く用いられます。スキームは異なっても「相手の言っていることが事実で、契約の前提が崩れないか」を事前に点検するという目的は同じです。

• 融資契約：法人の存続・権限、財務諸表の正確性、重大な不利な変化（MAC）がない、担保権設定の有効性、他債務のデフォルトなし等。
• 為替・デリバティブ：ISDA等のマスター契約における表明（適格性、権限、コンプライアンス、禁止取引該当性の否定、ネット・イングの前提など）。
• 決済・送金：KYC/AML、制裁対象の非該当、受益者情報の正確性、資金の出所の正当性など。

取引の性質上、表明内容は変わりますが、いずれも「虚偽なら契約解除や期限の利益喪失、損害賠償等の救済が発動する」という構造は共通です。

どうやって進める？表明確認の手順と必要書類

初めてでも迷わないように、一般的な進行の流れを示します。

• ヒアリング：取引スキーム、債権の相手先、金額・期日、与信状況を確認。
• 証憑の収集：請求書、納品書、検収書、基本契約、発注書・見積書、売上台帳、入金明細など。
• 表明確認書のドラフト：案件に合った表明事項を簡潔に列挙。過度に広くしない。
• レビュー・修正：事実と異なる箇所を調整。限定表現（知り得る範囲、合理的な範囲等）も検討。
• 署名・押印：代表者または権限保持者が署名。必要に応じて社内決裁書・議事録を添付。
• クロージング：チェックリストに基づき提出書類を確認、受領。
• 保管・モニタリング：ファイル保存。継続取引は定期的にアップデート。

関連書類の例：

• 表明確認書（表明保証書）
• 取引基本契約書（相手先との売買基本・業務委託基本等）
• 登記簿謄本・印鑑証明・本人確認資料
• 請求書・納品書・検収書、発注書・見積書、売上台帳、入金明細
• 社内承認書類（稟議、取締役会議事録等）
• 反社チェック結果・反社会的勢力の排除に関する誓約書

ありがちな誤解と注意点

• 口約束で済ませない：表明は書面化し、誰が何をいつの時点で約束したか明確に。
• 過度に広い表明はリスク：将来の事実や自社でコントロール不能な事項の断定は避ける。
• 「知り得る範囲」の活用：合理的な調査範囲での表明に限定する文言を用いることがある。
• 免責の線引き：軽微な誤差・通常の値引き等は違反としない等の実務的な調整も有効。
• アップデートの必要：長期・継続取引は期中の状況変化を反映。マテリアリティ（重要性）の基準を共有。
• 反社条項は厳格に：虚偽が判明すると即時解除・通報・取引停止に直結。内部統制を徹底。

違反したらどうなる？リスクと救済条項の基本

表明確認に反する事実（表明保証違反）が発覚した場合、契約上は次のような救済が規定されるのが一般的です。契約書に明記されます。

• 契約の解除・将来取引の停止
• 期限の利益喪失（融資では一括弁済請求）
• 買戻し・買取代金の返還・清算金の支払い（ファクタリング）
• 損害賠償・違約金・補償（インデムニティ）
• 追加担保の差入れや留保金（リザーブ）の増額
• 信用情報・反社対応を含む社内外のコンプライアンス措置

争いを避けるには、「違反に該当しうる事象」を早期に共有し、必要なら表明の修正・例外開示（ディスクロージャー）を行うのが実務的です。

実務に使える文例・テンプレート

表明確認書に盛り込む定型フレーズ例

• 当社は、本件債権が有効に成立し、既に役務提供（又は商品の引渡し）および検収が完了していることを表明し、保証します。
• 当社は、本件債権について譲渡、譲渡担保、質権設定その他第三者の権利を設定していないことを表明します。
• 当社は、当社およびその役員等が反社会的勢力に該当せず、またこれと関係を有していないことを確約します。
• 当社は、本書面および提出資料に重大な虚偽の記載又は重要な記載の欠落がないことを表明します。
• 前各表明が真実でなくなった場合、直ちに書面で通知し、相手方が合理的に求める措置に応じます。

依頼メールの文例

• 件名：表明確認書ご提出のお願い（債権番号XXXX）
• 本文：平素よりお世話になっております。クロージングに先立ち、添付の表明確認書（ドラフト）をご確認ください。実情と異なる箇所があれば修正案をご提示ください。検収書・請求書の写し、基本契約の該当条項も併せてご提出をお願いいたします。ご対応期限：◯月◯日（◯）。

英語での簡易表現例

• The Assignor represents and warrants that the Receivables are valid, existing, and free from any security interest or prior assignment.
• Any material change affecting the representations will be promptly notified to the Factor in writing.

チェックリスト：提出前にここを確認

• 請求書・納品書・検収書の当事者名・日付・数量が一致している
• 基本契約に譲渡禁止特約がない、又は債務者同意・通知でカバーできている
• 相殺・返品・値引き・クレームの発生見込みがない（ある場合は例外開示）
• 同一債権の他社への譲渡・担保設定がない
• 登記簿・代表者情報が最新で、権限者が署名予定
• 税金・社会保険の滞納がなく、差押えの危険がない
• 反社チェック（自社・主要取引先）を実施済み
• 継続取引の場合、前回表明からの変更点を洗い出した

ケースで理解する：トラブル事例と回避策

事例1：譲渡禁止特約の見落とし

基本契約に譲渡禁止があり、債務者から支払を拒まれた。表明保証違反として買戻しとなった。

回避策：契約の譲渡条項を必ず確認し、必要なら債務者同意や通知スキーム（債務者通知・承諾）を組み込む。

事例2：検収未了のまま譲渡

納品は済んでいたが検収が遅れ、クレームで支払が保留に。ファクターが回収遅延。

回避策：検収書の写しや検収済ステータスを裏付けるメール等を締結前に入手。

事例3：売掛先の急な与信悪化

債務者が法的整理に入り、回収困難に。期中の表明継続に違反。

回避策：継続モニタリング体制（ニュース・信用照会）を整え、異変時は速やかに例外開示と条件再交渉。

法的背景の考え方（やさしく）

「表明・保証」は日本の民法に直接の定義はありませんが、契約自由の原則のもと、当事者間の合意として有効に機能します。債権譲渡では、契約上の譲渡制限（譲渡禁止特約）の有無や対処、二重譲渡の禁止、相殺リスクの管理などが紛争の主要論点です。実務では、表明確認によりこれらのリスクを事前に顕在化させ、必要な手当（同意取得、通知、留保金設定等）を行います。

重要なのは、表明確認は「相手が信じて良い前提」を言葉にして確認する作業だということです。書面化と証憑により、後から「言った・言わない」の争いを避けることができます。

初心者がつまずかないためのコツ

• 事実ベースで書く：将来の出来事は断定しない。「知り得る限り」「合理的な範囲で」などの限定を検討。
• 例外開示を恐れない：問題があれば隠さず「例外リスト」に明記。誠実な開示は評価されます。
• チェックリスト運用：社内で使える簡易チェック表を用意し、都度アップデート。
• ファイル管理：表明確認に添付した証憑は取引ごとにまとめて保管。後日の証明力が上がります。
• 相手の意図を理解：相手は「何が怖いのか（回収不能、反社、二重譲渡等）」を知り、その不安に先回りして書類を揃える。

よくあるQ&A

Q. 表明確認と誓約（コベナンツ）は違うの？

A. 表明は「今この瞬間の事実の約束」、誓約は「将来こう行動する約束」。実務では併用されます。

Q. 小さな記載ミスも違反になる？

A. 重大性の基準（マテリアリティ）を設けることが一般的です。軽微な誤差は違反としない調整も可能です。

Q. 英文契約のR&Wってそのまま日本語訳で大丈夫？

A. 概念は共通ですが、準拠法・救済条項の整合性が重要。日本法前提で実務に合う表現へ調整しましょう。

Q. 反社条項はなぜ厳しい？

A. 金融犯罪や信用リスクに直結するため、虚偽が判明すると即時解除・通報の対象になることが多いからです。

Q. 継続取引で毎回表明確認が必要？

A. 初回に締結し、期中は「継続表明」や「更新書」を求める運用が一般的です。重要な変化があれば都度アップデートします。

まとめ：表明確認は「安心して取引するための共通言語」

表明確認は、専門家だけの難しい儀式ではありません。あなたと相手が同じ前提を共有し、安心して資金を動かすための共通言語です。ポイントは、事実に基づいて簡潔に書くこと、必要な証憑で裏付けること、変更があれば早めに開示すること。この3つを守れば、ファクタリングでも融資でも、余計なトラブルを避け、スピーディーに資金調達を進められます。今日から、チェックリストとテンプレートを活用し、迷わない表明確認を実践していきましょう。