目次
- 承認順序のすべて:ファクタリング・為替・銀行実務で迷わない段取りとチェックポイント
- 業界ワード(承認順序)
- 定義
- なぜ「承認順序」が重要か
- 現場での使い方
- 言い回し・別称
- 使用例(3つ)
- 使う場面・工程
- 関連語
- ファクタリングでの承認順序:典型フローと実践ポイント
- 2社間ファクタリングの典型フロー
- 3社間ファクタリングの典型フロー
- 銀行・貸金業の承認順序:審査と決裁の分離
- 為替・送金業務の承認順序:制裁チェックが先、実行承認が最後
- 承認順序の設計:現場で使える実践フレーム
- 最低限おさえる原則
- スピードと統制を両立させるコツ
- 変更管理と例外運用
- よくある勘違い・落とし穴
- 監査・コンプラ視点のチェックリスト(抜粋)
- 承認順序を支えるツール例(代表的なワークフロー製品)
- ミニガイド:現場でそのまま使える承認順序テンプレ
- ファクタリング(汎用)
- 銀行・貸金業(少額無担保の例)
- 為替・送金
- ケース別の注意点
- 緊急実行(タイムクリティカル)
- 高額案件・高リスク先
- 電子契約・電子署名を併用
- 用語の周辺知識(初心者向け)
- 職務分掌(Segregation of Duties / SoD)とは
- 四眼原則(Four-eyes principle)とは
- 決裁権限表とは
- よくある質問(Q&A)
- Q1. 承認順序は部門ごとに違っても良い?
- Q2. 少額の案件でも二重承認は必要?
- Q3. ツールが自動で順序を回してくれるなら、規程は不要?
- まとめ:承認順序は「安全なスピード」を作る設計図
承認順序のすべて:ファクタリング・為替・銀行実務で迷わない段取りとチェックポイント
「承認の順番、これで合ってるのかな?」──社内の稟議や資金実行の直前で不安になり、手続きが止まってしまった経験はありませんか。金融やファクタリングの現場では、誰がどの順番で承認するかを間違えると、コンプライアンス違反や資金実行遅延につながり、最悪の場合は取引そのものが成立しないこともあります。本記事では、現場ワードとして日常的に使われる「承認順序」を、初心者にもわかりやすく、かつ実務でそのまま使える形で丁寧に解説します。読み終える頃には、どの工程で、どの役割の承認が必要かを自信をもって判断できるはずです。
業界ワード(承認順序)
| 読み仮名 | しょうにんじゅんじょ |
|---|---|
| 英語表記 | approval sequence(または approval flow / authorization chain) |
定義
承認順序とは、社内・部門内の意思決定において、案件がどの役割(担当者、上長、審査、コンプライアンス、決裁者など)に、どの順番で回り、承認(または差戻し)されるかを定めた手続きの並び(プロセス順)のことです。特に金融・ファクタリング・為替・貸金業では、法令順守(KYC/AML、反社チェック等)と内部統制(職務分掌、四眼原則等)を満たすために、承認者の役割と順序が厳密に設計・運用されます。
なぜ「承認順序」が重要か
承認順序は、単なる社内ルールではありません。金融実務においては、以下の理由で取引の安全性とスピードを決める基盤になります。
- 法令・規制対応:KYC/AMLや反社会的勢力排除、資金決済関連の規制遵守のために、適切な順序でチェックが必要。
- 内部統制の担保:職務分掌(SoD)や四眼原則(ダブルチェック)により、誤り・不正の予防。
- リスク管理:与信判断や制裁リスト照合を先に済ませることで、実行直前のやり直しを防止。
- 業務スピード:順序が明確だと、誰がボールを持っているかが可視化され、滞留が減る。
- 監査対応:誰がいつ承認したか、妥当な順序だったかの証跡が残り、内部監査・外部監査に耐えられる。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では次のような言い回し・別称が使われます。
- 承認フロー/決裁フロー/稟議ルート
- ワークフロー順/回付順
- アプローバルシーケンス/オーソリチェーン(authorization chain)
- 四眼原則(four-eyes)/メイカー・チェッカー(maker-checker)
使用例(3つ)
- 「この案件、反社チェックを与信の前に入れる承認順序に変えました。リスク先出しで差戻しを減らします。」
- 「2社間ファクタリングはスピード優先なので、決裁権限300万円以下は部長決裁までの承認順序で回してください。」
- 「外為送金は制裁スクリーニングを通過してから、送金実行の二重承認に進む承認順序です。」
使う場面・工程
承認順序は、以下のような工程で頻繁に使われます。
- ファクタリング:申込受理→KYC→反社チェック→売掛先与信→稟議・決裁→契約→債権譲渡確認→資金実行→送金承認
- 銀行・貸金業の融資:申込→本人確認・属性確認→審査→稟議→決裁→契約→実行→事後モニタリング
- 為替・送金:依頼受付→KYC/制裁スクリーニング→コンプラ承認→送金指図作成(maker)→送金承認(checker)→実行→事後報告
関連語
- 稟議、決裁権限表、職務分掌(SoD)、四眼原則、メイカー・チェッカー
- KYC、AML、反社チェック、制裁リスト、与信限度、与信稟議
- 実行承認、送金承認、コンプライアンス審査、監査証跡
ファクタリングでの承認順序:典型フローと実践ポイント
2社間ファクタリングの典型フロー
- 1. 申込受付:案件登録・必要書類の確認(担当者)。
- 2. KYC・反社チェック:本人特定、反社データベース照合、実質的支配者の確認(コンプラ)。
- 3. 売掛先与信:売掛先の信用調査、入金実績の確認、架空・二重譲渡リスクの洗い出し(審査)。
- 4. 稟議起案:スキーム(2社間)、手数料、買取率、限度、回収条件、誓約事項(担当者→上長)。
- 5. 決裁:決裁権限表に基づき、課長→部長→責任者(取引金額・リスク水準で段階化)。
- 6. 契約・法務チェック:契約書ひな型の適合性、特約の妥当性、電子契約設定(法務)。
- 7. 実行前チェック:入金口座一致、請求書の真正性、債権の存在・帰属、二重譲渡防止(審査/コンプラ)。
- 8. 資金手配:送金指図作成(maker)。
- 9. 送金承認:金額・口座・手数料を二重確認(checker)→実行。
- 10. 事後モニタリング:入金管理、早期警戒(集中度・回収遅延の監視)。
実践ポイント:スピード重視の2社間でも、最低限「KYC/反社→与信→決裁→実行」の順序は崩さないこと。特に送金直前の二重承認(四眼原則)は必須です。
3社間ファクタリングの典型フロー
- 1. 申込受付→KYC・反社。
- 2. 売掛先与信:取引先(債務者)の信用度・支払サイト・債権内容を調査。
- 3. 稟議・決裁:3社間スキームの適合性、通知・承諾取得の方針、譲渡制限の有無を確認。
- 4. 債権譲渡通知・承諾の取得:債務者側の承諾ルート(法務・経理部門)を確認し、書式・押印/電子承認の要件を整える。
- 5. 契約・法務チェック:譲渡禁止特約の扱い、反対債権の相殺リスク、弁済充当のルール整備。
- 6. 実行前チェック→資金実行(maker-checker)。
- 7. 回収・消込:債務者からの入金を管理、相違があれば対処。
実践ポイント:3社間は「与信→決裁→通知・承諾→実行」の順が鉄則。通知・承諾が遅れると実行が止まり、現金化の遅延に直結します。
銀行・貸金業の承認順序:審査と決裁の分離
銀行・貸金業では、審査の独立性が重視され、一般に以下のような順序が取られます。
- 1. 申込受理・本人確認(担当部)。
- 2. KYC/反社・属性確認(コンプラ/事務)。
- 3. 与信審査(審査部):スコアリング、財務分析、返済能力評価、担保評価。
- 4. 稟議・決裁(ライン部+決裁者):決裁権限表に基づく段階的承認。
- 5. 契約・設定(法務・事務):契約書、担保設定、条件通知。
- 6. 実行承認(checker)→資金実行(事務)。
- 7. 事後管理:コベナンツフォロー、早期警戒。
ポイントは「メイカー(起案・実務)とチェッカー(審査・決裁・実行承認)の分離」。金額帯やリスクに応じて、承認者の層が増えるのが一般的です。
為替・送金業務の承認順序:制裁チェックが先、実行承認が最後
- 1. 依頼受付:取引目的・原資・受取人情報の聴取。
- 2. KYC/AML・制裁スクリーニング:顧客・受取人・国・取引目的のリスク評価。
- 3. コンプラ承認:高リスク案件の追加ヒアリング・証跡確保。
- 4. 送金指図の作成(maker):為替レート、手数料、受取口座の最終確認。
- 5. 送金実行の二重承認(checker):別担当者が金額・口座を再確認し実行。
- 6. 事後報告・モニタリング:当日エンドの検証、疑わしい取引の届出要否の判断。
順序の肝は「制裁・AMLチェックが先」「送金ボタンの前に必ず二重承認」。ここを誤るとリカバリーが困難です。
承認順序の設計:現場で使える実践フレーム
最低限おさえる原則
- 職務分掌(SoD):起案・審査・決裁・実行を同一人物にさせない。
- 四眼原則:少なくとも2名での確認・承認(リスクに応じて六眼へ)。
- 決裁権限表に準拠:金額帯・リスク区分で承認者層を段階化。
- コンプラ先行:KYC/AML/制裁チェックは、審査・決裁の前段で完了させる。
- 証跡の完全性:誰がいつ何を承認したか、タイムスタンプ・ログを保存。
スピードと統制を両立させるコツ
- リスクベース運用:低リスク案件は承認層を薄く、高リスクは厚く(RBM)。
- エスカレーションルール:期限超過や判断不能時の自動的な上位承認ルート。
- バックアップ承認者:不在・長期休暇時の代行者を事前指定。
- チェックポイントの明確化:各承認者が見るべき資料・観点を標準化(チェックリスト化)。
- デジタル化:ワークフローで回付順を固定し、改ざん防止・誤回付を防ぐ。
変更管理と例外運用
- 例外はルール化:緊急実行時のショートフローも、事後承認・追加書類の要件を定める。
- 権限表の維持管理:組織改編や法改正時は承認順序を速やかに改定・周知。
- 定期レビュー:半期・年度でKPI(滞留時間、差戻し率)を評価しボトルネックを解消。
よくある勘違い・落とし穴
- 「承認者が多いほど安全」:不要な層は滞留と責任希釈を招く。リスクに応じて適正化する。
- 「最後にまとめてチェックすればよい」:KYC/AML・与信の前倒しが、差戻しコストを圧縮。
- 「ワークフローがあるから安心」:権限設定・代行者・改定履歴まで整えて初めて有効。
- 「2社間ファクタリングはコンプラを軽く」:スピード重視でも最低限の順序は不変(KYC→与信→決裁→実行)。
- 「送金の最終確認は同じ担当でOK」:メイカー・チェッカー分離が必須。二重承認なしは重大リスク。
監査・コンプラ視点のチェックリスト(抜粋)
- 承認順序は文書化され、最新版が周知されているか。
- 決裁権限表と実際の承認ログが一致しているか。
- KYC/AML、反社、制裁チェックが審査・決裁の前に完了しているか。
- メイカー・チェッカー分離が徹底され、代行者ルールも整備されているか。
- 送金・資金実行時に二重承認と証跡(ログ、タイムスタンプ、改ざん防止)があるか。
- 例外対応(緊急実行など)がルール化され、事後承認と根拠書類が完備されているか。
- 定期的な教育・訓練と、滞留・差戻しKPIのモニタリングが行われているか。
承認順序を支えるツール例(代表的なワークフロー製品)
承認順序の設計・運用には、ワークフロー/電子稟議システムの活用が有効です。代表的な製品の一例を挙げます(五十音順)。
- エイトレッド:X-point Cloud、AgileWorks(稟議・承認フローに特化したワークフロー製品の提供で知られる)
- サイボウズ:kintone、Garoon(業務アプリ/グループウェア上でワークフロー運用が可能)
- 住友電工情報システム:楽々WorkflowII(企業向けの柔軟な承認フロー設計が可能)
- DONUTS:ジョブカンワークフロー(クラウド型の電子稟議・申請承認システム)
ツール選定のポイントは、「権限表との連動」「代行・エスカレーション設定」「ログの監査性」「API連携(KYC/制裁チェック等)」の4点です。
ミニガイド:現場でそのまま使える承認順序テンプレ
ファクタリング(汎用)
- 担当者(申込受付・書類チェック)→コンプラ(KYC/反社)→審査(売掛先与信)→ライン上長(稟議承認)→決裁者(金額帯に応じ段階)→法務(契約)→事務(実行準備)→チェッカー(送金承認)
銀行・貸金業(少額無担保の例)
- 受付→本人確認→スコアリング審査→上長承認→決裁者→事務実行→事後モニタリング
為替・送金
- 受付→KYC/制裁スクリーニング→コンプラ承認→maker(送金指図)→checker(二重承認)→実行→報告
ケース別の注意点
緊急実行(タイムクリティカル)
「ショートフロー」は例外にし、必ず事後承認と補完資料を義務付けます。承認順序の短縮は、リスク評価と責任の明確化をセットで。
高額案件・高リスク先
承認層の追加(審査部長・リスク管理部・経営層)と、四眼→六眼の強化を検討。「制裁・反社・与信」の3点は二重チェックが望ましいです。
電子契約・電子署名を併用
ワークフロー承認と締結者の権限を紐づけ、署名権限の逸脱がないように設計。締結前に法務承認を必須化します。
用語の周辺知識(初心者向け)
職務分掌(Segregation of Duties / SoD)とは
不正や誤りを防ぐため、起案・承認・実行・記録といった機能を別の人・部門に分ける考え方。承認順序はSoDを具体化したものです。
四眼原則(Four-eyes principle)とは
重要な意思決定は、最低2名以上で確認する原則。送金や資金実行で特に重視されます。
決裁権限表とは
金額帯・リスク区分ごとに、誰が最終決裁できるかをまとめた社内規程。承認順序はこの表を反映して作られます。
よくある質問(Q&A)
Q1. 承認順序は部門ごとに違っても良い?
A. 目的とリスクが違えば順序が異なるのは自然です。ただし、KYC/AMLなど全社共通の基盤チェックは統一し、最低限の原則(SoD・四眼)を全社標準として定めましょう。
Q2. 少額の案件でも二重承認は必要?
A. リスクベースで簡素化は可能ですが、送金・資金実行など資金移動が伴う工程は原則として二重承認を維持するのが安全です。
Q3. ツールが自動で順序を回してくれるなら、規程は不要?
A. 不要ではありません。規程(権限表・業務手順書)があって初めて、ツール設定が正しいと証明できます。監査では文書化と実運用の一致が重視されます。
まとめ:承認順序は「安全なスピード」を作る設計図
承認順序は、金融・ファクタリング・為替の現場で、法令順守とスピードを両立させるための設計図です。要は「誰が・何を・どの順番で・どこまで責任を持って見るか」を明確にすること。本記事で示した原則(KYC/AML先行、SoD、四眼、決裁権限表準拠)とテンプレートをベースに、自社の実態に合わせてシンプルに整えていけば、差戻し・滞留を減らし、監査にも強い運用を実現できます。今日の1件から、正しい承認順序で回してみましょう。困ったら、ここに戻ってチェックリストを確認してください。あなたの現場の「安全なスピード」は、正しい順序から生まれます。
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