稟議起案とは？金融・ファクタリング業界で役立つ書き方と承認されるポイントを徹底解説

金融現場の「稟議起案」完全ガイド―ファクタリング・融資で通る書き方と実務フロー

はじめて「稟議起案」という言葉に出会うと、「結局、何を書けば承認されるの？」「ファクタリングや融資の現場ではどう使うの？」と不安になりますよね。本記事は、金融・ファクタリングの実務に精通した視点で、稟議起案の意味から現場での使われ方、通りやすい書き方のコツまでを丁寧に解説します。読み終わる頃には、自信を持って起案できるようになります。

業界ワード（稟議起案）

定義

稟議起案とは、社内で意思決定（決裁）を得るために、案件の背景・内容・リスク・対応策・収益性などを整理し、承認権限者に提示する文書（またはワークフロー申請）を作成・提出することを指します。金融・ファクタリング業界では、与信付与や枠設定、条件変更、例外承認、契約関連の重要事項など、リスクと収益を伴う判断を社内で正しく合意するための中核プロセスです。

現場での使い方

言い回し・別称

現場では次のような言い回しが一般的です。

• 稟議を上げる／稟議挙げ（りんぎあげ）
• 稟議書起案／審査起案／与信稟議／決裁起案
• 増額稟議／条件変更稟議／例外稟議（エクセプション）
• 回覧に回す／決裁回す／承認ルートに流す

使用例（3つ）

• 「A社のファクタリング新規1,000万円、3社間スキームで稟議起案します。債権譲渡通知は先方承諾済みです。」
• 「為替予約の上限引き上げは、相場変動リスクの説明を追記して増額稟議で回してください。」
• 「入金遅延が続いているため、継続与信は条件見直しの稟議（手数料改定・コベナンツ追加）で審議します。」

使う場面・工程

典型的な工程は次の通りです。

• 案件組成・初期ヒアリング（営業）
• KYC・反社・コンプライアンス確認（管理）
• 与信分析・事前相談（審査）
• 稟議起案（営業または審査が起案、添付資料整備）
• 回覧・質疑応答（審査部門、コンプラ、法務、リスク管理、経営）
• 決裁（権限規程に基づく承認）
• 条件提示・契約・実行・期中モニタリング（事後管理）

関連語

• 決裁：承認権限者による正式なOK
• 与信：信用供与（枠設定、限度額、条件）の判断
• コベナンツ：維持すべき条件（財務制限、報告義務、集中制限など）
• KYC/コンプライアンス：顧客確認・法令等遵守・反社チェック
• 例外承認（エクセプション）：規程外の取り扱いを個別承認

稟議起案の基本構成と「通る」書き方

審査・決裁者が知りたいのは「何を、なぜ、どの条件で、どんなリスクがあり、どう守るか、収益は見合うか」です。以下の流れでまとめると、短時間で理解されやすく、承認率が上がります。

1. エグゼクティブサマリー（結論先出し）

• 案件目的（資金使途・顧客の課題）
• 提案スキーム（2社間/3社間、枠額、手数料、期間）
• 主要リスクと対応策（3点に絞ると◎）
• 見込み収益・採算性（粗利、管理コスト、ROI）

2. 顧客・取引先の把握

• 顧客の事業概要・商流・収益構造・季節性
• 売掛先（債務者）の信用力・支払実績・集中度
• KYC/反社・コンプラ結果（要点のみ、詳細は添付）

3. 取引条件の具体化

• 枠額・サイト・手数料・入金管理の方法
• 通知の要否（3社間通知／2社間は二重譲渡防止策）
• 債権譲渡登記、でんさい活用、支払口座指定
• コベナンツ（売掛集中上限、期日遅延時の停止条件など）

4. 債権の真実性・回収可能性の裏取り

• 発注書・納品書・検収書・請求書等の整合確認
• 返品・値引・相殺条項の有無と実務運用
• 支払企業の承認フロー（検収締め〜支払サイト）
• 医療・介護・建設等の業界特性（出来高・審査・精算ズレ）

5. リスクと対応策（想定外に強い設計）

• 債権集中・期ズレ・クレーム・与信悪化のシナリオ
• 停止条件・枠見直し・追加担保・保証・通知切替の発動条件
• 法務論点（譲渡禁止特約、差押え、倒産手続き時の扱い）

6. 収益性・資本効率

• 手数料収入−信用コスト−運用・管理コスト
• 想定不払率・ストレスケースでの損益感度
• 在庫・人件費を含む工数見積りとのバランス

7. 添付資料・証憑

• 決算書・試算表、売掛年齢表、主要契約、取引実績データ
• 各種証憑（発注〜検収〜請求の一連データ）
• 反社・KYC結果、登記簿、実質的支配者確認

承認されるためのコツ

• 結論を最初に、根拠データは別紙に集約（本文は要点）
• 「何をやらないか」も明記（リスク範囲を線引き）
• 例外は正直に書く（隠すほど審査は厳しくなる）
• 数値は最新・一次資料で裏付け、出所を明記
• 「もし◯◯なら××する」のトリガー条件を具体化

ファクタリング特有の実務ポイント

2社間と3社間の違いと稟議の論点

• 3社間（債務者へ通知）：真実性・回収ルートが明確。通知合意の確度、債務者の運用負荷・社内規程の確認を記載。
• 2社間（債務者へ非通知）：二重譲渡・相殺・クレームリスクが相対的に高い。登記、入金口座指定、売上証憑確認の強度、回収代行スキームなど防波堤を具体化。

債権の性質に応じた注意

• 医療・介護報酬：審査・返戻・減算のタイムラグを反映。平均遅延日数の実績を提示。
• 建設・委託加工：出来高・検収基準の解釈に差異が出やすい。出来高証明の契約上の位置付けを明記。
• でんさい・電子記録債権：譲渡・二重譲渡防止は強いが、実務運用（承諾・期日変更）を確認。

よくある否決・差戻し理由

• 売掛先の信用が薄いのに手数料が見合っていない
• 通知・登記などのリスク低減策が曖昧
• 相殺・返品条項への言及が不足
• 入金口座の統制が弱く、回収ルートが不明瞭
• データの出所・更新日が記載されていない

銀行・貸金業・為替案件での「稟議起案」の違い

融資（銀行・貸金業）

• 返済原資・キャッシュフロー、資金使途の正当性を重視
• 担保評価（LTV）、保証、財務コベナンツの設計
• ストレスシナリオ（売上▲、金利上昇）での耐性評価

為替・デリバティブ

• エクスポージャー上限、ヘッジ方針、証拠金・与信枠
• 顧客の理解度・適合性、説明履歴（適合性原則）
• 制裁・輸出関連の法令チェック（サンクション、外為関連規制等）

共通する骨子

• 顧客理解（事業・キャッシュフロー・商流）
• リスク明示と対応策の整合性
• 採算性と資源配分の妥当性

電子稟議・ワークフロー時代のコツ

• 要点は1ページ要約、詳細は添付に分離（モバイル閲覧想定）
• コメント履歴に回答は「結論→根拠→影響→対応」の順
• 差戻し予防に「想定質問リスト」を本文末尾に先回り掲載
• バージョン管理（版数・更新日・修正点）を明記

チェックリスト：提出前にここだけ確認

• 結論（何を、いくら、どんな条件で）が冒頭で一目
• 一次資料の出所・日付・整合性が取れている
• 通知・登記・口座指定など回収ルートが明確
• 相殺・返品・クレーム時の扱いが契約書と一致
• 例外は明確に列挙し、代替コントロールを提示
• 採算と信用コストの感度分析を最低1パターン
• 期中モニタリングの頻度・指標・停止条件を定義

テンプレート見出し案（そのまま使える構成）

• 1. 申請概要（目的／金額／期間／スキーム要約）
• 2. 顧客・売掛先のプロフィールと実績
• 3. 取引条件（枠・手数料・回収方法・コベナンツ）
• 4. 真実性・回収可能性の検証結果
• 5. 主要リスク（3点）と対応策（具体的トリガー）
• 6. 収益性・感度分析・資源見積り
• 7. 例外事項と代替統制
• 8. 添付資料一覧（決算・証憑・KYC等）
• 9. 決裁事項（承認依頼内容の明確化）

Q&A：よくある疑問に回答

Q1. 稟議は長いほど良い？

A. いいえ。本文は「要点だけ短く」、根拠は添付に分けるのが最適です。審査は限られた時間で複数案件を見ます。1ページ要約＋詳細添付が鉄則です。

Q2. 売掛先の承諾がもらえていないが、起案してよい？

A. 可能ですが、承諾が鍵なら「承諾前提の条件付き承認」を提案し、代替案（登記強化、入金口座のロック、サンプル通知文の提示）も同時に提示しましょう。

Q3. データが揃わない時はどうする？

A. 不足データは正直に明記し、影響範囲と補完計画（取得予定日・代替指標）を書きます。曖昧なまま進めると差戻しの原因になります。

Q4. 例外（規程外）が多い案件は避けるべき？

A. 例外自体は悪ではありません。例外の理由と、代替統制・モニタリングで十分にコントロールできるかを示せれば、承認の可能性は十分にあります。

Q5. ファクタリングの採算はどう示す？

A. 手数料収入から、信用コスト（想定不払率）、登記・事務・照合などの運用コストを差し引き、ストレスケース（入金遅延・回収不能）も感度で示します。

ミスしがちなポイントと回避策

• 商流の誤解：発注〜検収〜請求〜支払の流れを図示して誤解を防止。
• 契約と現場運用のズレ：現場ヒアリングで実運用を確認、契約に反映。
• 集中リスクの見落とし：売掛先別の構成比・上位5社の推移を必ず掲載。
• 期中管理の曖昧さ：モニタリング指標（遅延率、照合差異）を数値定義。
• 責任の所在不明：アクションオーナー・期限・代替者を明記。

事例イメージ：承認に至った起案の骨子

ある部材商社の3社間ファクタリング新規案件。売掛先は上場メーカーで支払実績安定。通知合意済み。相殺条項は限定的で、実績ベースで発生稀少。債権譲渡登記＋入金口座指定。主要リスクは「仕入先の納期遅延による検収遅延」。対応として、期ズレ発生時は枠自動縮小、遅延15日超で新規買取停止、在庫回転日数のモニタリングをコベナンツ化。粗利は管理工数を含めてもプラス、ストレスケースでも損益許容内。こうした「リスクの見える化」と「トリガー定義」が承認を後押ししました。

まとめ：稟議起案は「要点・根拠・対策」を短く強く

稟議起案は、単なる書類作成ではなく、リスクと収益のバランスを設計し、社内を説得するプロセスです。特にファクタリングでは、債権の真実性・回収ルート・相殺や二重譲渡防止の設計が勝負所。結論を先に、根拠は一次資料で裏付け、想定外に備えたトリガーと代替策を明示する――この3点を押さえれば、承認率とスピードは確実に上がります。今日からの起案に、ぜひ本ガイドを活用してください。

この記事の監修者

平松 樹 （ひらまつ いつき）

資金調達アドバイザー／元メガバンク法人営業・審査担当

金融実務20年以上。メガバンクで法人融資・審査・再生支援を担当後、独立。中小企業の資金繰り改善に特化し、請求書買取（ファクタリング）・ABL・リスケ・補助金活用まで一気通貫で支援。建設・運送・IT・医療など500社超の案件を伴走し、累計支援額は数十億円規模。入金サイト長期化や赤字決算・債務超過局面でも、債権譲渡禁止特約や民法改正（債権法）への実務対応、与信・反社/不当条項チェック、適正手数料レンジの見立てまで具体策を提示。安全性・適法性・スピードのバランスを重視し、「即日資金化」と「継続的な資金繰り安定」の両立を設計するのが強み。

所属：ファクタリングナビ