案件完了とは？ファクタリングや金融業界で押さえるべき意味と手続きのポイント

金融の現場で使う「案件完了」とは—意味・使い方・実務のチェックポイント

「案件完了って、いつを指すの？」——ファクタリングや銀行、為替の実務に触れ始めると、必ず耳にするのがこの現場ワードです。ところが、部署やサービスごとに「完了」の基準が微妙に違うため、はじめは戸惑いやすい用語でもあります。本記事では、初心者の方にもわかりやすく、「案件完了」の定義、現場での具体的な使い方、工程ごとのチェックポイントまで整理。読み終えれば、社内外のコミュニケーションで迷わず使い分けられるようになります。

業界ワード（案件完了）

定義

「案件完了」とは、特定の案件（取引・契約・融資・回収など）に紐づく一連の実務プロセスが所定の基準まで達し、残タスクがない（または運用上クローズ可能な最終状態に達した）ことを指す現場ステータスです。完了の基準は業務領域によって異なります。例えば、ファクタリングでは「資金実行・債権回収・精算まで終え、書類・システムもクローズ済み」、銀行融資では「契約・実行・返済完了（または期中終了処理）・書類保管まで完了」、為替では「約定済みの取引が価日で決済され、照合・計上まで完了」などが典型です。要するに、現場で「もう未処理の仕事がない」状態を、規程に則って確定させるための合言葉が「案件完了」です。

現場での使い方

言い回し・別称

現場では次のような言い回しがよく用いられます。意味は似ていますが、会社・システムによりニュアンスが微妙に異なります。

• クローズ（Close/Closed）
• クローズド（Closed）
• 完了処理・案件クローズ・クローズ処理
• 引き渡し完了（与信→営業、営業→バックオフィスなどの工程境界で）
• 精算完了（主にファクタリング）
• 決済完了（主に為替・トレード）
• 完済・解約完了（主に融資）

使用例（3つ）

• 「本件、債権回収と精算まで済んだので、本日時点で案件完了にします。」
• 「為替は価日で資金決済が通り、照合もOK。バックも記帳済みなのでクローズで問題ありません。」
• 「融資は完済証明書の発行まで完了。担保の抹消書類も送付済み。システム側も完了処理に進めてください。」

使う場面・工程

「案件完了」は、案件のライフサイクルの最終段階で宣言されます。どの工程までを完了基準に含めるかは、社内規程・監査基準・サービス特性に左右されます。

• ファクタリング：審査→契約→資金実行→債権回収→精算→書類・データ保管→案件完了
• 銀行・貸金業：与信審査→契約→実行→返済（または期限到来）→完済・解約→担保関係処理→案件完了
• 為替・トレーディング：約定→マッチング（確認）→価日決済→会計計上→照合完了→案件完了

関連語

• 成約（ディール成立）：合意・約定が成立した段階。完了のさらに手前。
• 実行：資金の貸付・買取・送金など、実体的な資金移動が生じる工程。
• 回収・精算：回収金の受領、差引計算、手数料・利息の確定処理。
• 決済（Settlement）：為替・証券などで資金・証券の引渡しが済むこと。
• アーカイブ：案件データ・書類を保存し、運用から外す最終処理。

ファクタリングでの「案件完了」チェックリスト

ファクタリングにおける「完了」は、単に資金を渡した時点ではありません。回収・精算・保全解除・記録保存まで一通り済んで、初めてクローズとするのが一般的です。以下は実務でよく用いられるチェック観点です（会社ルールにより増減します）。

• KYC/CFT（本人確認・反社チェック）の完了記録が整備されている
• 契約一式（債権譲渡契約、基本契約、個別契約等）の差し替え・押印・締結完了
• 印紙・収入印紙税の対応履歴が正しい
• 債権譲渡登記（必要な場合）の完了と登記情報の保存
• 債務者への譲渡通知または承諾書の取得・保存（スキームにより異なる）
• 資金実行（入金経路・名義・金額）の記録と会計仕訳が一致
• 回収金の入金確認（消込、入金消込表の整合性）
• 手数料・買取代金・調整金を含む精算計算の確定と相手先への明細送付
• 差額の支払・返金処理（過不足金の精算）
• 未回収・遅延・差戻しがないかの最終確認
• 保全措置（登記・通知）の解除要否の判定と必要措置
• 会計計上、税務処理、売上・コスト認識の締め処理
• 案件書類・メール・チャットログ・通話記録の保存（社内規程に従う）
• システムの最終ステータスを「完了/クローズ」に更新し、担当者を解放

ポイントは「回収と精算が終わり、証跡が残っていること」。実務では、債務者の入金消込と会計計上がズレやすいので、最終照合を丁寧に行うとトラブルを防げます。

銀行・貸金業における「案件完了」フロー

銀行や貸金業では、融資案件の「完了」は完済（または繰上げ返済・期限到来）をもって到達するのが基本です。付随する担保・保証の処理が含まれる点が重要です。

• 与信審査・稟議→契約書締結→実行（貸付金の交付）
• 返済期中管理（条件変更があれば履歴管理）
• 完済または期日弁済の終了確認（利息・遅延損害金の清算を含む）
• 担保関連の抹消や解除（抵当権抹消書類の作成・交付など）
• 保証の解除通知（保証会社・連帯保証人への通知が必要なケース）
• 完済証明書の発行・交付履歴の保存
• 会計・税務処理の締め、監査用証憑の整理
• システムで案件ステータスを完了へ、台帳をアーカイブ

期中での「実行完了」と「案件完了」は別物です。実行はあくまで開始点、完了は終了点。監査やコンプライアンスの観点では、担保・保証の解除手続きと証跡保存まで含めて初めて「完了」です。

為替・トレーディングでの「案件完了」の意味

為替（外貨送金、FX、スポット取引など）では、約定だけでは完了ではありません。価日（Value Date）での決済と、その後の照合・会計計上までが完了の範囲に含まれます。

• 約定（Trade Execution）：条件が固まるが、まだ決済前
• マッチング（Confirmation）：相手方との内容照合（SWIFT等）
• 価日決済（Settlement）：Nostro/Vostro口座での資金決済
• 会計計上（Accounting）：為替差損益・手数料の認識
• 照合・例外解消（Reconciliation）：差異・未決の解消
• 案件完了（Close）：未処理なしの状態に確定

デリバティブやヘッジでは「建玉解消（ポジション・クローズ）」と「案件完了（決済・会計・照合まで終了）」がズレることがあるため、システム上の定義をチームで共有しておくと混乱を避けられます。

よくある誤解と注意点

「完了」と言っても、内部の定義が甘いと後日やり直しになることがあります。次の点に注意しましょう。

• 完了宣言が早すぎる：実行直後にクローズしてしまい、回収・精算・抹消が未処理のまま残る
• 付随処理の見落とし：登記の抹消、解除通知、完済証明、精算明細の送付など
• 証跡不足：口頭合意のみで書面・データ保存が乏しく、監査や紛争時に不利
• 会計・税務のタイミングズレ：売上計上、手数料認識、外貨換算差の処理遅延
• 個人情報の取扱い：クローズ後のデータ保管・マスキング・破棄の基準が不明確
• システムと現場の乖離：現場は終わっているつもりでも、台帳やステータスが未更新

「完了＝後工程の負債ゼロ」を合言葉に、チェックリスト運用を徹底するのがコツです。

コンプライアンスと記録の要点

金融実務では、案件完了にはコンプライアンス面の「締め」も含まれます。法域や業態で要件は異なりますが、一般的には次が重要です。

• 本人確認・反社会的勢力排除の記録保持（更新履歴が追えること）
• 契約書・同意書・通知書の保存（保存年限・改ざん防止）
• 電子取引データの真正性・可視性・検索性の確保（社内規程や関連法令に準拠）
• アクセス権限・ログ管理（誰がいつ何をしたかが追跡可能）
• クレーム・苦情・不備対応の記録（是正措置まで含めて保管）

法律名や保存年限は業態・国・規模により異なるため、自社の監査・法務・コンプラ規程を必ず参照してください。

進捗管理・システムでの表記と運用

案件管理システムでは、ステータスを段階的に運用するのが一般的です。

• 例：受付→審査→可決→契約→実行→回収（決済）→精算→完了→アーカイブ
• 営業向けKPI：成約率・実行率・完了率（クローズ率）を分けてモニタリング
• バックオフィス：未消込一覧、未抹消一覧、監査指摘未是正一覧などをダッシュボード化
• 英語UIの表記例：Open / In Progress / Executed / Settled / Closed / Archived

「Closed」と「Archived」を分ける運用にすると、完了後の一定期間は再開・訂正に対応しやすく、最終的にアーカイブで固定化できます。

英語メール・チャットでの簡易フレーズ

海外カウンターパーティや外資系の社内連携では、次の表現が便利です。

• The case is now closed. All settlements and reconciliations have been completed.
• We have executed, settled, and booked the transaction. Please mark it as closed.
• Final statement attached. No pending items. Proceed to archive, please.

「settled（決済完了）」と「closed（案件クローズ）」を分けて書くと、誤解が少なく実務的です。

ショートガイド：領域別「案件完了」早見表

混同しやすいポイントを、領域別に一言で押さえておきましょう。

• ファクタリング：回収・精算・証跡保存まで済んでクローズ
• 融資：完済確認と担保・保証の解除、証明書発行まで済んでクローズ
• 為替：価日決済＋会計計上＋照合まで終わってクローズ

いずれも「最後の一手（精算・抹消・証跡）」が抜けやすいので、チーム内の定義共有が鍵です。

ケーススタディ：ありがちなつまずきと対処

実際の現場で起きやすい課題と、簡易的な対処法を示します。

• 回収後の精算差額が合わない：入金通貨、手数料控除、源泉徴収、為替差の考慮漏れが典型。明細書式を標準化し、相手先確認を仕組化。
• 登記抹消が遅れる：担当と期限の見える化、登記関連のToDoを案件テンプレに組み込み。
• 完了メールの言い回しがバラバラ：定型テンプレを用意し、関係者（営業・審査・管理・法務）をCCする運用。
• システム更新漏れ：自動ワークフローで完了条件にチェックリスト必須化、未完了アラートを週次配信。

ミニ用語辞典：周辺キーワード

• 案件番号：案件を一意に識別する管理番号。完了後の検索軸にもなる。
• エビデンス（証憑）：意思決定・実行・照合の証拠となる資料やログ。
• 消込：入金と請求・債権の突合処理。未消込があると完了に進めないのが通例。
• 期中管理：完了前に発生するモニタリング・条件変更・延滞管理など。
• レポーティング：案件の状態を定期報告。完了件数・未了件数は重要な指標。

まとめ

「案件完了」は、単なる言い回しではなく、金融実務における「未処理ゼロ」を保証する重要なステータスです。領域ごとに完了の射程は違いますが、共通するのは「決済/回収」「精算」「抹消/解除」「会計/照合」「証跡保存」「システム更新」という6点セット。この記事のチェックリストとフローを社内の定義に当てはめれば、完了判断のブレを減らし、監査・顧客対応の品質を底上げできます。明確な基準と丁寧な記録で、安心して「案件完了」と言える運用を整えていきましょう。

この記事の監修者

平松 樹 （ひらまつ いつき）

資金調達アドバイザー／元メガバンク法人営業・審査担当

金融実務20年以上。メガバンクで法人融資・審査・再生支援を担当後、独立。中小企業の資金繰り改善に特化し、請求書買取（ファクタリング）・ABL・リスケ・補助金活用まで一気通貫で支援。建設・運送・IT・医療など500社超の案件を伴走し、累計支援額は数十億円規模。入金サイト長期化や赤字決算・債務超過局面でも、債権譲渡禁止特約や民法改正（債権法）への実務対応、与信・反社/不当条項チェック、適正手数料レンジの見立てまで具体策を提示。安全性・適法性・スピードのバランスを重視し、「即日資金化」と「継続的な資金繰り安定」の両立を設計するのが強み。

所属：ファクタリングナビ